#06 犠牲者
毎週金・日、15時~20時の間に投稿予定
ケイとリコは、飛行機の近くに石で舗装された道を見つけた。近くに舗装路があったのはラッキーだったと二人は思う。おかげで見通しの悪い、どんな虫や獣がいるかもわからない草むらを掻き分けて歩く必要がなくなる。
二人はその道を、先ほどの甲冑男のような奴が他にもいないか、細心の注意を払って進んだ。
「――それにしても、いったい全体どうなってやがるんだ……」
歩きながら、リコがため息交じりにぼやく。
「うたた寝している間に飛行機が墜ちたかと思えば、今度は食人族騒動。ここはいったいどこなんだ?」
「まったくだよ。せめてスマホの電波が通ってくれればいいんだが」
と、ケイが使い物にならないスマホを手に取り、やれやれと振って言う。
「あの賭けはまだ有効?」
「当たり前だろ。お前が言い出したんだ。まあ……無事日本に帰れたら、という条件が追加されたがね」
「泣けるぜ」
空を見上げると、太陽がほとんど真上に登っていた。が、季節が冬ということもあって――あくまで日本やアメリカが、である。ここの季節が冬かはわからない――暑すぎるということはなかった。微風。制服のブレザーを着ていてちょうどいい、もっとも過ごしやすい位の気温だ。こんな事態でなければピクニックをするのに最適だっただろう。
道の両側はどちらも深い森が広がっており、人工物と思しきものは見当たらない。ただただ同じ景色がずっと続いていた。鳥のさえずりがしばしば聞こえてくるが、しかしどれも聞いたことのない鳴き声だった。
ケイは歩きながら、今までの出来事を頭の中で整理する。あまりにも常識外れの事件が起こりすぎた。ここで少し整理しておかないと、脳が処理限界を超えてオーバーヒートしてしまいそうだと彼女は思う。
まず、気付いたら飛行機がここに墜ちて、前半分が無くなっていた。それから担任が外に行ったきり戻ってこず、副担任と生徒何名かが突如として現われた人喰い男に殺された。私たちも危ない目に遭ったが、なんとか生き延び、いまこうして見知らぬ土地の道を歩いている、という訳だ。
しかし、飛行機が墜落したにしては、あまりにも綺麗すぎないだろうか。常識的に考えれば、機体が真っ二つになるような大事故で搭乗客も内装も傷一つ付かない訳がない。それに、外に出て初めてわかったのだが、外側も非常に綺麗だった。墜落して木の枝に擦った跡や、土なども一切付いていない。文字通り無傷なのだ。機体の前半分が無いこと以外は。それに断面も、折れたと言うには抵抗がある。ポッキリ折れたというよりは、なにかに切断されたと言った方が適切だろう。
外の様子も、そうだ。巨大な鉄の塊が滑った痕跡がまるでない。機体とぶつかって倒れた木も、えぐれた地面も見受けられなかった。これは、常識的に考えてあり得ないことだ。機体も、自分たちも、周りの環境も、何一つ墜落事故の痕跡を残していない。こうなると、果たしてあれを墜落事故と呼んで良いのか疑問である。まるで、機体の半分だけがあそこにポッとスポーンしたかのようだ。あそこに空間に飛行機が、突如として出現した。
ケイは自分の疑問を、隣を同じ速度で歩くリコに問いかけてみた。彼は言われるまであまりそういうことを意識していなかったようだ。だが、彼女に言われて彼もこの事故に疑問を抱いて同意した。
「――確かに、よくよく考えれば妙だ。こりゃあ、もしかしたら俺たちが思っている以上に厄介な事件かもな」
と、リコがウムゥと唸って言う。
「前半分がどこに行ったか知らないが、飛行機が一機行方不明となれば大ニュースだろう。多分もう捜索が始まっていると思うが、早く来てくれることを祈ろう」
「捜索、か。だったら広いところを見つけ、そこにSOSの字を描いて燃やすか?」
「それはアリだ。でも、あるかな、そんな場所。それに、またさっきような奴に出くわす可能性もある」
「そうなんだよなあ」
それから二人の会話は、あの甲冑男の正体に移っていた。議題はその正体。少なくとも常識の通用する相手でない、ということはわかっているのだが。
「ありゃいったいなんなんだ。本当に人間か、あいつ?」
と、リコが眉をひそめ、特別誰に、という訳ではないが問いかける。
「人間と言うより、獣と言った方が適切だろうな。腹を空かせた肉食の猛獣だ」
「まるでゾンビのようだったぜ、あれ。映画とかでよく見るような」
「ゾンビ、か。もしそうだとしたら、じゃあここはなんだ。某ロゴが傘の製薬会社が所有している秘密の実験場だというのか?」
と、ケイがふざけ半分で言う。
「それならエンディングは大爆発による隠蔽工作で決まりだな」
「ハハハ……おふざけはここまでだ」
「なんだよ、お前もノッた癖に。――それに、あいつの格好もおかしかったな。まるで中世の騎士だ」
リコにそう言われ、確かにあの男はそれらしき物を着ていた、と、ケイはあのときの情景を思い出す。
「今じゃまるで見ない格好だったな。ここいらでコスプレ大会でもあったか、それとも映画の撮影か」
しかしそうだとしたら、あの男が人を何人も食い殺した説明が付かないことを、二人は相手に言われるまでもなく理解していた。
「ここの原住民が人喰い族で、かつああいう格好をする文化を持っている、ということか。いや、さっぱりわからないな。そんな野蛮な野郎が甲冑なんて高度な物を作れるかね」
と、リコ。
「あるいは、一番信じがたい説だが、そういう格好が当たり前の時代にタイムスリップもしくは異世界転移し、そこでは人を食う風習がある、またはそう言う病気が蔓延しているのかもな」
「ハハハ……そうだったらもう笑うしかないな」
などと様々議論しながら歩いていると、前方に何かがあるのを二人は認めた。
「おいケイ、あそこになにかあるぞ、見えるか?」
「ああ、見える。あれは――なにッ!?」
ケイはその正体を知り、驚愕した。彼女の目には二人の人間が映っていた。一人が地面に倒れ、猛一人がその上に覆い被さっている。そして、倒れている方は二人がよく知る人物であった。
「そんな……先生が」
彼らのクラスの担任。前方で倒れているその人は、紛うこと無き彼であった。そして彼に覆い被さっている人物が、倒れた彼を喰っているように見える。
「ああ、今日は最悪の一日だ」
副担任に続き、担任までもが例の食人族に喰われている。二人がもう見たくないと思っていた光景が、目の前には広がっていた。
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