その頃観測船ヴィマーナでは・命を巡るマナの輪から外れると
この報告会で議論されている低温のマナはいなくなったサピエンスではなく、白いマナが取りこぼした禁忌のマナの残骸、欠片です
観測船ヴィマーナではマナの分析、実験が続いていた。
今回持ち帰ったマナとアベストロヒが撮影したごく低温の渦現象を解析したところ、ミアキスヒューマンだけが水晶を始めとする鉱石に封入出来る通常タイプのマナ他にもう一種、相反する性質を持ち、極めて低温の現象として観測される低温のマナの存在が明らかになった。
この低温のマナはマナでありながら、生き物の成長を促したり、治癒を助けることはない。むしろ、逆の作用を引き起こす。ヴィマーナのネオ・ミアキスに低温のマナに酷似した低温渦を作成し彼らに近付けると、どの個体も元気が無くなった。陰鬱な気持ちになると訴えるものや、ヒステリックな感情を露わにするものもいた。
現地調査隊ナブーのメンバーは分析、実験結果の報告交換の場を設け、現在エデンに向かって降下中のアベストロヒ隊長を除いた全員が一堂に会していた。
「推測の域を出ないけど、この低温現象は、彼らが使うマナに干渉するんじゃないかな。あの時観察した特殊対象の行列は、クレーター痕を飛び越えるためにかなり特殊なマナを使っていただろう?」
議長の説明を受けて、メンバーの一人が隊列と接触した時のスライドを何枚か提示した。行幸の護衛隊が海のマナを消滅させていた時の画像だ。
「だから、彼らはシャイヤー湾でマナを播いていたのね」
別の誰かのつぶやきに、その場にいるいる者たちがなるほど、と感心したように頷く。
「そしてこれも完全に憶測の域をでないけれど、このマナというのはエデンの生体エネルギーのような存在ではないか、とアベストロヒは仮定している。僕も同じ考えだ」
そこで議長は言葉を切ると、スライドに簡略化した食物連鎖の図を書き示した。植物を動物が摂取し、その動物を更に上位の補食動物が食べ、最後に死んだ生き物が土に還る。
「我々が知る他星系の生命体で、比較出来る対象は地球の生物しかないから、そうだと断言することは控えるけれど、肉体の成長、維持、怪我の補修、病気からの回復。生存のために効率の良い栄養補給として生き物を捕らえて食べる。我々はこの食物連鎖を自然の摂理としてエデンでも同様に行われていると考えてきた。しかし、このエデンに於いては、ひょっとしたら食物連鎖の他にマナの連鎖があるんじゃないかと考えた」
議長が、食物連鎖の図にもう一つ、一巡するよう輪を書き加え、マナの流れ、と補足を加えた。
「そして、それが何らかの原因で連鎖の輪から外れると、通常のマナと対消滅する時まで低温現象として残り続ける」
書き足したマナの流れから外れる向きの矢印を付け足し、矢印の先に黒いぐじゃぐじゃの丸を描き、低温現象と記す。
「じゃあ、シャイヤー湾の低温現象って」
「大勢死人が出たということになるけど、そんな記録はない」
「逆だよ。あるじゃないか、我々側の問題で記録出来なかった期間が」
「あ、」
「そう、彗星のニアミス。おそらくサピエンスの数が激減したのは、ニアミスの隕石が原因と考えるのが自然だ」
「ですが、議長。なぜそのような結論を」
問われた議長はうなだれ、溜息を吐く。
「残念な事にナブネイドだけれど、撮影された彼の状態と低温現象のマナと、特徴が酷似しているんだ」
現地調査隊ナブーのメンバーの顔から血の気が引いた。ナブネイドはヴィマーナでの環境に適応し、マナを見る能力を失ったネオ・ミアキスというだけで、基本的には地上のミアキスヒューマン達となんら変わりはない。
全員が理解した。だから、議長はアベストロヒ隊長が不在のタイミングで報告会議を行ったのだ。
そこに、管制室から「アベストロヒがシャイヤー湾上空に到達した」と報告が入った。
「この議題は、アベストロヒ隊長が戻って来るまで保留にしましょう」
この場にいる誰もが、議長の見解が間違いであってほしい、そう願っていた。