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ロータス旅行団~出生不詳JKの異世界冒険譚~  作者: 景少佐
 DRITTER AUFZUG:冒険者業
31/42

#05 冒険者業

毎週金・日、15時~20時の間に投稿予定

 わたし達と同じ異世界転移者、琴吹ヒカリとの邂逅から二日が過ぎた。昨日の件でわたし達と彼女との距離はぐっと縮まり、わたし達のパーティに彼女を迎え入れるまでに至った。パーティ名も少し変わり、元々の名称〈カラヤン〉にヒカリの頭文字を付け加え、〈H.カラヤン〉となった。

 

 また彼女に〈(シュヴァルツァー)嵐の(シュツルム)(ヴォルフ)〉に関して尋ねてみたが、あいにく彼女が知っていることはなかった。

 

 彼女と知り合ったことでわたし達の住まいも変わった。彼女はこの街に一件の屋敷を持ちそこに一人で住んでいたのだが、一人では持て余しているからとわたし達を迎え入れてくれたのだ。これは非常にありがたい話だった。あのアパートも住み心地は決して悪くはなかったのだが、この綺麗な屋敷の部屋には断然劣るし、何より隣室などに配慮する必要がないのは大きい。

 

 この屋敷は、今は亡きヒカリの魔法の師匠から譲り受けたものだそうだ。なんでも彼女が転移し、この街を訳も分からず彷徨っていたところを彼に拾われ、彼が独り身だったということもあり、自分の孫かのように非常によくしてくれたそうだ。この世界のことや魔法のことなども沢山教えてくれた、と彼女は言った。当時既に彼は高齢で、おおよそ半年前に亡くなってしまったが、その際に彼女が彼の遺産とこの屋敷を相続し、今に至る。

 

「この屋敷は独りで住むには大きすぎるだろうから、私がいなくなった後は大事なパートナーか、冒険者仲間でも住まわせるといい、そうあの方は言い遺したわ」

 

 引っ越し作業などを終え、わたし達は〈H.カラヤン〉としては初となるクエストを受けるべくギルド庁舎にやって来た。わたしとリコの冒険者ランクはⅢ。それに対してヒカリのランクはⅤ。ランクn(n=N, 1≦n≦7)制限クエストはパーティで受注する場合、大抵nランク冒険者が一人以上随伴していれば他のメンバーのランクがn未満であっても受注が可能であるため、いまのこのパーティはランクⅤ制限クエストまで受けることができる。

 

 わたし達はまだ彼女の実力をまだあまりこの目で見たことがない。故にできればランク制限付の、少々骨のあるクエストがあるといいのだが……と探していると、あった。ランクⅣ制限付クエスト。牛頭人身の魔物、ミノタウロスが棲息する異次元洞窟(ダンジョン)――強力な魔物はしばしば異次元領域を生成し、それを巣としたり獲物を狩る罠としたりする。そういった領域の総称が異次元洞窟(ダンジョン)である――の制圧が任務だ。

 

「二人とも、これなんてどうだ?」

 

 わたしはそれを手に取り、まだクエストを探していたヒカリに見せる。リコは少々離れた場所で見ていたため、彼女の後に見せよう。

 

「珍しいのを見つけたわね、異次元洞窟攻略クエストだなんて」

 

 と、ヒカリ。

 

「これってそんな珍しいのか?」

 

「そうね。年に数件、多くても十数件くらいしか見ないわ」

 

 なるほど、確かにわたし達もこういったクエストは一度も見たことがなかった。


 などと話していると、リコもまた別のクエストを手にこちらへと寄ってきた。

 

「これも異次元洞窟!?」

 

 なんと、リコが持ってきたクエストも、具体的な内容こそ違えどわたしの見つけたのと同じ異次元洞窟攻略クエストだった。そちらはランクⅢ制限付で、トロールが棲息しているらしい。

 

「異次元洞窟の生成はそれ相応の力を持った魔物にしかできない。すなわち洞窟の数だけ強力な奴が湧いているということなんだけど……こんな一度に二件もだなんて……」

 

 と、ヒカリが一人で驚いている。

 

「異常、なのか?」

 

 彼女の反応から不安になったのか、リコが彼女に尋ねる。

 

「いや、稀にこういうこともあるはずだから、多分偶然よ……八割九割」

 

「フムン」

 

 いや、それだと一から二割は異常事態ということになるのだが。ただ多ければ年に十件くらいあることもあるそうだし、別に異常でもなんでもなく偶偶こういうことがあったとしてもおかしくはない、だろう。現時点で心配しすぎるのは無意味か。

 

 受注するクエストは最終的に、わたしの見つけた方に決まった。そちらの方が報酬が良かったというのと、ヒカリがミノタウロスくらいなら問題ないと主張したため。

 

 ミノタウロスの棲む異次元洞窟、コードネーム:マイノーター――わたし達で勝手に名付けた――の入り口は、この街より西方、およそ五○キロメートル離れたところに聳えるエル・ネシモ山の麓にある。歩いて行くとなると丸半日かかる旅になるが、状況はもう今までとは違う。わたし達にはいま、専用乗り物があった。

 

 魔式飛行箒、空中飛行術式を付与され、さらに人が乗りやすいよう改造された空飛ぶ箒である。これはヒカリが開発した乗り物で、バイク型のハンドルと計器類にペダル、魔力槽及び二つの増槽が付けられたその外見は箒というより、ほとんどタイヤのないバイクだ。

 

 ハンドル及びペダル周りの操作はオートマチック・トランスミッションのバイクと大差ない。右手でスロットル、左手でブレーキの操作を行う。またハンドル全体を手前に引けば機首が上がり上昇、前に押し込めば機首が下がって下降する仕組み。わたしはともかく、自動二輪の免許を持っているリコにとってはなかなかやり慣れたものだろう。

 

「簡単にポンポン造れる物じゃないから、絶対に事故って壊さないでよ」

 

 と、ヒカリがわたし達に釘を刺して言う。

 

「大丈夫だ、俺はバイクの免許を持っているからな。不運(ハードラック)(ダンス)っちまうことはない」

 

「そう。なら安心だわ」

 

 魔式飛行箒は全部で二台。したがって一台はヒカリが運転し、もう一台をリコが。その後ろにわたしが乗ることになった。

 

 箒の魔力槽と左右の増槽に魔鉱――多量の魔力を帯びた鉱石。こういった魔動機械の動力源としてよく用いられる――を補充する。すべて満タンにすればこことエル・ネシモ山を二往復はできるそうだ。その他装備などを整えれば準備完了。

 

 旅の予定はこうだ。明日六○○時に出発し、途中にあるバダ平原で昼休憩を挟んで一六○○時には到着する予定。それからその日は麓で異次元洞窟の入り口周辺を調査しつつ、麓で一泊。翌朝、異次元洞窟内部に侵入して攻略する。

 

「これは世間に普及しているものじゃないから、街の上を堂々と飛んでいった日には大騒ぎになるわ。だからまだ日が昇りきらない早朝に出発し、高度三○○○フィートまで一気に上昇する。高度計はハンドル中央のこの計器だからよく確認するように」

 

 今の季節は冬。雪こそ降っていないが、日の出の時刻はかなり遅い。

 

 そして翌朝、出発の時間がやって来た。忘れ物がないことを確認して外へ出、倉庫から魔式飛行箒を引っ張り出す。エンジンスタータ・ロープを引くと魔力槽から魔力が術式の付与されたエンジンに流れ、魔法が発動。機体が地を離れ、若干浮遊する。あとはそれにまたがり、計器類などに異常が無いことを確かめれば発進準備完了だ。

 

 スロットルをゆっくりと回してタキシング。庭に用意された滑走路へと移動する。

 

「それじゃ行くわよ。遅れずに付いてきてね」

 

 ブレーキをかけつつスロットルを全開にし、最大限ふかす。それからブレーキをリリース。箒は弾き飛ばされたように前身を開始した。計器群中央、魔水晶モニタに〈PULL UP〉のメッセージと警告音。それに合わせてハンドルを目一杯引き、テイク・オフ。機首が一気に空を向く。あとはスロットル全開のまま力任せに三○○○フィートまで上昇すればよい。

 

「ケイ、大丈夫か?」

 

「ああ。なんとか」

 

 箒の最高速度はおおよそ八○ノット。現在は約四○ノットで上昇中。冷たい風を切ってかっ飛んでいく。

 


  異次元洞穴:マイノーターには無事に到着した。冷たい風も保温魔法を発動していたお陰で苦ではなかった。麓でキャンプし身体を休め、わたし達は今まさに、異次元洞窟へと足を踏み入れたところである。

 

 異次元洞窟内は予想よりも広く、明るかった。その景観はよく想像されるような洞窟や石造りの壁がずらっと並んでいる、という訳ではない。土の地面があり、植物が生え、真っ赤な空に青く光る連星の太陽が燦々と輝いている。

 

「これが異次元洞窟……」

 

 初めて見る本物のその景色に、わたしは思わず言葉を漏らした。

 

「異次元洞窟は魔物、ここで言えばミノタウロスが作った世界。ここではミノタウロスが唯一絶対の神だわ。何があるか分からないから細心の注意を払って進むように」

 

「了解」

 

 と、さっそく歓迎者がやって来た。肉も皮膚も、臓物さえ無く、ただ骨だけが人型を成して動く魔物――スケルトンの軍団だ。多数。あっという間にわたし達を取り囲む。またそれらに混じって数体強そうなのもいる。無頭騎士(デュラハン)だ。

 

「ここは私に任せて」

 

 ヒカリがそう言う。

 

 一人で大丈夫か、などと聞く間もなく彼女はふわっと宙に浮き上がると、スカートの中から棒状の何かが四、五、六本飛び出した。それらは縦横無尽に宙を飛び回り、魔物の群れに向かって魔法の一斉射を開始した。黄色く光るビームの魔法。それらは目標を撃ち抜いては次次に向きを変え、スケルトンを捌いていく。

 

「す、すげぇな……あれがアイツの実力……」

 

 彼女のあまりにも一方的な戦闘に見とれているうちに、黄色いビーム群の猛攻を耐え抜いたのは遂に無頭騎士一体のみとなってしまった。残った一体はそれなりの手練れだったのか、瞬時に棒状の物体を捉え、巨大な盾で確実に攻撃を防いでいた。そのことはヒカリも分かっていたのか、彼女は奴に対して攻撃手段を変更した。

 

 手に持っていた大きい杖の先に魔力の刃を生成、ハルバードの形に成形して突撃。無頭騎士の剣による刺突攻撃を身体を傾けて回避、そのままハルバードを盾に叩き付ける。刃の部分は非常に高熱なのか、盾はみるみるうちに溶かされ、あっという間に彼女は無頭騎士を両断してしまった。


 戦闘終了。敵は彼女に傷一つどころか指一本触れることさえかなわなかった。

 

「さ、先に進むわよ」

 

「お、おう……」

 

 強い。彼女の戦いぶりを見た感想はすべて、その一言に集約された。たぶんわたしとリコが二人がかりで相手しても彼女は余裕で勝つだろう。そうとしか思えない実力を、彼女は持っていた。

 

 その後も幾度か魔物の群れが襲ってきたが、そのたびに大半をヒカリが葬った。わたし達も積極的に参戦したのだが、わたし達と彼女ではキル・スピードが圧倒的に違い、結果的に彼女が一人で過半数を仕留めることになった。そもそもわたし達と彼女では戦闘の雰囲気が異なるのだ。わたし達のは、自分と相手の力がぶつかり合う、まさに闘争といった空気なのに対し、彼女のそれはもう、単なる処理作業だ。相手の力が自分にぶつかるよりもずっと速く、効率的に敵を処理していく。

 

 そういうわけで、わたし達は難なくこの世界の創造主、ミノタウロスが待ち構える最深部へと到達した。

 

 ミノタウロスは今までに会敵した魔物達とは比べものにならない魔力量を誇る。また純粋なパワーも凄まじく、巨大な、ほとんど鉄の塊と言っても間違いない戦斧を振り回し、物理攻撃と多彩な魔法で挑戦者の前に立ちはだかる。強敵だ。

 

「げ、おっかねぇな。アイツ、物騒なモン持って仁王立ちしてやがるが……どうするんだ?」

 

「私はあなた達を護るから、攻撃は任せるわ」

 

「……は?」

 

「私もあなた達がドワーフに教わった〈ルーナ・マルカ〉とやらを見てみたいからね。なに、危うくなったらすぐに私が助ける」

 

 確かに、わたし達はルーナ・マルカのことを言葉では彼女に教えたが、まだ実践を見せてはいない。わたし達は既に彼女の力を見せてもらったし、妥当な提案か。

 

「いいだろう、リコ。それでいこう」

 

「はあ、分かったよ。じゃ、俺がアイツの気を引きつつ、あのおっかない斧の破壊を試みる。ケイ、お前は弓での援護を頼んだ」

 

「あまり近付きすぎないでくれよ。迅速のルーン(フレーツ)を付与した矢は掠めただけでも危険だからな」

 

「肝に銘じるよ」

 

「じゃ、行こうか」

 

 さっそくリコが剣を抜いて飛び出し、ミノタウロスの前に躍り出た。それから剣に力のルーン(マクティ)を付与し、ミノタウロスの戦斧とぶつかる。

 

「へえ、すごい威力ね」

 

 武器の大きさも体格差も圧倒的だが、リコが押し勝った。斧が砕け散り、ミノタウロスは奥の方へと吹き飛ばされる。

 

 今がチャンスだ――

 

 わたしはすかさず空中浮遊魔法で空に浮き、ミノタウロスのコアへ射線を通す。それから素早く弓に矢を番え、ルーンを付与。威力、最大。

 

 わたしの放った矢は、辺りに轟音を轟かせてかっ飛び、ミノタウロスのコアを跡形もなく消し去った。コアをやられたミノタウロスはその場に倒れ、轟沈。創造主を失った異次元洞窟は崩壊を始め、あっという間にわたし達は何の変哲も無い山の麓へと戻ってきた。

 

「これでクエストクリア、か……」

 

 わたしが呟く。

 

「ルーナ・マルカ、魅力的な魔法ね。良いものを見させてもらったわ」

 

「いや、こちらこそだ。あんな圧倒的な戦い方は初めて見たよ」

 

 ギルドに提出するミノタウロスの角は無事回収した。さあ、帰ろう。

お読みいただきありがとうございます。


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