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ロータス旅行団~出生不詳JKの異世界冒険譚~  作者: 景少佐
 DRITTER AUFZUG:冒険者業
33/42

#07 HIHOU

毎週金・日、15時~20時の間に投稿予定

 スティンガードを突破した三人は更に進み、洞窟の最深部と思しき少し広めの空間に出た。

 

「ここで行き止まり……か?」

 

 と、リコが呟く。

 

 今までの殺伐とした光景とは打って変わり、この空間は異様なまでに静かだ。その空間を見渡してみると、奥の方に誰かが倒れているのを発見した。あれが件の行方不明になった男かとケイは思う。

 

「あれ……誰か倒れてる。近付いてみよう」

 

 と、ケイ。

 

 周囲に魔物が隠れていることを考慮し、索敵しつつ身長に倒れている人の元へと駆けつけ、声を掛けてみる。

 

 倒れていたのは男性。身長はリコと同じくらいで、顔面蒼白。外傷もそれなりにある。

 

「毒にやられているわね。まだ息はあるけど長くは持たない。わたしが治癒魔法を掛けるから二人は周りを警戒してちょうだい」

 

「わかった」

 

 男の介抱は順調に進み、その間魔物の攻撃にみまわれることは遂になかった。最初は自力で動くことさえままならなかった男が、言葉を話せるくらいまでには回復した。

 

「こ、ここは……」

 

 目を覚ました男が細い声で言う。

 

「ダスタイズム洞窟の恐らく最深部よ。あなたが行方不明になったと緊急クエストが出たので救助に来た」

 

 と、ヒカリが男に優しく話しかける。

 

「あなた、名前はドン・ホセで合ってる?」

 

「ああ……」

 

「なら間違いないわね」

 

 それからホセはそれまでの寝起きのようなボーッとした様子から一変、何かを思いだしたかのようにハッと目を見開き、慌てて起き上がろうとした。が、直後に完治していない傷の痛みで顔をゆがめ、その場に倒れ込んだ。

 

「まだ動いちゃ駄目よ。傷が完治した訳じゃない。かなり深い傷だったから、悪いけどわたしの治癒魔法じゃ完璧には治せない」

 

「す、すまない……だけど、行かなくちゃ……」

 

「行く? そんな身体でどこへ? そもそもどうしてこんなところに入り込んだわけ?」

 

「願いが叶う秘宝があると聞いた。それを手に入れねば……」

 

 やっぱりか、と、ヒカリは思う。どうせそんなところだろうと思っていた。根も葉もない噂に釣られたか。

 

「そんなの噂に過ぎないわ。おとぎ話みたいな代物が実際にあるわけないじゃない」

 

「で、でも……」

 

「さっきも言ったけど、わたし達じゃ十分な治療はできない。速いとこ出て病院に――」

 

 とヒカリが言いかけたそのときだった。

 

 先ほどまで何の変哲もない暗い洞窟だった景色が一変した。無機質な岩肌は消え去り、一気に開放的な空間となる。

 

「な、なんだ!? 急に――」

 

 と、リコ。

 

「これは……異次元洞窟(ダンジョン)だわ! 面倒なことになった……」


 なんということだ。こんなときに異次元洞窟に入り込んでしまうなんて。近くに強力な魔物がいたのか。わたし達の存在に勘付いて異次元洞窟を生成したのか。


 辺り一面に人の骸骨が散乱し、地はひび割れ、無惨に枯れた草木が点点としている。それからところどころに緑色の、湯気が立ち上っているいかにも危険そうな池。人々がイメージする地獄を体現したかのような空間だ。

 

「どうする、ヒカリ。これはさすがに想定外だぞ」


 と、ケイがヒカリに問う。


「どうもこうも、この洞窟の主を倒すしかないわよ。残念ながら」


「なあ、その主ってのは、あそこで蠢いているデカい奴のことか……?」


 と、リコが地平線の方を指さして言う。

 

 彼の指す方を見やると、そこには確かに、何かがいた。モゾモゾと身体を動かし、だんだんこちらに近寄ってくる。それ以外に魔物と思しき影はなし。

 

「ええ。たぶんあいつがそうよ」

 

 幸い主と思しき影とはまだ距離があった。その間にホセを人骨の山の陰に隠し、迎撃態勢をとる。

 

「あれは……まさか、アシッドグラブロード――ッ!?」

 

 だんだんと距離が縮まり、その姿が判明してきた瞬間、ヒカリがそう一人で叫んだ。

 

「知っているのか?」

 

「知ってるもなにもあいつは――ッ!」

 

 ヒカリがそう言いかけたときだった。主の身体が一瞬キラッと光ったと思いきや、その次の瞬間、緑色に輝くビームを三人目掛けて放ってきた。三人は間一髪で左右に躱しつつ宙に上がって回避した。が、ビームが当たった箇所の地面がドロッと溶解している。

 

「あいつはアシッドグラブロード。強力な酸を武器にする最悪の芋虫型魔物よ……」

 

 アシッドグラブロード。それは体長二○メートルほどの巨大な芋虫型の魔物である。体内に膨大な量の酸を蓄えており、それを駆使して攻撃を仕掛けてくる。特に酸を圧縮しビーム状に放出する攻撃は初速も射程も連射速度も優秀であり、厄介極まりない。口器には無数の細かい牙がびっしりと生えており、赤く光る八つの目が特徴的である。

 

 ――あいつの酸の前には、私の持っている魔物はほとんど歯が立たないだろう。火力的には問題なくとも、それを当てる前に酸で溶かされるのがオチだ。

 

「各自散開! あいつの攻撃には絶対に当たらないで! 防御も考えるな、一瞬で溶かされる!」

 

 と、ヒカリが二人に叫んで言いながら、スカート内の六本の小型魔法杖を展開。メインの杖と合わせて魔法のビーム攻撃を仕掛ける。が、それらの攻撃はすべて着弾する瞬間に無効化されてしまった。

 

対魔結界アンチマジックフィールド!? クソ、厄介なことを……!」

 

 対魔結界とは魔力による外側への強い力を持つ薄い膜を展開することで魔法による攻撃をはね返す防御魔法の一つである。鎧などの装備品に付与されることがあるほか、術者や魔物が任意のタイミングで展開したりなどその使われ方は様々だ。が、この魔物のそれはどうも少し違うということをヒカリは感じ取っていた。

 

 ――こいつ、対魔結界を常時展開している。しかも体表全面を覆うように。これでは生半可な魔法攻撃は通らないではないか…… マジックハルバード――杖の先からハルバード状の魔力刃を生成した近接武器――の出力なら貫けないこともないが、あいつに接近は危険だ。ならば……

 

「ケイ、ルーナ・マルカであいつを射抜ける!?」

 

「了解」

 

 対魔結界が防ぐのはあくまで魔法による攻撃だけだ。魔法によらない武器、例えば純粋な剣や槍、矢などに対してはまったく効果がない。ルーナ・マルカを付与した矢はそしたら、どちらと認識されるのか。試してみる価値はある。

 

 ケイが矢を弓に番え、ルーンを付与する。威力は最大。限界まで引き絞り、力を溜め、一気に解き放つ。放たれた矢は空を斬り裂き、衝撃波を轟音と共に周囲にまき散らしながら猛スピードで、一直線にアシッドグラブロードへと飛んでいった。

 

 ルーンを付与された矢は対魔結界の対象外だった。矢は結界を難なく通過し、巨大なアシッドグラブロードの肉に突き刺さり、容赦なく破壊した。が、それも束の間、受けた傷を瞬時に回復されてしまった。

 

「クソ、なんて回復力だ。これに耐えるなんて」

 

 いくら威力を強化したとはいえ、あくまで一本の矢だ。その破壊力と貫通力は申し分ないのだが、加害範囲に対して獲物が大きすぎた。普通の生物相手であればそれでも失血死などを狙えるだろうが、今回の相手は魔物だ。確実に弱点を射貫かない限り、あいつは倒せない。

 

「悪い。あと二発が限界だ。魔力が持たない」

 

 と、ケイが苦い顔で言う。

 

 ルーナ・マルカは確かにその火力には目を見張るものがある。だが、その代償に付与される対象への負荷が尋常でないし、術者の消費魔力も大きい。特に力のルーンはそれが顕著だ。気安くポンポン撃てるものではない。

 

 アシッドグラブロードの動きが変化する。全身を丸め、思い切り背中を伸ばしている。

 

「なんだ、なにをしているんだあいつは……」

 

 それから背中にいくつかの穴が開いた。そこから思い切り抹茶色の霧が吹き出した。それはたちまち辺りに充満し、視界が悪くなる。

 

「それは毒の霧! 絶対に吸い込まないで。さもなくば死ぬ」

 

「なんだと!?」

 

 緑の毒の霧がどんどん広がり、三人は移動範囲が制限されてしまった。しかし止まっていれば今度は酸のビームが飛んでくるため、霧と霧の間を縫って飛び続けなければならない。

 

「クソッタレ、芋虫風情が――ッ!」

 

 攻撃を避けながら飛ぶのにも魔力を消費する。速いところケリを付けなければ魔力切れで殺られる。が、有効な攻撃手段がない。ここまでか。三人ともその考えが頭をよぎったそのときだった。

 

 アシッドグラブロードが口を大きく開け、ビームを発射しようとしているその一瞬にとある一つの弱点があることにリコは気が付いた。

 

「あいつ、対魔結界が途切れてるぞ!」

 

 咄嗟にリコがそう叫んで言う。

 

「なに!?」

 

 とケイ。

 

「ビームを撃つ一瞬だけ、あいつ丸裸になってるんだ!」

 

「でかした、リコ!」

 

 とヒカリ。

 

 あの厄介な対魔結界が一瞬だけでも途切れているのなら、勝機はある、と、ヒカリは確信した。その一瞬のうちに私の最大火力のマジックビームとケイのルーンを叩き込めることができれば、いくらあの巨体でも耐えられるまい。

 

「リコ、あいつの注意を引いてくれるか!? 私とケイでタイミングを合わせて一斉攻撃する!」

 

 アシッドグラブロードの対魔結界が途切れる時間は一秒に満たない。その隙を二人で同時に突くには、奴のロックが外れていることが望ましい。

 

「了解した! 攻撃は頼んだぞ!」

 

「任せろ。死んだら許さん」

 

 と、ケイ。

 

 ケイとヒカリは一気に上昇し、毒霧の届かない高度を占位して攻撃の機会をうかがう。

 

 ――俺はあまり遠距離攻撃の手段を持ち合わせていない。正直今まであまり役に立てていなかったが、ここが、こここそが、俺の見せ場だ。

 

 リコ、迅速のルーン(フレーツ)を自身に付与。これにより一時的に通常の約三倍のスピードでの飛行が可能になった。

 

 ――あいつの酸ビームはクソ(つえ)え。だが……当たらなければどうということはない!

 

 酸のビームはアシッドグラブロードの口から発射される。本体の動きは鈍く、高速でその射線上から離脱されれば、身体を回転させて再び獲物を射線上に捉えるのは困難だった。

 

「あいつら準備ができたようだな。じゃあ、そろそろやっちゃうか!」

 

 それまで射線上から離れるように飛んでいたところから一転、今度は自ら射線上に入るように機動する。芋虫がビームを撃ってくれなければ、それはそれで攻撃のチャンスがないのだ。

 

「ほら撃てよ、格好の獲物だぞ?」

 

 アシッドグラブロード、口を大きく開き、発射の姿勢。そして対魔結界が、途切れた。

 

 今だ。

 

 ケイとヒカリの一斉攻撃。そのすべてが丸裸となったアシッドグラブロードに着弾。その身を勢いよく削り、コアが剥き出しになり、そのままコアを破壊した。

 

 作戦は成功した。コアを失ったアシッドグラブロードは先ほどまでから一転してその動きを止め、ズシンとその場に倒れ込んだ。

 

「やったな……。――ああキッツ、こりゃ明日は筋肉痛確定だ……」

 

 と、魔物を倒し、役目を終えて着地したリコが額にかいた汗を拭いながら呟く。

 

「本当によくやってくれたわ。ありがとう」

 

 と、ヒカリ。

 

「さっきの凄かったな。彗星のようだった」

 

 ケイがリコの背中にのしかかるように着地して言う。

 

「まあこれにて一件落着――待て、なんだ、あれ」

 

 リコが倒したアシッドグラブロードの死骸を指さして言う。

 

 コアは確かに破壊したはずだ。それによって死んだのも確かだ。が、その死骸がだんだんと膨張している、クジラの死骸のように。その瞬間、最悪のケースを直感で察知したリコが咄嗟に叫んだ。

 

「伏せろ!」

 

 彼のその言葉で全員が一斉にその場に伏す。その直後、アシッドグラブロードの死骸が大爆発を起こした。死骸が弾け、中に溜まっていた酸と毒霧とが一斉に飛び出し、辺りにまき散らされた。

 

 その場に伏せたお陰で爆発の直撃は避けられた。が、小さい滴となって降ってくるのまでは避けきれず、背中に酸の雨が落ちてきた。

 

「クソッタレ、死ぬなら大人しく死にやがれ! ――みんな大丈夫か?」

 

 と、酸で背中を焼かれる痛みに耐えながらリコが二人に安否を聞く。

 

「大丈夫の定義が生きていることなら大丈夫だ」

 

「右に同じ」

 

 と、ケイとヒカリが答える。

 

 酸の雨が止み、辺りを見渡してみる。異次元洞窟は既になく、元の洞窟の景色に戻っていた。

 

「あぁ痛ぇ……これがあいつの酸……」

 

 と、ケイが痛みに顔をゆがめて言う。もっとも例のペンダントの力で傷は既に回復されているので問題ないのだが、しかし痛みまで消える訳ではなかった。

 

「治癒魔法掛けるからこっちに来て……いや、待って、まさかこれ……」

 

 元の洞窟に戻ってきたのは四人の人間だけではなかった。死に際にまき散らされた酸は洞窟の壁や地面を溶かして池となり、更に毒霧が充満している。

 

「治癒魔法は後ね。さっさとここから出るよ!」

 

 先ほどまでと異なり毒霧を避けられるスペースはなく、もはやここに長居はできない。

 

「ドン・ホセ、生きているか? そうなら立て。さっさと出るぞ」

 

 そう言いながらリコがホセを強引に起こし、肩に担ぐ。

 

 もう意識が朦朧としてきた。速いところ出なければまずい。

 

 三人は出口を確認し、酸の池に落ちぬよう気を付けつつ一目散に退室した。

お読みいただきありがとうございます。


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