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ロータス旅行団~出生不詳JKの異世界冒険譚~  作者: 景少佐
 DRITTER AUFZUG:冒険者業
30/42

#04 魔法・初級編

毎週金・日、15時~20時の間に投稿予定

「ええと、じゃあ改めて聞くけど、あなた達は今までどういう手順で魔法を使ってきたの?」

 

「身体を巡る魔力を意識して、これから起こす現象を鮮明にイメージ。それから詠唱することで、だな」

 

 と、リコが答える。

 

「そう。わかったわ。ありがとう。じゃあ、そうねえ、まずは魔法の歴史の話からしようかしら」

 

 魔法の基礎はいまあなた達に喋ってもらった通りで間違いないわ、と、琴吹ヒカリは語り出した。

 

「ただ、発動の核をすべて術者の創造力に頼っていては、使える魔法には限度がある。当然の話ね。核分裂や核融合の現象なんて容易に想像できる? 大抵はできないし、できたとしてもそれで魔法を十分に発動させるには足りない。単純に水を出すとか火を出すとかだったら練習すれば難しくはないんだけど、現象が複雑になればなるほど想像がしにくくなるし、そんな中より鮮明にイメージしなければならなくなる」

 

「ん、必要なイメージ力は魔法の難易度で変わるのか?」

 

「そうよ。単純な魔法は多少雑なイメージでもどうにかなる」

 

 それは初耳だ。消費魔力量は難易度に左右されるとは聞いていたが。

 

「その制約があったから、およそ二百年前まではあまり魔法が栄えていなかった。だけどある一つの発明によってそれは大きく変わることになる。その発明こそが、『術式』よ」

 

「術式は、それまでのやり方となにが違うんだ?」

 

「術式は使用者のイメージ力を必要としない。これが従来の方式と決定的に違う点。術式を知り、それを発動するのに必要な魔力さえ有していれば誰でもそれを使えるの」

 

「それはすごいな」

 

「術式というのは簡単に言えばプログラムのようなものでね、それに魔力を通せば、後は勝手にプログラム通りに演算処理され、魔法が発動される。そしてこの術式を書き記したのが魔導書よ」

 

「なるほどね」

 

「術式はある特殊なインクで紙に書き、それに自分の魔力を通すことでコンパイルされ、その術式を覚えることができるわ。魔導書に書かれている術式もそうで、あれ一つ一つに魔力を流していくことでその術式を習得できる。だから、あれは読む物じゃないって言ったのよ」

 

「魔力を通すだけで覚えられるのか。ずいぶんと不可思議な話だ」

 

 と、リコが疑問を口に出す。わたしもそれは思った。図式など見ることで理解できるものでもないし、読んでも分からないものをどうやって、どんな仕組みで覚えることができるのだろうか。

 

「あなた達は体内の魔力の源がどこか、知ってる?」

 

「……知らない」

 

「これはつい数年前くらいに判明したことなんだけどね、各各の魔力は脳内の中央らへんにある『松果体』というところで作られているの。というかこの臓器が人間の魔法に関するほぼすべてを担っているわ。で、松果体で作られた魔力が術式の記述に流れることで、魔力がその術式の情報をコンパイルして松果体に保存する。これが術式を覚える仕組みよ。――このやり方が発見されたのは術式発明と同時で、それは単なる偶然だったそうよ。元々魔方陣とか魔法仕掛けの機械とかを作るために術式が研究されていて、その過程でこれが見つかった」

 

 正直想像できないが、まあとにかくそういうプロセスなんだということは分かった。

 

「あと、一度覚えた術式は忘れることがない。だから、その術式を発動させるためのキー、まあ大抵は何かを唱えるんだけど、その文句さえ覚えているのと、それを発動するに足る魔力さえあればいいわ」

 

「それはかなり便利だな」

 

「それから術式を用いるメリットは二つ。一つはさっきも言った通り術者のイメージ力に頼らない点と、もう一つは、物などに書き記すことができるようになったこと。前者の恩恵も大きいんだけど、後者のはそれと比べものにならないわ」

 

「そうなのか?」

 

「まず魔法を人に教えるのが圧倒的に簡単になった。特定のインクで術式を書きさえすれば、後はそれに魔力を流すだけで覚えられるからね。一度魔力を流して覚えられた術式が二度は使えないということもないし。それと、いわゆる魔方陣やエンチャントが可能になったり、それらを応用して魔法仕掛けの機械を作ることが可能になったわ」

 

「今まではできなかったのか?」

 

「やろうと思えばできるかもしれないけど、実用の範囲ではないでしょうね」

 

「フムン」

 

「ここまではメリットだけど話したけど、当然術式にも幾つか欠点があるわ。一つ目は、それまでの方式に比べて柔軟性に劣る点。術式はどうあがいても事前に組まれたプログラム通りにしか動かない一方で、イメージ式は術者のイメージ次第でどうとでもできる。あとこれはメリットでもデメリットでもあるんだけど、同じ術式をどれだけ使い込んでも魔力効率が変わらない点。イメージ式は術者の練度によって消費魔力が変わるんだけど、術式はそうじゃない。――ま、術式に関してはおおむねこんなものかしら。どう、理解できた?」

 

「まあ、大事そうなところはなんとか。――かなり画期的な発明だったんだな、術式ってのは」

 

「そうね。術式の登場で世界はガラッと変わったと言われているわ。『第一次魔法革命』なんて呼ばれているくらいだし」

 

「俺らの世界の産業革命みたいだな」

 

「実際かなり近いわね。ただ、それにより近くなったのは第二次魔法革命の時かしら」

 

「ほう?」

 

「第二次では魔法仕掛けの機械が本格的に実用化され、社会に浸透していったわ。具体的には艦船が風力や人力に頼っていたのが魔法で動くようになり、更には魔法で走る機関車も登場した。工場とかでも魔法機械が導入されて生産効率が大幅に向上したわ」

 

「完全に蒸気機関登場の時と同じ雰囲気だな」

 

 労働環境の問題なんかも似通っていたらますますそうだろうな、とわたしは心の中で呟いた。

 

 

 などと話しているうちに間もなく閉店時間らしく、わたし達は急いで残っているご飯を書き込み、会計を済ませて店を後にした。

 

 ヒカリはわたし達とは違い、自分で一軒家を持っているそうだ。それ故途中で彼女とは別れ、わたしはリコと二人でアパートに戻ってきた。

 

「さっそく魔導書のやつ、試してみるか?」

 

 と、リコが公衆スペースを指さして言う。

 

「そうだな。やってみよう」

 

 そうしてわたし達は適当に魔導書を一冊取り上げ、開いてみる。相変わらず何を書いているのか分からない。分かるのはその術式の名前と効果だけだ――この部分だけは普通の言葉で書かれている――。その下のプログラムに該当すると思われる部分はさっぱり。

 

「きっと情報系の勉強を始め、HTMLやJavaを見たときも同じ感想を抱くんだろうな」

 

 と、わたしが呟く。

 

「違いない。――これなんかどうだ? 任意の方向に魔力弾を一発撃つ魔法。威力、射程は使用魔力に依存する、だって」

 

「それにしよう。この部分に魔力を流せばいいんだったよな」

 

 コードの部分に指を置き、そこに魔力を少しだけ流す。と、その記述箇所がほんのりと赤く光った。そのすぐ後に、頭になんとも形容しがたい感覚。

 

「……これで完了、なのか?」

 

「多分。明日町の外で試してみようぜ」

 

「そうだな」

 

 結果、成功だった。

お読みいただきありがとうございます。


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