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ロータス旅行団~出生不詳JKの異世界冒険譚~  作者: 景少佐
 DRITTER AUFZUG:冒険者業
27/42

#01 冒険者・準備編

毎週金・日、15時~20時の間に投稿予定

 時空を超越して出会う、ふる里を同じくする人

 それは有史以来の待ち人



 ヴァルドリア帝国到着からおよそ一日後、都市の警察的組織と思しき人に道を尋ねながら、二人はようやく目的地、冒険者ギルド庁舎に辿り着いた。

 

 赤いレンガ造りのその建物は他の民家よりも明らかに作りがよく、これが国営組織の拠点であり、他とは訳が違うということを無言で主張していた。それの中央に構えている重厚な鉄製の扉を開け、二人はその中へと足を踏み入れる。

 

 中にいた全員の視線が二人に集まった。容姿も身なりも、明らかにここの国の人間と違うのだから当然だろう。そういったことはあらかじめ予想できたことだ。

 

 注がれる視線を敢えて無視し、二人は受付カウンターと思しき場所へと歩みを進めた。受付には身長一九○センチ、髪は茶、筋肉モリモリマッチョマンの大男が立っている。

 

「すみません、冒険者登録をしたいのですが……」

 

 リコが恐る恐る口を開き、そう受付の彼に問い掛ける。

 

「わかりました。登録はお二人でよろしいですか?」

 

「はい」

 

 いかつい見た目とは裏腹に、彼の対応はとても丁寧だった。リコの返答を聞くなり彼はデスクの下から書類を二枚とペンを取り出し、二人の前に差し出していい言う。

 

「では、こちらの書類にそれぞれ記入をお願いします。記入の際にはあちらのスペースをお使いください」

 

「ありがとうございます」

 

 二人は彼から物を受取ると、足早に案内されたスペースへと歩いて行った。

 

「親切な人でよかったな。あんな大男に威圧されたらたまらない」

 

 書類に必要事項を書きながら、リコが小声でケイに言う。

 

「そうだな。それに今のところいろいろ突っ込んで聞かれることもなかったし」

 

「――こんなもんか。よし、出しに行こう」

 

 必要事項の記入を終え、二人はもう一度受付に行き、書類を提出した。

 

 男は二人の書類を確認すると、それをデスクに置き、その下から一冊の冊子を取り出し、開いて二人に見せた。

 

「こちらは冒険者用マニュアルです。冒険者制度のことなどについては全てこれに記載されています。いまからそれについて説明いたしますが、その後に確認したい際はこちらをご覧ください」

 

 それからはしばし長めの男の説明が始まった。説明は大きく分けて四つの話に分類される。

 

 第一に冒険者ランクについて。冒険者には例外なくランクが設けられている。これはギルドの提供する任務――クエストと呼ばれる――をこなし、実績を積み重ねることで上昇する。ランクは昇順でⅠからⅦまで。初めは皆ランクⅠからスタートする。

 

 第二にクエストについて。クエストは民間や行政から持ち込まれ、それをギルドが冒険者に対して斡旋している。クエストの内容は様々で、害獣や魔物の駆除や失せ物・人の捜索、未開地の探索などなど多岐にわたる。またクエストにはギルドによって危険度が定められており、それによってはクエスト受注にランク制限が発生することもある。クエストの完了条件も様々だが、多くは成果物――例えば駆除した獣の尾――をギルドに提出するという形式が多い。

 

 第三に報酬について。報酬はクエスト毎に定められており、危険度が高ければ高いほどそれは高額になる。そしてそれはクエスト完了条件を満たすことでギルドから現金で手渡される。また冒険者は申請し、ギルドの方で諸条件を満たしていることが確認されることで様々な手当を受けることもできる。それのもっとも基本的なものはランクアップ手当で、これはランクが上昇する毎に一度だけ受取ることができ、その額はランクに比例する。またランクⅠの時のみ登録と同時に受取り可能となり、駆け出しの冒険者にとっては装備を整えたりする際に重宝される。

 

 そして最後にパーティ制度について。冒険者は任意でチーム――パーティと呼ばれる――を形成することができる。パーティの上限は十人まで。パーティでクエストを完了した場合でも受け取れる報酬の額は変わらず、それの分配は各パーティに委ねられる。が、基本的にはパーティの方がクエスト解決において有利であるので、個人の冒険者は多くない。またパーティに所属していても個人名義でクエストを受けることができるため、安くてあまり危険度の高くないクエストは各自でこなし、難易度の高いものにだけパーティで挑むという方式をとるパーティもある。

 

「――以上で説明は終わりになります。こちらは差し上げますので、ご自身でも一度目を通しておくことをお勧めします」

 

「ありがとうございます」

 

「これにて冒険者登録は以上になります。こちら冒険者手帳となります。クエスト実績やランクが記載されますし、なによりこれが冒険者の証明になりますので、紛失しないよう、大切に保管してください」

 

 そう言って男は二人に、表紙に剣のシンボルが描かれた手帳を手渡した。これによって二人は、晴れて冒険者となったのである。

 

「続いてパーティ登録ですが、いかがなさいますか?」

 

「お願いします」

 

 パーティはケイとリコの二人。パーティ名は二人の苗字、矢蔓と唐澤から取ってカラヤンとなった。パーティ登録はメンバー全員が書類に署名するだけで完了。

 

「パーティ名は『カラヤン』でお間違いないですね?」

 

「はい」

 

「これにてパーティ登録は完了です。お疲れ様でした。あなた方のご活躍をお祈りしております」


 それから二人は、グリムボルトから教えられていた冒険者アパートについて男に尋ねた。

 

 冒険者アパートとは、ギルドが管理している、冒険者として登録されている人のために用意された専用の賃貸物件である。家賃が他の物件に比べて安く、食堂や大浴場など様々な設備が設けられているという特徴がある。二人のような冒険者になりたてで資産が少なく、住む場所もない冒険者にとってこれの存在は非常にありがたい。

 

「冒険者アパートの賃貸契約をご希望ですね。少々お待ちください」


 そう言うなり男は奥の方へ行き、少し経って一冊の冊子を持って出てきた。

 

「こちらが現在の部屋の空き状況になります。事前に我々の付き添いの上部屋の内見が可能ですが、いかがいたしますか?」

 

「お願いします」

 

 冒険者アパートの部屋には六畳の一人部屋、十三畳の二人部屋、二十五畳の四人部屋の三種類がある。一人部屋は殆ど埋まってしまっていたが、二人が借りようとしている二人部屋はかなりの空きがあった。アパートはどの棟も三階建てで、一階はロビーと食堂、大浴場。二階以降が居住区となっている。

 

「二人部屋は二階にも三階にもあるのか。ケイはどっちがいい?」

 

「わたしは二階の方がいいな」

 

「じゃそうしよう。――二階のこの部屋の内見をお願いします」

 

「かしこまりました。ただいま担当者を呼んでまいりますので少々お待ちください」

 

 それから、二人は担当者に案内されて件の冒険者アパートへと向かった。アパートはギルド庁舎から少し離れたところにあったが、アパートから庁舎までは徒歩十分ほどで、決して遠いわけではない。

 

 アパートに着き、担当者が玄関の扉を開ける。と、まず初めに現われたのは廊下と公衆スペースだった。椅子とテーブルが複数設置されており、冒険者同士の交流の場となっている。またここには魔物図鑑や動物図鑑、魔導書などクエスト遂行に役立ちそうな本も置かれており、住人はそれを自由に読むことができる。

 

 公衆スペース前の廊下を左に行けば食堂で、右に行けば大浴場があり、公衆スペースを挟むように階段が二つある。食堂は朝食と夕食の二食を提供している。それらは完全予約制で、食堂を利用したい場合は二日前までに予約しておく必要がある(入居後二日目までは特例で、その日中の予約で食べることができる)。大浴場は昼間の三時間以外は基本的に解放されており、自由に入ることが可能。


 階段を上って二階に上がり、とうとう二人が内見を希望した部屋に到着した。担当者がドアを開け、二人を中に入れる。

 

「へえ、こんな感じなのか。冒険者アパートってのは」

 

 部屋には暖炉と兼用の簡易キッチンとトイレが一つ、それからデスクとベッドがそれぞれ二つずつ備えられていた。収納は二カ所。

 

「いい部屋じゃないか。わたしはもうここに決めていいな」

 

「俺もそう思った。――決めました。ここを借ります」

 

「ありがとうございます。では庁舎に戻って契約書の方を……」

 

 庁舎に戻って契約書に必要事項を記入し、これにて最初に必要な一切の手続きが完了した。これで晴れて二人は、異世界にて住処と職を手にして自律したのである。

 

 ギルドで受取った鍵でアパートの部屋のドアを開け、早速リコが荷物をほっぽりだしてベッドに寝転がる――訳にはいかず、ケイが寸前で止めた。

 

「その前に荷ほどきしてしまうぞ。寝っ転がるのはそれからだ」

 

「はあい……」

 

 とは言えそれほど量があるわけでもなく、大して時間もかからずに荷物の整理が済んだ。

 

「じゃあ早速、クエストでも見に行かないか?」

 

 とリコがケイに言う。

 

「そうだな。簡単そうなの見つけたらもう受注してしまおう」

 

 クエストはそれぞれ内容や報酬などが紙に書かれて庁舎の掲示板に張り出されており、それを受付に持って行くことで受注が完了する。

 

 はやる心で足取りも軽く、あっという間に庁舎に着いた。それから真っ直ぐに掲示板のところに行き、クエストを片っ端から漁る。と、ケイが一件のクエストに目を付けた。

 

「なあリコ、これなんかどうだ?」

 

 そう言ってケイがリコに見せたのは、荷物運びのクエストだった。依頼者は民間人。引っ越し作業で荷物を馬車に積むので、その手伝いをして欲しいという依頼。報酬は一○○クォリアン――大通りの八百屋で見たリンゴが一つ二クォリアンだったので、日本円に換算しておよそ一万円といったところか――。ランク制限はなし。

 

「よく聞くようなファンタジー感あるクエストのイメージとはほど遠いが……まあいいか、初めだし。よし、それ受けよう」

 

 こうして二人の冒険者生活は初めの一歩を踏み出した。

お読みいただきありがとうございます。


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