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ロータス旅行団~出生不詳JKの異世界冒険譚~  作者: 景少佐
 ERSTER AUFZUG:Timelineの分れ
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#08 考察

毎週金・日、15時~20時の間に投稿予定

 なんとか十七年に及ぶ彼の人生における最大の恥から立ち上がったリコは、転んだときに落とした短剣を拾い上げ、倒した食人族たちを見やる。


 ――やはりだ。俺が剣で頭を突き刺した奴は、身体がどんどん風化していってる。錆び付いて腐食した金属製の機械がボロボロとその組織を崩壊させていくように。多分、この現象がこいつらにおける「死」なのだろう。だとすれば、こいつらは人間ではない、間違いなく。というか、この世の生物なのかも怪しい。恐らく世界中どこを探し回っても、こんな死後の現象を起こす生き物はいないだろう。カニバリズムしかり、こいつらの死に様しかり、本当にここは地球か?


 短剣で頭を刺された食人族が消えていく一方で、ケイが岩で頭を殴りつけた方は消えていく様子がなかった。頭に傷こそ付いていれど、短剣で刺されるよりはダメージが小さかったのだろうか。普通の人間なら、あんなもので頭をガツンとやられたらひとたまりもないだろうが。


「なんなんだ、こいつら。砂山みたいに崩れていくぞ」


 と、崩壊する食人族の側にしゃがみ込み、じっくりと観察していたケイが呟く。


「多分、この現象がこいつらにおける死なんだ。だが、これは常識的に考えて有り得ないことだ」


 そうケイに言いながら、リコはまだ崩壊していない食人族の頭に剣を突き刺してみる。ちょうど目と目の間辺りを狙って。


 すると、彼の予想通り、食人族の身体が崩壊を始めた。今度は、もう一体、ケイが倒した方の心臓を狙って突き刺してみる。崩壊が始まらない。何度かそれらしき場所を突いてみたが駄目だった。それどころか、刺した箇所が徐々に治っていっているような気がする。諦めて先ほどと同様の場所を狙って刺すと、今度はあっさりと身体が崩れていった。


「ケイ、多分だが、こいつらの弱点は頭だ」


「頭、か。あれか、よくある、ゾンビは頭を撃たれたら死ぬ的な?」


「多分な。岩で殴った程度では脳震盪的な何かを起こす位で死には至らなかった。でも、剣で刺したことで確実に弱点が破壊されたんだろう」


「フムン。……心臓とかは駄目なのか?」


「ああ。何度か刺してみたが、死ななかった。それどころか、だんだん回復していったようにも見えた」


「そりゃ本当か? だとしたらかなり厄介な相手だぞ、これは。弱点を壊さない限り倒せない」


「そうだな。……もっと武器が欲しいところだ。短剣一本じゃ心許ないし、なによりケイ、お前もなにか武器が要るだろう」


 今のところ、武器はリコの持つ短剣一本だけだ。銃は二人で一挺の状態だったスターリングラード攻防戦時のソ連軍より非道い。


「剣か、あわよくば弓矢が欲しいな。わたしなら確実に一発で頭を射抜ける」


「そういえばお前、弓道部だったな」


 ケイのその発言は、決して誇大表現ではなかった。事実、彼女は弓道で一度も的を外したことがない。射れば必ずど真ん中を射抜いていた。それに、必ず射抜けるのは静止目標だけではない。なんの機会でだったかは覚えていないが、クレー射撃用の宙を舞う円盤を五回連続で射抜いたこともある。弾が飛散する散弾銃ではなく、しかも銃より圧倒的に弾道特性が悪い弓矢で、だ。なお、驚異的な命中率を誇っているのは弓だけでなく、銃などに関してもそうである。


「お前が弓矢を持ってくれれば心強いよ。お前の命中率は驚異的だからな。……どんな練習をすればそんな化け物になるんだか」


「なに、そんな難しいことじゃあないだろう。矢を的に向け、『ここだッ!』と感じた時に弦を引く手を離せばいいんだ。あとは矢が勝手に飛んでいき、的を貫く」


 と、ケイが、なんということはない、さも当たり前のように言う。

 

「それが常人には厳しいから化け物って言われるんだよ」


 自分の腕が如何に異常なのかをまるで自覚していないのだからより恐ろしい、と、ケイの発言を聞いたリコは改めて思った。そんな当たり前に「誰でもできますよ」という風に言われても、もしその通りだったら弓道というスポーツは成り立っていないのだ。皆的を外すことがないのだから。勝敗など付くはずがない、誰かのケアレスミスを望む以外に。


「それで、何の話だったか。……ああそうだ、武器の調達云云だ。武器もそうだが、いま俺たちは圧倒的に物資が足りてない。それはなんだ?」


 リコが腕を組み、迫真とした顔でケイに問う。

 

「食糧と水、か?」


その通り(È giusto)! いくら強そうな武器があったとしても、それらがなければ飢えと渇きであっと今に()()()()()の時間だ」


「だが、どうやって確保する。お互いサバイバル経験なんてないだろう。それとも人里を探し、乞食の様に頭を地面に擦りつけて水と食べ物を恵んでもらうか?」


「安心しろ、ケイ。確かにサバイバル経験は無いが、俺にはディスカバリーチャンネルなどから得た知識がある。それに、この辺りに人がいるかはわからんし、いたとしてもコミュニケーションができるかわからん」


「フムン。まあ、ジンバブエドルの通貨価値のV字回復位は期待するよ」


 親友から多大な期待を寄せられたところで、リコは取り敢えず一旦飛行機に戻ろうと言い出した。というのも、機内には機内食やお菓子、ドリンクなどがいくらかあるだろうという考えだ。その他にもなにか使えそうな物があるかもしれない。


「――というわけで、飛行機に戻るぞ」


「確かにお前の言い分は正しいよ。だけど、気乗りしないな。まだあの甲冑男が彷徨いているかもしれないし、そうでなくても悲惨な最期を遂げた仏様がゴロゴロ転がっている」


「嫌なら俺一人で捜す。剣をやるからお前は外で待ってるといい」


「いや、わたしもやるよ。……一人でモタモタやっていて夜になっちまったらたまらないからな」


「じゃ、決まりだな」


 そうだ、今まであまり気にしていなかったが、もう時刻は午後だ。あと数時間もすれば日が暮れ、真っ暗になる。そうなれば食人族以外に、原生の肉食獣などに襲われる危険性も出てくるのだ。


 悠長にはしていられない。

お読みいただきありがとうございます。


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