#13 前へ
毎週木・日、15時~20時の間に投稿予定
入手した素材を持ち帰ると、早速ファルベリヒが作業に取りかかった。ケイとリコもできる範囲で彼の作業を手伝う。
作刀方法は主に、鋳溶かした鋼を型に流し込んで作る鋳造型と、熱した鋼を叩き延ばして成形する鍛造型の二種類に分類されるが、ファルベリヒは後者の方法で剣を製造していた。調達してきたエアリウムから柔軟性のある鋼を生成し、それを焼き入れすることで表面層に含まれる炭素を増やす「浸炭」という手法によって、表面を堅くしつつ、内部に柔軟性を残すことを可能にした。こうして出来上がった刃を柄に取り付け、リコの剣は完成した。
続くケイの弓も順調に作業は進んだ。アズライトとエルダーオークで出来たフレームは極めてよく撓り、且つ軽量で耐久性も文句の付けようがない。また、両端が外側に湾曲した形状が特徴的なリカーブボウのデザインを採用したことで、弦を弾くときのテンションが高まりエネルギーの蓄積効率が向上。同サイズの通常の弓よりも速い矢速と射撃のパワーを生むことを可能にしている。また弦のリリースがスムーズで射撃時の安定性が高く、精度が良いというメリットもある。一方でリカーブボウには射手の筋力や技量に性能が左右されるというデメリットもあるが、ケイの体格に完璧にマッチするように作られたオーダーメイド品であることと、なによりケイの技量であれば問題なく使いこなせるだろう。
「俺の持てる技術を全て突っ込んで作った最高傑作だ。ルーナ・マルカの負荷にも他のより断然耐えるはずだぜ」
藁を束ねた標的で試し切り・試し撃ちしただけも、それらと他との性能の差の違いがこれでもかと感じられた。決して今までのが欠陥品だったという訳ではない。しかし、これを使った後にそれらを評価しようとすれば、必ずそう錯覚を起こすだろう。
「有り難うございます、ファルベリヒさん。こんないいものを作って貰って……感謝してもし切れませんよ」
「俺も、作っていて最高に楽しかったぜ。大事に使ってくれよな」
その後はグリムボルトによって、武具の任命儀式が行われた。これは新しく武器が作られた際、それに宿る精霊に主に対して永遠の忠誠を誓わせる儀式で、ドワーフ族の伝統だ。これによって弓と剣は正式にケイとリコの武器となった。
「さ、今日が彼らと過ごす最後の夜だ。盛大に飲み明かそう」
任命儀式が終わるや否や、すぐに二人の送別会が開催された。歓迎会の時と同じように火を焚き、それを豪華な料理と酒で囲って騒ぐ。皆にとって楽しい時間だった。時間にしておよそ三週間。この村で過ごした時間は、十七年の人生の中では取るに足りないように見えるかもしれない。しかし、そこで経験した出会いや築いた人間関係などなどは、二人にとって小さなものであるはずがなかった。それはこの村の住人たちにとっても同様であった。
「よくよく考えればたった数週間なはずなのに……どうしてだろうな。ずっとお前たちがこの村の住人だったように感じるよ」
翌日、二人は皆に見送られてマハースーン村を出発した。餞別で貰った特注品をしっかりと抱えて。
「またきっと顔を出しますよ。皆さん、それまでどうかお元気で」
行き先はヴァルドリア帝国。途中までグリムボルトと共に馬車で行き、それからは自力で。
後ろを見返しはしない。それをするのは今ではないということを、二人はしっかりと認識していた。元の世界へ帰る、その目的を果たすために、今は前を向いて進むのだ。
「この辺りでお別れだな。その道を真っ直ぐ行けば、三日くらいで帝国に着くだろう。……達者でな」
三つに分岐した交差点でグリムボルトが馬車を止め、道を指さしてそう言う。
「見送り感謝します、グリムボルトさん。後は自分たちでどうにかやっていけますから、心配しないでください」
二人はグリムボルトとかたい握手を交わし、最後に大きく手を振って歩き出した。
「いざ別れると、気にしないようにはしていたが、やっぱり淋しいものがあるな」
ケイの方は見ず、前方少し上を見上げてリコが言葉を漏らす。
「そんなこと言うなよ。もう決めたんだ。今更やっぱやめますなんて言ったら世紀の笑われ者だ」
「ハハ、そうだな。ごめんごめん」
それからグリムボルトの見立て通り、二人は歩くことおよそ三日でヴァルドリア帝国領に入った。全てが新しい世界だ。が、やることはもう決まっている。後は、ただ前へ。
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