#09.5 虫・再び
毎週金・日、15時~20時の間に投稿予定
あれは確かに餐鬼だ。だが翼が生えて空を飛ぶ奴など、見たことも聞いたこともない。まさか突然変異か? 時間経過でそのように変化したというのか。
などと考えながら、私、琴吹ヒカリは空から襲来する餐鬼を相手にしていた。地上への流れ弾を考慮すると、小型魔法杖によるオールレンジ攻撃は使えない。下に仲間がいなければそんなこと気にせずぶっ放せるのだが、さすがにあっちにまで気を使いながらはできない。
そのときだった。遠方にいる餐鬼が何体か、動きを止めて墜落していくのを私は認めた。なんだ? なぜ墜ちていく。そしてその奥に見えるものは一体なんだ。黒い霧のようなものが近付いてくる。
付近の餐鬼を撃墜しつつ、私はあの黒い霧に注意を払っていた。もしかしたら新手の敵かもしれないから。そして、その予想は当たった。黒い霧から何かが私目掛けて発射された。私はそれを上昇して回避。あれは、敵だ。
だが、その正体がわからない。餐鬼ではないだろうが……そしたら魔物か? だが見たこともない魔物だ。新種だろうか。いや、そんなことを考えるのは後だ。いまは敵対されている以上、倒すことだけを考えろ。
魔法杖を構え、射撃。アルカノバレット:バックショット。が、命中の直前に黒い霧は三手に分かれ、私の射撃を躱した。どんどん距離が迫る。そしてそれが霧などではないことが分かった。あれは、虫だ。真っ黒い虫の大群だ。
――また虫か。だが、虫ならば火が有効だろう。幸い炎属性の魔物はそれなりに持っている。
そう思いつつ、持っている魔物の一体を召喚しようとしたそのときだった。急に虫の羽音がやかましく感じるようになった。それに意識を阻害されて魔物を召喚できない。
――なに、これ。集中できない。
なぜ羽音ごときにこんなにも集中力が削がれるのか。などと考えているうちに、分裂した群れの一体がいつの間にか背後に回っていた。気付いたときには既に遅く、何かを発射する攻撃を左足にもらってしまった。
――左足の感覚がない。まさかあれは、麻痺毒か。
急に左足が動かなくなったことで態勢が崩れてしまった。ただでさえ繊細な姿勢制御が求められる飛行中にこれは非常にまずい。それに羽音に集中力を持って行かれるのも状況を悪くしている。
なんとか姿勢を保とうとしているところに、虫の群れは容赦なく追撃をかけてきた。
――避けられない!
右手、右足、それから腹部にもくらった。瞬時に感覚が遮断され、どんどん態勢が乱れる。それに右手に持っていた杖も感覚がなくなったことで落としてしまった。
――これはまずい。一旦離脱するか。しかし、逃げ切れるだろうか。いや、やるしかないか。
わたしは一旦浮遊魔法を切り、身体を自由落下させる。そしてある程度虫の群れと距離ができたところで再び浮遊魔法を発動。音源から離れたことで集中力も回復した。落とした杖を操ってまだ動かせる左手でキャッチしつつ、さらに虫の群れから距離をとる。
――よかった。奴ら、飛ぶのはそんなに速くないようだ。
虫の群れから逃げつつ慎重に高度を下げ、不時着の用意。いまこの瞬間だけは冬にありがとうと言いたい、雪のクッションを用意してくれてありがとうと。これが夏場とかだったら堅い地面に身体を擦ることになっていた。
不時着。雪の粉を巻き上げて制止。それからすぐに炎のドームを展開して全身を覆い、解毒術式を開始。毒を分解していく。
――これは、針か。細かい針だ。これ一つ一つに麻痺毒が含まれていたのか。だが、これでは大した距離は飛ばせないだろう。それにあの羽音にはきっと精神操作系の力があったのだろう。あの集中力の削がれ様はきっとそういうことだ。ならばなおさら魔物を出した方がいいな。魔物は精神操作が効かないから。
追いついた虫の群れが炎のドームに突っ込んで燃え尽き、灰となって私の周りに墜ちてくる。
――解毒完了。反撃の時間だ。クソ虫共め。
わたしは炎のドームを解除すると同時に飛行魔法を発動。一気に上昇し、虫の群れの上方を占位する。それから魔物、フレイムバットを召喚。灼熱の炎の翼を持つコウモリ型の魔物だ。
「行け、フレイムバット」
フレイムバットは一直線に虫の群れに突っ込んだ。そして炎の羽でどんどん燃やしていく。それにその突進を避けても無駄だ。逃げた先を私が確実に捉えているから。
なんとか逃げ延びたばかりの虫の群れに向かってアルカノブラスト:バックショット(フレイム)を撃ち込む。先ほどとは打って変わって面白いくらいにボロボロと墜ちていく。
――これで全部か。それにしてもなんだったんだ、あいつは。帰ったら調べてみるか。
まだ餐鬼がいくらか残っている。それらを倒しに向かおうとしたそのときだった。リコがホセの名を叫ぶ声が聞こえる。その直後に、なんとも恐ろしい感覚。
急いで声がした方に飛ぶと、そこにはおびただしい魔力を放つ一体の怪物がいた。ケイとリコが対峙している。あれは私も加勢した方が良さそうだ。
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