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ロータス旅行団~出生不詳JKの異世界冒険譚~  作者: 景少佐
 ZWEITER AUFZUG:異界へようこそ
25/42

#12 My New Gear……〈下〉

毎週木・日、15時~20時の間に投稿予定

 古代ドワーフの遺跡はラビリンティカ大森林の端にそびえ立つ火山、ハッラーン山の麓にある。人間の住むエリアから大して離れていないということもあり、稀に冒険者が遺跡への侵入を試みては命を落としているという話を、道中、二人はギービッヒから聞かされた。遺跡内は侵入者を拒む多様なトラップが張り巡らされてリ、また魔物――通常よりも多くの魔力を持った特異な生物で、基本的に獰猛な性格をしている――の巣窟でもあるため、そこの危険度は極めて高い。

 

「――とは言ったが、俺はもうどこになんのトラップがあるか完全に把握している。俺から離れず、魔物にさえ気を付ければいい」


 また、魔物は通常の生物と異なり、外部に一切魔力を漏出しない。それすなわち漏出魔力による探知が不可能ということになるため、索敵は目視・聴音のみに頼ることになるのだが、遺跡内は極めて暗く、遺跡への挑戦者は非常に索敵が困難な状況を強制される。ちなみに、魔物が魔力を漏出しない仕組みは現状解明されていない。

 

 遺跡の入り口は二人が想像していたような、荘厳な雰囲気を漂わせた巨大な門がそびえ立っている、という訳ではなかった。大昔はそういうものがあったらしいのだが、長い時を経て山の中に埋まってしまったそうだ。今の入り口は、傍から見れば単なる山の岩肌の割れ目にしか見えない。

 

「これが危険な遺跡? ただの洞窟じゃないですか」

 

 と、その割れ目に入って行きながらリコが言う。


「途中まではな。もう少し進めば景色がガラッと変わるぞ」

 

 ギービッヒの言ったことは正しかった。しばらく洞窟を進んでいくと、一気に開けた場所に出た。粗い岩石の道がフラットな石畳になり、それを挟むように巨大な石柱がずらっと並んでいる。

 

「これが、古代遺跡……」

 

 その光景を目の当たりにしたケイが思わず声を漏らした。その声が遺跡内でよく響く。

 

「さ、探索開始だ。所々に人骨が転がっているかもしれないから、踏んづけて転ばないように気を付けろよ」

 

 ドワーフ遺跡内で調達するべきものは二つの鉱石、アズライトとエアリウムだ。前者は遺跡内のあちこちに転がっているそうなので、それを拾えばよい。後者は少々厄介で、アヴァゴルムという魔物を倒し、その死体から採取しなければならない。

 

「ラヴァゴルムってどんな魔物なんですか?」

 

 と、リコが聞く。

 

「肉体の大部分が硬質化した魔物の一種だよ。火山の近くに多く生息している。炎や溶岩を駆使して襲ってくる厄介な奴だ。でも倒せば死体から希少な鉱石が採れるから、俺たちはよくここでラヴァゴルム狩りをしているんだ。それに、ちょっと卑怯だが、そいつを簡単に討伐できる作戦があるんだ」

 

「なるほど。――あれは、なんですかね」

 

 と、リコが通路沿いのあるスペースを指さして言う。彼の指す方向を見ると、そこには微少な光をよく反射する、キラキラした物体を発見した。

 

「お、でかしたぞ。あれこそが俺たちの探し求めていた鉱石、アズライトだ。回収しよう。――あそこは旧鍛冶場だな。」

 

 ギービッヒからトラップが無いことを聞き、リコが旧鍛冶場に足を踏み入れる。そして手を伸ばし、アズライトを拾い上げようとした、そのときだった。鍛冶場の奥で何かが動いたのを、彼は肌で認識した。暗くてよく見えないが、確実に何かがいる。

 

 リコがアズライトを拾い上げようとした瞬間、更に何かが動く気配。速い。真っ直ぐリコの方へ向かってくる。リコ、反射的に地を蹴り、バックステップでその場から後退。その一瞬後に元々彼がいた場所を巨大な鋏上の何かがスイングした。

 

「なんだコイツ……魔物!?」

 

 先ほどの動きは、明確に害意があったとリコは思う。

 

「魔物だ! リコ、一旦下がれ!」

 

 ギービッヒが叫ぶ。

 

 攻撃を外したことを理解したその魔物は、ゆっくりと前進して三人の前にその姿を露わにした。外見は、巨大な蟹だ。両腕の鋏をカチカチと鳴らしながら、飛び出た二つの目で三人を睨み付けている。

 

「コイツがラヴァゴルム!?」

 

「いや違う。が、相当厄介な野郎だ。ケイ、あいつの目玉を射抜けるか? 倒せはしないが、逃げるだけの時間は稼げる」

 

「了解」

 

 すぐさまケイが背中の弓を手に取り、矢を番えて射る。命中。蟹の魔物の左目に矢が突き刺さった。

 

 片目をやられた蟹の魔物は両腕の鋏を持ち上げ、両目を庇うようにしながら、土砂崩れのような悲鳴を上げて後退していった。その隙にリコがアズライトを拾い、三人はその場から退散した。

 

「さっきのあいつ、一体何だったんですか……?」

 

 急に走って切らした息を整えながら、リコがギービッヒに尋ねる。

 

「あいつはプー・タームという蟹型の魔物だよ。岩の殻を持っていて生半可な攻撃は意味を成さないし、あの鋏に捕まれたが最後、強烈な力でグチャッとされる」

 

 と、両手の平を合わせるジェスチャーを交えながらギービッヒが答える。

 

「おっかない野郎だな……」

 

「岩をもぶち抜く威力の攻撃でごり押しすれば倒せるが、あまり現実的ではない。目が弱点だからさっきみたいにそこを攻撃し、怯んだ隙に逃げるのがベターだ。よほど腕に自信がない限り、倒そうなんて考えちゃいけない。――さ、先に進もう。ラヴァゴルムはもっと下層に棲息している」

 

 三人はラヴァゴルムを求め、遺跡の奥へ奥へと進んでいった。ギービッヒ曰く、この遺跡は五つの階層から成っているそうだ。いま三人がいるのは最上階――地上階層であり、そこから第一階層、第二階層、第三階層、そして最下層――第四階層と地下に潜っていく構造である。ラヴァゴルムはここよりもっと地下深いところ、おおよそ第三階層から下でよく見かけるとギービッヒは語った。

 

「お、あったあった。この階段から下に降りることができるぞ」

 

 よく寺社仏閣にあるような、歪で地味に怖い石の階段を彷彿とさせるそれを下り、三人は下層へと潜っていった。階層が変わっても見た目の変化は大してない。しかし、空気は確実に重苦しいものになっていった。体感温度も一階下る毎に下がっていく。

 

「ここが第三階層だ。たぶんここのどこかには潜んでいるはずだ」

 

 ラヴァゴルムは亀のような外見をしている、とギービッヒは二人に教えていたし、ここに棲む魔物に、他に亀型の魔物は確認されていないので、姿を見れば一発でラヴァゴルムと分かるはずである。

 

 第三階層を探索し始めておおよそ二十分ほどが経過したときだった。石柱の影に何かが潜んでいるのをケイは見た。黒い影が柱の裏でモゾモゾしている。暗くて詳細はよくわからないが、よく目を懲らして見ると、亀の甲羅のように見える。

 

 ケイはその生物を刺激しないよう、蚊の鳴くような小さな声で二人にそのことを伝えた。すぐさまギービッヒが忍び足でその生物の背後に回り、じりじりと接近してみる。

 

 間違いない、こいつがラヴァゴルムだ。それの後ろ姿を見て、ギービッヒは確信した。ゴツゴツとした鉱物でできた甲羅、こんな身体をしているのはラヴァゴルム以外に存在しない。

 

 ラヴァゴルムを仕留めるための作戦は事前に共有されている。ラヴァゴルムは非常に体温の低下に弱い魔物であり、また攻撃されると甲羅の中に閉じこもるという特徴がある。したがって、奇襲を仕掛けてラヴァゴルムを甲羅の中に閉じ込め、その後に氷や水の魔法で囲んで体温を急激に下げてやればオーケーである。ギービッヒの卑怯な作戦とは、この手法のことであった。実際、今までもラヴァゴルムを狩るときはこの作戦で行っており、失敗したことはなかった。今までは。

 

 ギービッヒは目配せで二人に戦闘の合図をし、腰の剣を抜いてラヴァゴルムの甲羅から露出している後ろ足に突き立てた。すると今まで通りラヴァゴルムが甲羅に閉じこもるので、三人で水や氷の魔法をぶち込んで完了……となるはずだったが、目の前の現実は違った。

 

「なにッ!? こいつ、閉じ籠もらない――ッ!」

 

 予想に反してラヴァゴルムは、後ろ足を突いたギービッヒの方を振り向き、鋭い牙を剥き出しにして反撃してきたのである。ギービッヒは咄嗟に後退し、臨戦態勢に。その様子を見ていた二人も同様。

 

「と、とにかく攻撃だ。キンキンに冷えたのをぶっ喰らわせてやれ!」

 

 ラヴァゴルムの噛みつき攻撃を回避しつつ、ギービッヒが二人に向かって叫ぶ。

 

 それに応じて二人は次次と氷の結晶や冷水を生成してはラヴァゴルムに向けて発射した。ラヴァゴルムは頭部の動きは俊敏だが身体全体の動きは鈍く、容易く命中させられた。魔法が命中した瞬間、突如として膨大な白煙が立ちこめ、なにも見えなくなる。

 

「なんだ、やったのか!?」

 

 リコが叫ぶ。

 

「いや、まだだ。――まずいな、これは……」

 

 気のせいか、だんだんと辺りの気温が上昇しているのを二人は感じた。それがだんだんと気のせいなどではなく、実際に暑くなっているのだと分かるのに時間は必要なかった。

 

 白煙が晴れ、視界がクリアになると熱源の正体が判明した。ラヴァゴルムだ。全身に溶岩を纏ったようなフォルムになり、所々から火の粉が舞っている。先ほどの白煙は、水や氷が魔物の超高熱の溶岩とぶつかり、急激に蒸発したためにできた産物だったのだろうとケイは思う。

 

「これからどうするんです、ギービッヒさん?」

 

 と、リコが聞く。

 

「こうなられた以上は水も氷も大して効かん。あまりやりたくはなかったが……ケイ、弓矢に迅速のルーン(フレーツ)を付与して奴のコアを射貫いてくれ。ただ、肉体が木っ端微塵にならないように威力を調節してほしい。できるか?」

 

「保証はできないが……善処します」

 

「あいつのコアは胴体の中央だ。俺が奴の気を引くからその隙に頼む」

 

「了解」

 

 威力を調節と言われても、どれくらいの威力であいつの身体をぶち抜けるのかわからない以上初撃は勘でいくしかない。それで決まればそれで良し。弱かったら徐々に威力を上げていけば良い。もっとも弓が負荷に耐えられれば、の話だが――なにッ!?

 

「おいコノヤロウ、こっち向きやがれバカヤロウ! ――ケイ、避けろッ!」

 

 一瞬何が起きたのかわからなかった。誰かに身体を捕まれ、思い切り左側に引っ張られた。かと思えば、先ほどまでわたしがいたところを炎の柱が貫いている。

 

「気を付けろ。あいつ、遠距離攻撃もしてくるぞ」

 

「リコ……すまない」

 

 こうなりゃもう賭けだ。適当に、前よりは弱めでルーンを付与して射よう。餐鬼(グール)のときは威力最大でぶちかまして消し飛んだから、その半分くらいか。よし、それでやろう。

 

 ケイ、矢の衝撃波を考慮し、ギービッヒが少しラヴァゴルムから離れたタイミングで射撃。放たれた矢はラヴァゴルムの甲羅に突き刺さり、貫き、反対側へ突き抜けた。ラヴァゴルムはその形状を保ったままその場に倒れた。どうやらコアを貫くことができたらしい。

 

「一発で成功……マジか」

 

 ラヴァゴルムが綺麗な状態で死んだ、その状況を見てケイは額にかいた汗を服の袖で拭い、その場に座り込んだ。予想外に一撃で決まってしまったその衝撃と、緊張状態から不意に解放されたことで一気に全身の力が抜けてしまった。

 

「やったなケイ、これで全部集まったぜ!」

 

 と、リコがケイの両肩をバンバン叩いてねぎらう。

 

「受験の時よりも緊張したよ、まったく……」

 

 その後は三人してピッケルで甲羅をかち割り、剣で肉を割いて目的の鉱石、エアリウムを回収した。鉱石は当初の予定通り、一体の死骸から必要量を集めることができた。

 

「よし、これで目的は全て達成した。さ、村に帰ろう。ファルベリヒが待ってる」

お読みいただきありがとうございます。


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