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ロータス旅行団~出生不詳JKの異世界冒険譚~  作者: 景少佐
 ZWEITER AUFZUG:異界へようこそ
21/42

#08 古代の叡智

毎週木・日、15時~20時の間に投稿予定

 村に戻ってきたケイとリコ、ギービッヒは、早速ケイのペンダントを今一度よく観察してみた。

 

 見た目は何の変哲もない、歪な円形の石。所々がやや赤色に輝いているのでなにか鉱物の原石かも知れない。外見に対する感想は地球にいた頃と変わらないし、ギービッヒも同じようなことを言っていた。しかし、確かに魔法が仕込まれている、と、ギービッヒは断定した。それも、かなり高度で複雑な代物が。

 

「傷を治す魔法は、そんなに難しいんですか?」

 

 と、リコが質問する。

 

「色色だ。誰でもできる簡単なやつから、一握りの奴しか扱えないものまで様々ある。難しくなるほど治せる怪我のキャパが大きくなって、最高級の魔法になると、死んでさえいなければどんな傷も治せるなんて噂を聞いたことがある」

 

「なるほど」

 

「で、こいつの魔法なんだが……見れば見るほど訳が分からん。こんな魔法は見たことがない。大抵のは、多少複雑でもゆっくりと紐解いていけば全容が分かるんだが、これに関しては駄目だな。そんなことをしていたら百年はかかりそうだ。――百年はオーバーかもしれんが」

 

 と、ギービッヒが両手を頭の上に上げ、お手上げのポーズでそう言った。

 

 結局分かったのは、回復系の魔法らしい、ということだけだった。それも確たる根拠があるわけではなく、単なる先程の現象からの推測だ。

 

「それにしても、なんでケイはこんな物を持っていたんだ……?」

 

 と、リコがポツリと呟いた。

 

「なあケイ、本当にいつからこれを持っていたとか、誰に貰ったとかわからないのか?」

 

「あいにく。誰もなにも覚えていないんだ」

 

「孤児院の資料とかにはなにか書いていないのか? 人が覚えていなくても、さすがに書類ではなにか書かれているだろう、常識的に考えて」

 

「それも、それとなく聞いたことは何回かあるんだがね。毎回上手い具合にはぐらかされるんだ。正直今までそういうことにあまり興味がなかったからあれだったが、もっと踏み込んで聞いてみればよかった」

 

 などと二人が話し合っている傍らで、ギービッヒがある一つの仮説を思いつき、二人に打ち明けた。

 

 その仮説というのは、次の通りだった。まずケイはこちらの世界で産まれ、このペンダントを授けられた後に地球に転移。そのまま地球で成長し、いま再びこちらに転移した(戻ってきた)のである。これならば確かにケイが魔導具を持っている理由になり得る。ただそれを証明する手段が今のところ存在しない。

 

「地球にも呪物と言われる物は幾つもあったし、実は地球にも魔法が存在して、一部の人間だけが知っている、ということも考えられる。かなり陰謀論チックな話だけどね」

 

 と、リコ。

 

 畢竟、現時点では材料がなさ過ぎて何かを証明することはできない、という事実だけが判明した。今のまま話し合っても、それはただの妄想披露大会でしかない。

 

 しかし、ケイの出自が単に皆が忘れて有耶無耶になっている訳ではないらしい、ということは三人とも悟っていた。

 

 今までは大して気にしていなかったが、このような事態になってくると、嫌でも興味が湧いてくるのだな、と、ケイは思う。いったい自分の所以にどんな秘密が隠されているのか。もしかしたら自分が、わたしにこのペンダントを授けた人に世界を託された救世の英雄なのだったりして。いや、さすがに気持ち悪い妄想が過ぎるな。それで実際にはショボい事実であったら恥ずかしすぎる。でも、ショボい事実ならそれはそれでいいのかもしれない。何かとても大きなことを託されていて、そのプレッシャーに押しつぶされる可能性だってあるのだから。それにもしかしたら、知らない方が幸せな、とんでもなく悲惨な秘密かもしれない。そんなものに巻き込まれて、将来に絶望し、挙げ句リコとも引き裂かれたなんてことになったら……考えたくもない。


 

 それからも二人は毎日、暇な時間にギービッヒと魔法の練習に励んだ。練習を重ねる毎にだんだんと体内を流れる魔力の流れをはっきりと認識できるようになり、魔力量も増えていっていることがわかる。ギービッヒ曰く、特に意識していなければ常に身体から魔力がオーラとなって漏出されているらしく、それを感じることでその人の大体の魔力量を量ることができるそうだ。当然二人の周りにも彼らの魔力がオーラとして漏出されており、それを通してギービッヒも二人の成長を感じていた。

 

「体外に漏れ出る魔力を抑え込むことで魔力量を偽装したり、放出される魔力から敵に位置を悟られにくくなる。これは結構な特訓が必要だが、できるようになれば色色と役立つ場面が多い。それに、これは今はあまり気にしなくてもいいんだが、あまりに魔力量が多すぎて、それを抑えずに漏出しっぱなしでいると相手に要らぬプレッシャーを与えてしまう可能性もある」

 

 という訳で魔法の練習の他にも、二人は意識して漏出魔力を抑える練習をしていた。これは別にギービッヒがいなくとも、いつでもできた。が、これが思ったよりも大変な集中力を要した。集中している間は漏出を抑えられるのだが、少しでも気が抜けるとすぐに駄目になった。

 

 魔法の練習を開始してから二人の魔法の腕は恐るべきスピードで上達し、一週間が経過した頃には、ギービッヒが二人に教えられることは殆どなくなってしまった。ギービッヒが知っている魔法はほとんど伝授したし、漏出魔力の抑制はひたすらに本人の努力次第だ。そこにギービッヒがあれこれ言える箇所はない。

 

 ということでギービッヒは最後に、ドワーフ族に代々伝わる魔法「ルーナ・マルカ」を二人に伝授することにした。「ルーナ・マルカ」は道具や武具に付与することで、それの威力や耐久力などなどを底上げすることができる魔法である。これは古代のドワーフたちの叡智の結集であり、今までギービッヒが教えてきた魔法(今までのは全て人間が開発した魔法である)とは様々な点で異なっている。


 百聞は一見にしかずということで、ギービッヒは細かい説明は後にして早速二人に実践して見せた。持参した剣を鞘から抜き、ルーナ・マルカを発動、剣の威力を底上げする。そして一本の一際巨大な木を見つめ、剣を振る。と、大木は一切の抵抗のない、滑らかな太刀筋で一刀両断され、ずしんと大きな音を立てて地面に倒れた。

 

「――これがルーナ・マルカの力だ。どうだ、すごいだろう。人間共が我々ドワーフ族を滅ぼせない理由の一つでもあるからな」

 

 と、ギービッヒが自慢して言う。

 

 この魔法の発動方法は、人間由来の魔法とは異なり、古ドワーフ語で詠唱をする必要がある。魔法を付与したい道具と体内の魔力に集中し、付与したい効果――ルーンと呼ばれる――を選択し、最後に「ルーノース・フラブギャ・アイウィス・マガン」、これを正確に発音して唱えないことにはこの魔法の発動はかなわない。

 

 この発音に二人はかなり苦戦した。(小説という形態の都合上片仮名で詠唱文を表しているため伝わりにくいかと思うが)日本語やイタリア語にはない発音方法――口の形、舌の使い方など――が多々あり、それをマスターし、完璧に発音するにはかなりの時間を要した。最終的にそれの練習だけで一時間が消し飛んだ。

 

「はぁ……やっとまともに言えるようになった……」

 

 と、リコがため息交じりに吐露する。

 

「ハハハ、だいぶ頑張ったな。だけどこれはまだまだ序章に過ぎないぞ。ルーナ・マルカを発動させるには、そのためのプロセスを全て古ドワーフ語で考えなければいけないからな」

 

「はぁ!? なんだそりゃ」

 

「まあ安心しろ。発動に必要な文法と単語さえ覚えておけばいい。なにも古ドワーフ語で会話できるようになる必要はない。俺たちだってそれで日常会話はできないしな」

 

 それからギービッヒは発動に必要とされる文や単語を次次に教えていった。その大半は道具に付与するルーンの名前であり、守護のルーン(ウスドレービ)力のルーン(マクティ)迅速のルーン(フレーツ)などなど、計十種類を一気に教え込まれた。

 

「一気に覚えるのは無理だろうから、実践しながら少しずつ覚えていこう。試しにその剣に力のルーン(マクティ)を付与してその辺の木を斬ってごらん」

 

 そうギービッヒに促され、二人は早速覚えたての知識を使い、剣にルーンを付与してみた。成功。持っているだけで、ルーンが施された剣からただならぬパワーをひしひしと感じられる。

 

 そのパワーに負けぬようしっかりと柄を握りしめ、二人は木に向かって剣を振ってみた。すると、本来であれば一太刀でなど到底斬れっこなさそうな太い木の幹に、まるで包丁で豆腐を切るようにすんなりと刃が入り、そのままなんの抵抗も受けることなくするっと抜けてしまった。斬られた木は真っ平らな断面を滑り落ちるようにして倒れた。

 

「これが……ルーナ・マルカ……」

 

 あまりの魔法の威力に、二人はしばしの間放心状態であった。ギービッヒの実演を見たときでも大変な衝撃であったが、いざ自分でやってみると、受けるショックはその比ではなかった。

 

「どうだ、自分の手でやってみた感想は? 我々ドワーフ族が代々受け継いできた叡智の一端に触れた気分はどうかね」

 

 と、ギービッヒが誇らしげな表情で声高らかかに言う。

 

「いやぁ、もう、『すごい』という言葉しか出てきませんよ。未だにこの木を自分の一太刀で斬ったなんて、信じられない」

 

「そうだろうそうだろう。我々の伝家の宝刀だ、驚いてくれなきゃ困るってもん――」

 

 と言いかけて、ギービッヒは口をつぐんでしまった。顔をこわばらせ、何かに集中している様子。

 

 ギービッヒが何に集中しているのかは、すぐに二人にも分かった。一週間の練習によって、二人も漏出魔力から、魔力の多い人間や亜人種ならば存在と位置をある程度察知できるようになっていた。

 

「お客さんだ。きっと俺たちのヤバいパワーが気になって来やがったんだな」

 

 この魔力の感じは、間違いなく餐鬼(グール)だった。グリムボルトとの対面の日以来ご無沙汰だった奴ら。数は五体。かなり速い速度でこちらに向かってくる。森の中を脇目も振らずに猛ダッシュして来ているのだろう。

 

「結構派手にやったからな。音と魔力からここにデカい獲物がいると悟ったか」

 

「わたしが弓矢で初めましての挨拶をしてやる。迅速のルーン(フレーツ)、弓矢にも有効ですよね?」

 

 と言いながら、ケイがすかさず弓矢を構えた。敵の姿は目視では確認できない。が、漏出魔力から位置を割り出して狙いを付ける。

 

「ああ。威力が格段に跳ね上がるぞ」

 

 ケイは矢を番えて引き、目一杯魔力を注ぎ込んで弓矢に迅速のルーン(フレーツ)を付与してから第一射を放った。放たれた矢は目にもとまらぬ速さで森を貫いた。矢の飛ぶ風圧で周辺の枝や葉が舞い飛ぶ。射線上に木があろうとも、それを貫き、なぎ倒して突き進んでいった。命中。矢は餐鬼の上半身に命中し、下半身を残して跡形もなく吹き飛ばした。

 

 間髪入れずに第二、第三射。第二射も命中して撃破したが、漏出魔力による情報だけでは曖昧な部分も多く、第三射は餐鬼の胴体の左側を掠めるに終わった――それでも矢の衝撃波で左腕を奪い、吹き飛ばして数秒の足止めにはなったが――。

 

「クソ、弦が切れた。強化に耐えきれなかったか」

 

 残った餐鬼二体はもう目と鼻の先まで迫ってきていた。その後ろから左腕をやられたもう一体も来る。

 

「二体殺れれば十分だ。あとは俺がやる」

 

 今度はリコが剣にルーンを付与し、攻勢に出る。

 

 残存する三体の餐鬼は、リコの一太刀で頭部を消し飛ばされ、消滅した。他に餐鬼らしき漏出魔力は感知できない。一先ずは撃退に成功したとみてよいだろうとギービッヒは思う。

 

「マジか、今の一振りだけで剣が壊れちまった」

 

 見ると、リコの剣も刃にヒビが入り、ボロボロと崩壊していた。

 

「威力を底上げする系のルーンは道具への負荷がすさまじいからな。やり過ぎると一発でお釈迦になる。ルーナ・マルカを常用するにはもっと良い道具じゃないと厳しいだろう」

 

「なるほど……」

 

「とにかく、今日はここまでだ。新手が来ない内に帰るぞ」

お読みいただきありがとうございます。


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