#13 急転
毎週金・日、15時~20時の間に投稿予定
あれからわたし達は街に帰還し、冒険者病院で検査や治療を受けた後に屋敷へと戻ってきた。検査に異常はなし。みな健康体だった。
屋敷に戻った翌日、ジュナイド・エゼキエルが訪ねてきた。当時の事情を詳しく聴くためだ。本来ならこういうのは各国の警察的役割を果たしている憲兵が行うのだが、特例で彼自身が来ることとなった。
「それで、あの日はいったいなにがあったんだ?」
彼が粗茶を一口飲んだのちにそう聞く。
わたしたちはあの日にあったことを洗いざらい話した。あの廃村が緊急クエストで救助したドン・ホセの故郷だったこと、彼の頼みでそこに向かったこと、廃村で餐鬼と魔物の群れの襲撃を受けたこと、餐鬼に殺されたホセが怪物に成り果てて襲ってきたこと、SSのシンボルを付けた兵士が乱入してきたこと、すべて。
「餐鬼と魔物が群れを成して、か……。聞いたことない現象だな」
「俺とケイは……実は二度目なんだ、そういうこと」
「ほう?」
「俺たちがここに来て冒険者になる前は、ドワーフの集落で保護されていた。その集落も同じような襲撃を受けたんだ。黒嵐の狼の人間と邂逅したのもそのとき」
エゼキエルは熱心なバラガンダ教信者ではない。であればドワーフのことを打ち明けてもいいだろうということは、事前にヒカリと相談して決めていた。
「そのとき現れた黒嵐の狼の人間は、なにをしていたんだ?」
「集落を襲った餐鬼とグールを撃退して、その組織に俺たちを勧誘してきた。最初は入ってもいいかと思ったが、話を聞いていくうちにその正体がナチスだと判明して、答えを先延ばしにしてその場は解散したよ」
「フムン。――その、君らの言う、ナチス親衛隊だったか、のシンボルはこれで合っているのか?」
そう言ってエゼキエルは、あの日墜としたSS兵士から剥ぎ取った連中のシンボルを取り出して尋ねた。
「ああ、間違いない」
リコのその答えを聞き、エゼキエルはしばし考え込む素振りを見せた後に、ある一つのことをわたし達に打ち明けた。
「実は、我々騎士団もいま、とある組織を探っているんだ」
「組織?」
「異端者の集団……邪教集団と言ってもいい。非バラガンダ教徒で、我々バラガンダ教徒や国家に害を成すと考えられる組織だ。我々はそいつらをヴォルース教団と呼称している」
「さいですか……」
「それで、そのヴォルース教団のシンボルと思しきものが……これだ」
そう言って彼は懐からもう一つのシンボルが書かれた紙を取り出し、わたし達に見せた。
「な……ッ、これは……」
そのシンボルは、ナチス親衛隊及び黒嵐の狼のそれとぴったり一致していた。雷模様にも見えるSの字が二つ。間違いない。
「やはり、これはナチス親衛隊とやらのマークで間違いないか」
「ええ、確かに。――ヴォルース教団は、具体的にどんな容疑なんだ?」
「餐鬼の製造及び拡散だ。餐鬼は普通の魔物とは明らかに異なる存在だ。そんなものがある日突然ポッと出現することは考えにくい。だが人為的に作られたものだったら、十分有り得る話だ」
「だけど、その証拠はあるの?」
と、今度はヒカリが尋ねる。
「ああ。我々は今、一つの廃城に目を付けている」
「廃城だって?」
「ああ。ここから西方に八○キロほど離れた場所、アデレー半島の先端に建てられたフォン・アデレー城だ。大昔にその地方を治めていた貴族の根城だったんだが、その貴族が滅んでからは誰も住み着かずに放置されていたんだ。だが最近になってそこに出入りしている人たちがいるという通報が相次いでいる。最初は野盗だろうと思って討伐隊を向かわせたが誰一人帰ってこなくてね、それで密偵を送り込んで中を調査した。その結果、そこに多数の魔物や人間が監禁されているのが確認された。餐鬼らしき化物も確認されている」
「ああ……そりゃ完全にクロだな。カラスよりも黒い」
「それで、ここからが本題だ。我々は近々そこに殴り込みをかける予定でいる。そのとき、君たちにも同行を頼みたい」
突然のエゼキエルの告白に、わたし達は一瞬固まってしまった。たぶんそういうのは機密情報だろうし、わたし達、特にヒカリとはいくら関わりが深いといってもあくまで一般人だ。騎士団でそれなりの地位にいる者が、そんな簡単に情報を漏らしていいものなのか?
「まあ、君たちが驚くのも無理はないだろう。これは本来機密事項だからな。だが、この作戦の全権は私に委任されている。だから問題はないよ。――で、どうだね」
その提案に、わたし達は断る理由がなかった。その城を制圧すれば少なからず何らかの情報が得られるだろうし、そこに元の世界に戻れるヒントがあるやもしれんのだから。
「感謝するよ。じゃ、このことは絶対に口外しないようにな。もし漏洩事件になったら君たちを逮捕して処罰せねばならないし、私もただでは済まん」
是非ともその文言を、情報を漏らす前に言ってほしかったものだ。
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