#11 My New Gear……〈上〉
毎週木・日、15時~20時の間に投稿予定
グリムボルトやギービッヒ、それから彼の友人で村の鍛冶職人ファルベリヒの提案で、ファルベリヒが彼とケイのために専用の武器を作ってくれることになった。ここの村の住人はおおよそが自分の武器を持っているのだが、それを二人にも用意してあげようということだった。それも、どうせならとびきりいいモノを。
「これから帰る手掛りを探すために色色なところに行き、時には危険な奴と対峙せねばならないこともあるだろう。そんなときに強い武器があれば安心だ。……まぁ、餞別ってやつだ」
もっともその心は単なる二人へのプレゼントというだけでなく、村の鍛冶技術向上のための試作品、という意味もあるが。
ファルベリヒがこれから作ろうとする武器は、普通の材料では作れない。村を出、あちこちで調達してくる必要がある。ということで、ケイとリコはギービッヒと共に資材調達の旅に出ることになった。
「必要な材料はこれの通りだ。悪いが俺は他の奴らのも作らないといかんから、代わりに調達してきてくれるか」
ファルベリヒはそう言って三人にお使いの品物リストを手渡した。
そのリストによると、要求素材は以下の通りであった。
まずはケイの弓を作るための材料――アズライト、エルダーオーク、アダマンラプトルの腱である。アズライトは山の方にある古代ドワーフの遺跡の内部で調達することが可能だそうだ。エルダーオークはこの村より西方にあるエルフの森で、アダマンラプトルもエルフの森に生息しているので、そこで手に入れることができる。
次にリコの剣のための材料――エアリウムとアダマンラプトルの鱗だ。ラプトルに関しては先ほどの通り。エアリウムはドワーフ遺跡内に生息する魔物、ラヴァゴルムの肉体から採取することが可能である。
もっともエルダーオークに関しては、マハースーン村とその土地に住むエルフとは長い付き合いでありよく取引しているそうなので、今回もエルフの村に行き、要件を伝えるだけで済むらしい。それに、買ったオークを村まで届けてくれるのだとか。
様々な素材をかき集め、それなりの重量が予想されるなか、少しでも材料を運ぶ手間が省けるのはいい、と、ケイはその話を聞いて思った。ギービッヒたちは慣れているのかもしれないが、わたしたちにとっては初めてのお使いである。
ギービッヒが旅の計画を二人に伝える。
「旅の日程はこうだ。明日の早朝に村を出、最初にエルフの森にいってオークを買い、その後にラプトルを狩る。ラプトルは一匹狩れれば十分だ。その後に遺跡に向かい、そこで必要素材を集める」
村からエルフの森までに徒歩で丸一日。その日はエルフの村のお世話になり、翌日からラプトルを探しにエルフの森を探索する。今の時期であれば、恐らく二日もあれば一匹は狩れるだろうと彼は言う。それからまた早朝にエルフの村を出、ドワーフ遺跡に向かい、そこでまた二日ほど活動する。そして無事必要素材を全て集めることができたら、また一日かけて村に帰還する、予定。おおよそ一週間前後の旅。
翌日の早朝、三人は早速村を出、エルフの森へと向かった。持ち物は自衛及び狩猟用の武器と、余裕を持って一週間半分の食料。それらを各各背中に背負う大きなリュックサックに詰めている。
村からエルフの森までは道が用意されており、――アスファルト舗装された道路には及ばないが――それなりに快適に歩くことができた。餐鬼やその他危険な獣の気配もない、ただ鳥のさえずりとそよ風が木の葉を揺らす音だけが聞こえる平和な道のり。
「エルフとは、どんな種族なんですか?」
歩きながらリコが聞く。
「外見はほとんど人間と変わらんよ。耳の形以外は。背丈も大体が君たちと同じくらいだ。あとは……人間やドワーフより魔力量が多く、魔法に長けている傾向にあるな」
「なるほど」
「寿命は、長いんですか? わたしたちの世界では、エルフは大抵長命か不死に描かれていますが」
と、今度はケイが尋ねる。
「ああ、長いぞ。不死ではないが、病気などしなければ二○○年は生きると聞く」
「それはすごいな」
歩きながら、他にも、亜人種ということでドワーフと同様人間から迫害されていること、長命故にあまり繁殖に積極的でなく数が少ないこと、総てに政精霊が宿り、それらを信仰していること、エトセトラ――を二人はギービッヒから教わった。
エルフのこと以外にも、三人は日常の他愛ない話や地球でのことなどを駄弁りながら歩き、夕焼けが西の空に映える頃、ようやくエルフの村に到着した。予定通り徒歩で丸一日を要した。
「いやー、ここがエルフの村かぁ、長かったな」
と、リコが疲れた身体を思い切り伸ばして言う。歩き疲れたのは事実だが、しかしグリムボルトの小屋からマハースーン村まで歩いた時に比べればマシだった。村に来てから仕事の手伝いなどで一日中動き回っていたために自然と鍛えられたのだろうと二人は思う。村に来てから鍛えられたのは、魔法だけではなかったのだ。
三人はエルフ村の村長に案内され、村唯一の宿の一室に泊まることになった。宿といっても観光客用ではなく、今回の用にエルフ村との交易などで訪れた人が泊まるためのもので、イチオシスポットやSNS映えしそうなオーシャンビューなどというものはない。
「俺は村長とエルダーオークの取引の話をしてくるから、二人はこの部屋でくつろいでいてくれ」
その後は三人と村長の四人で夜の食卓を囲み、一日が終わった。
夜が明け、宿の食事処で朝食を済ませた三人はすぐさまアダマンラプトルを狩るために村を出た。昨日の徒歩の旅で消費した体力は完全に回復している。士気も十分。
アダマンラプトルは基本的に五~十匹ほどの群れで行動している肉食恐竜である。狩りは全ての個体による綿密な連携プレイで、なかなか隙がない。そしてラプトルの主武装、後ろ足のかぎ爪が非常に強力で、それで引っ掻かれて平気な生物は少ない。当然人間やドワーフがやられればひとたまりもない。また仲間意識が非常に強く、一匹を攻撃した暁には群れの全員に襲われることを覚悟するべきである。
「――そういうわけだからな、どうにか一匹だけを群れから釣り上げて仕留めたいんだ」
「しかし、そううまくいきますかね」
「大丈夫だ。俺に良い考えがある。まず、お前たちは木の上で待機だ。俺が軽く一発お見舞してやればあいつら全力で俺目掛けてくるだろうから、全速力でお前たちの方まで逃げる。次にリコの出番。最後尾の一匹を魔法で足止めするんだ。最後に動きが止まった奴をケイが射貫いてミッション・コンプリートといった次第だ」
と、ギービッヒが意気揚々と二人に作戦を伝えた。
「それだと俺やケイが攻撃したら、連中のヘイトがこっちに向きませんか?」
「それについては心配ない。ラプトルに木登りの才能はないからな。目を付けられても木から落ちない限り手出しはできない。その後に俺が挑発すればまた俺を追いかけ出すから、適当に撒いて合流するよ。なに、俺は何度もラプトルを狩っているから大丈夫だ。絶対うまういく」
「俺、心臓発作で死ぬかも」
「おいリコ、弱気なことを言うなよ。心を静めて、虎視眈々とそのときを待っていればいい」
「ああ、ケイ、そうだな。弓道やってる奴の言うことは違う」
それから三人が森の中を彷徨い続けること四時間ほど、遂に五十メートルほど先にアダマンラプトルの群れを発見した。数は、七匹ほどか。何か獲物を仕留めたのか、一カ所に集まって動かない。チャンスだ。
「よし、やるぞ。作戦開始だ」
ケイとリコが木に登ってポジションに着いたことを確認し、ギービッヒが行動に出る。といっても最初は至って単純で、群れに近付き、適当にその辺に落ちている石を拾い、群れに向かって投げつけるだけだが。
「よし、食い付いたな。いいぞ、着いてこい」
アダマンラプトルが一斉に彼の方を振り向き、リーダーと思しき個体の鳴き声を合図に一斉に走り出した。アダマンラプトルの武器に圧倒的な速力と走破力がある。どんな悪路でも構わず猛スピードで獲物に肉薄し、取り囲み、全方位から攻撃を繰り出す――アダマンラプトルの伝家の宝刀だ。普通の人間や亜人種の足では、追いかけられたら逃げ切るのは至難の業だ。だが、ルーナ・マルカを発動した場合はその限りではない。履き物に迅速のルーンを付与して繰り出される速力は、ラプトルの猛追を振り切るには十分である。
「ケイ、リコ、来たぞ! 準備はいいな!?」
ギービッヒが木の上にいる二人に向かって叫ぶ。二人にもギービッヒと、彼を追いかけるラプトルの群れが視認できた。あっという間に根元まで接近し、通過しようとする。勝負は一瞬で決まる。最後尾の一匹によく狙いを付け、リコが魔法を発動。見事成功し、一匹の身動きが取れなくなる。そこへケイがすかさず射貫いた。放たれた矢は一発でラプトルの急所を破壊し、ラプトルは生命活動を停止した。
「よし、やった!」
当初の予想では、仲間の死を認識した他のラプトルが二人のいる木を取り囲むかと思われたが、実際にはそのようなことはなかった。他のラプトルは仲間の死に気付くことなく、一切減速することなくギービッヒ目掛けて駆け抜けていった。
その後しばらくしてラプトルを撒いたギービッヒが二人のもとに戻ってきた。
「よくやったな、二人とも」
仕留めたラプトルを見てギービッヒが言う。
「バトロワゲーでラスト十人になったときよりも緊張したよ……」
と、リコが大きなため息をついて呟いた。
「ちゃんとできたじゃないか。わたしの言った通りだろう」
と、ケイが彼の背中を小突いて言う。
「こいつ一匹で必要素材は十分集まる。村に帰ろう」
三人は仕留めたラプトルを抱え、村に戻って疲れた身体を休めた。予定より一日早いが、明日は古代ドワーフの遺跡に向かって出発するのだ。素材集めの旅は後半戦へと続く。
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