#01 作戦前夜
見よ、ニグレド=黒化だ
個を覆う不純物が燃え、内なる古の秘密が解け出す
ドン・ホセに連れられて行った村より帰還してから一週間ほどが経過した。この間でわたし達は完全に調子を取り戻し、何事もなかったように過ごすことができるようになっていた。
しかし、いま思い返してみてもあれは非道い日だった、とわたしはソファに腰掛け、コーヒー片手に新聞を眺めながら思う。最初はみんな何気なくあの村に行ったのだ。それがグールと魔物の群れに襲われ、謎に異形の怪物化したホセに襲われ、それを凌いだかと思いきやナチス親衛隊の兵士とメカに襲われ……散々な日だった。いや、その前もなかなかに非道かったような気がする。あの男はきっと疫病神か何かだったんだろう。もうあんな奴には関わりたくないものだ。
「そういえばリコ。前エゼキエルさん、アデレー城の攻略にわたし達も参戦するよう言ってたがいつになるんだろうな。もうそろそろ一週間経つが」
「ああ……そういえばそんなこと言ってたような……。正直面倒くさくなってきた。今からでも降りれねえかな」
「お前なあ……折角元の世界に帰る為の手掛りが分かるかもしれないチャンスなんだから」
「分かってるよ、そんな冷たい目で見るなって。でもさあ、お前にも、あるだろ? 直前になって面倒くさくなるやつ」
「まああるけどさあ――」
などとわたし達が話していると、ヒカリが一通の手紙を手にリビングへと入ってきた。
「なにが面倒くさい、ですって?」
「いや、何でもない。なにも面倒くさくなんてないぞ。――それより、それは?」
手紙は封筒に厳重に入れられていた。
「エゼキエルからね。たぶんこの間の件についてでしょ」
封を開け、中の手紙を取り出す。と、そこには概ね以下の内容が書かれていた。
明日の一○○○時にエッセンハイム駐屯地でこの間話した奴に関する作戦会議をするから間に合うように来てくれ。門の警備兵にこの手紙を見せればたぶん入れてもらえるだろうから、云云。
そういうことでわたし達は翌日、エッセンハイム駐屯地を訪ね、エゼキエルによって作戦会議室の中に案内されていた。会議室には荘厳な鎧に身を包んだ彼の部下と思しき騎士やヴァルドリア帝国陸軍の士官らが勢揃いしており、しがない冒険者風情とは格が違うという雰囲気をしていた。
「諸君、紹介しよう。彼らが先日ヴォルース教団と思しき集団に接触し、見事にそれを撃破してくれた冒険者だ。そして今回の作戦を共に遂行する仲間でもある。失礼のないように」
と、エゼキエルがわざわざ皆の注目になるような紹介をしてくれた。お陰で全員の鋭く厳しい視線が容赦なく突き刺さってしかたない。
「改めて今作戦の目的を説明する。この城、フォン・アデレー城は長らく誰も住み着いていない廃城だ。そこに最近、怪しい人物が頻繁に出入りしているという情報が入り内部を偵察したところ、ヴォルース教団と思しき集団が生物実験を行っていることが判明した。人間が何人か捕らわれていることも確認されている。ここ最近行方不明となった者もここにいるかもしれない。今作戦ではこの城を制圧し、実験を止めさせる。それから捕らえられていた人間がいたら救出するぞ」
フォン・アデレー城攻略作戦に参加するのは、バラガンダ教騎士団からエゼキエルと彼の部下二名、ヴァルドリア帝国陸軍からミルガンスキー師団所属第五八歩兵小隊、それから冒険者よりわたしとリコ、ヒカリの三人だ。
「明後日六○○時にここを出撃し、一五○○時までに城から五キロ地点に到達、そこに野営陣地を構える。翌三○○時に隠密に城に接近し、帝国陸軍に奇襲を仕掛けてもらう。その隙にわたしは部下二名と冒険者三名で城内部に潜入し、内部を攻略する」
と、エゼキエルが作戦内容を皆に話していった。
作戦会議が済むと、全員すぐさま出撃準備に取りかかった。目的地までは国軍保有の軍用トラックで移動するため、荷物――銃や食料、野営道具などなど――をすべてトラックの荷台に詰め込む。ヒカリの魔式飛行箒二機とと騎士団の個人飛行用人工馬、天馬二型三機も詰め込んだ。万が一城内に異次元洞窟を生成できるだけの魔物がおり、それに巻き込まれた場合は空中を自分の魔力に頼らずに空を飛ぶ手段が必要だった。
「こんなデカブツを抱えて城の中を探索するのか?」
と、リコがエゼキエルに聞く。確かに必要性は分かるのだが、もし異次元洞窟に巻き込まれなければただの大きな荷物になる。そんなものを抱えたまま実際に城の中を歩き回れるのかはわたしも疑問だったが、それはすぐにエゼキエルによって消え去った。
「いや、城内ではこれを使う」
そう言って彼は一つの布袋状のものを懐から取り出して見せた。
「これは?」
「亜空間収納袋。魔法仕掛けの物入れでね、天馬二型一機くらいなら入れることができる。向こうに着いたらこれに入れて持ち運ぶんだ」
「だったら最初からそれに入れていけば……」
「それが、魔法で空間を無理矢理ねじ曲げている関係で物を入れている間は袋の負荷が半端じゃなくてね。城内で過負荷によって袋が壊れたらかなわない」
「はあ……」
どうやらかなり無理をして作った代物らしい。
「それと、三人にはこれを渡しておこう」
「これは?」
「国軍で現役の騎兵用魔法杖と飛行術式付与ベルトだ。冒険者ショップで売っているどの装備よりも性能はいいと思うぞ」
魔法杖の役割は、杖に取り付けられた宝玉で魔力効率を底上げし消費魔力を抑えることだ。その軽減率は宝玉の質で決まり、宝玉の質は加工方法や宝玉の種類、磨いた時間など様々な要素で決まる。いまわたし達が使っているのはショップでもっとも安かったやつであり、その性能はたかが知れていた。そろそろ買い換えようと思っていたところにこれはありがたい話だ。
すべての準備が完了し、わたし達は兵員輸送用のトラックに乗り込んだ。全車、出撃。
お読みいただきありがとうございます。
面白いと思っていただけたなら、↓の☆☆☆☆☆を★★★★★にしていただけるとありがたいです。
またブックマークも宜しくお願いします。
本作は粗い設定の練り直しなどのため、誠に勝手ながらしばらく培養期間に入らせていただきます。設定を最適化した改訂版が完成し次第新たな作品として投稿いたしますので、そちらをお待ちください。
それではまたこんど。




