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ロータス旅行団~出生不詳JKの異世界冒険譚~  作者: 景少佐
 ZWEITER AUFZUG:異界へようこそ
20/42

#07 魔法・入門編

毎週木・日、15時~20時の間に投稿予定

 ケイとリコが森で出会ったドワーフ族グリムボルトの村、マハースーン村にお世話になってから早くも一週間が経過していた。この一週間で状況に何か進展があったかといえばそんなことはなく、村の仕事を手伝いながら村人たちと過ごしていた。が、二人の状況には大した変化がなかった一方で、村の状況はそれまでとずいぶん変わったようである。グリムボルトと出会った日に戦った餐鬼(グール)との戦闘データから村の防御力を強化した方がいいということで、二人が来てからは村外周の丸太柵設置や堀作成などが急務となり、連日手の空いている者が交代交代でひっきりなしに作業していた。二人の手伝いの大半もその作業であった。パワーショベルやクレーン車などのパワフルな重機は当然無いため、作業はかなり大変なものだろうと二人は当初、想像していた。しかし実際には魔法がその代替となっており、想像以上に作業の進行は速かった。

 

 ある日、二人はグリムボルトに魔法の教えを請うことにした。というのも村のドワーフたちは皆、得手不得手はあれど魔法を使うことができた。そして、魔法を使う生活が当たり前であった。しかしながらケイとリコはというと、その当たり前であるべき魔法が使えなかった。産まれてから十七年間の地球での生活において魔法など存在しなかったので、できなくて当然ではあるのだが、しかしこの差は二人にとってはなかなか歯がゆいものとなっていたためである。それに、単純にファンタジーの映画やゲームなどではない、リアルの魔法に興味があったというのもある。

 

「――というわけで、グリムボルトさん、俺たちに魔法を教えてください!」

 

 そう懇願する二人を前にして、グリムボルトはやや困惑気味であった。彼は昔、まだ彼の父親が村長の時代、自分の子供たちに魔法を教えてやっていた頃があったので、魔法を教えるということに対して懐かしさを覚えるし、別に嫌というわけではない。しかし仮にも村長という立場上、村全体の管理やその他諸諸の仕事でなかなか手が空かないのである。

 

「ウムゥ、教えてあげたいのは山山なんだが、どうにも暇な時間が少なくてな……」

 

 そこでグリムボルトは、頭の中でとある人物に注目した。その人物というのは、この村で一番魔法が上手であり、且つ彼の息子の一人、ギービッヒである。

 

 そういうわけで、二人の魔法の指南役としてちょうど仕事の手が空いていたギービッヒが任命された。二人は早速彼に連れられて村を出、山の中の少し開けた場所に向かった。さすがに民家などがある村の中で魔法の練習はできなかった。誤爆して家を吹き飛ばしてしまうなどの可能性があるから。


「まず、魔法を使うには魔力を消費する。この魔力というのは体力と同じで、限界はあるが鍛えれば鍛えるだけ増える。だから、魔力を増やしたければ、積極的に魔法を使うことだ」

 

 と、ギービッヒが二人に魔法の基礎中の基礎知識を教える。

 

「元いた世界では魔法なんて存在しなかったのですが、それでも俺たちにはあるんですか?」

 

 と、リコが質問する。この世の有りと有らゆるものに魔力が宿っている、という話は事前にグリムボルトから聞いていた。が、それはあくまでこの世界に存在するものにおいての話であって、そもそも住む世界が違う(と思われる)ケイやリコにもそれが当てはまるのかは疑問であった。ここに来て「さあやろう」となってから魔力が無いと判明しては徒労に終わるので予めグリムボルトに尋ね、問題ないことは聞いていたが、しかし一応彼はギービッヒにも聞いてみた。


「ああ、大丈夫だ。二人にもちゃんと宿っている。まあただ、現時点での魔力量は赤子と同程度だけどね。なに、今まで使ってこなかったんだから仕方ないことだし、気にすることはない。これから鍛えていけばいいんだ。でも、ちょっと気になることが一点だけ……」

 

「なんです?」

 

 と、リコ。

 

「いや、たいしたことじゃないんだがね。ケイ君……えぇと、なんて呼べばいいかな」


「ケイ、で大丈夫です」

 

「ケイ、君の魔力は何故か、まったく使っていなかったという割にはちょっと多いんだよね」

 

「はあ、そうなんですか……」

 

 と、ケイが不思議そうな顔を浮かべてそう相づちを打つ。

 

「まあ、魔力量には個人差もあるし、いちいち気にすることでもないんだが……。まあいいや、早速レクチャー開始といこうか」

 

 ギービッヒはまず手始めに、最も初歩的な魔法の中の二つ、アグニヴァーラ(火球を出す魔法)とジャラヴァーラ(水球を出す魔法)を二人に実践して見せた。やり方やコツなどを説明しながら右手を前に突き出し、集中して体内を循環する魔力を掴み、今から起こす魔法の現象を鮮明にイメージして魔法の名前を唱える。すると、突き出された手の先に小さな火球が出現した。その次に水球。成功である。

 

「――というわけだ。他のどんな難易度の魔法も発動の仕方は全てこれが基本となるから、これができなければ魔法をまったく使えないと言っていい。逆にこれが難なくできるようになれば、他の魔法の習得もはやい」

 

 魔法の難易度は最低消費魔力と現象の手順量で決まる。最低消費魔力が術者の保有魔力より大きければ発動できないし、手順量が増えれば増えるほど鮮明にイメージすることが難しくなる。魔法というのは魔力を注げば注ぐほど威力や規模が上昇し、イメージが鮮明であればあるほど精度が良くなる。

 

「さ、二人の番だ。やってみろ」

 

 ギービッヒに促され、二人は早速人生初の魔法にチャレンジした。ギービッヒがやっていた動作を思い出し、己に宿る魔力に集中する。それからこれから起こす現象の様子をイメージ。今回であれば、前に突き出した手の先に火球または水球が出現する様子を思い描けば良い。そしてこれ以上ないくらいに熟したと思った段階で魔法の名を唱える。

 

「おお、二人とも成功だ。すごいな、一発でキメるとは」

 

 続いてギービッヒは、物体を宙に浮かせる魔法、ラーヒタを二人に教えた。これは今現在、村の塀と堀の工事で男たちが使っている魔法でもある。その他にも遠くの物を取りたいが立ち上がるのが面倒なときや、敵の足止めなどにも使えるため、極めて汎用性が高い魔法だ。もっとも、精密な作業をするには精度を高くし、重い物や大きい物を持ち上げるにはその分だけ魔力を投入しなければならないため、これの汎用性は術者の能力に依存するが。

 

 ギービッヒが同様に実践し、地面に落ちていた小石を試しに持ち上げて見せる。すると手品のようになにかタネがあるわけでもないのに小石が浮遊した。それから二人にバトンタッチ。

 

「最初は軽い葉っぱとかの方が良いかもしれんが、さっきの感じなら問題ないだろう」

 

 とギービッヒは言う。

 

 リコが真っ先に実践し、見事に成功させた。見ると、確かに小石が彼の腰あたりの高さでふよふよと浮かんでいる。

 

「なんだこれ、魔法楽しすぎるだろ」

 

 と、リコがはしゃいで言う。

 

 彼に続いてケイも実践。が、少々イメージが雑だった。

 

「げぇっ、ちょっと待っ――ッ!」

 

 と言う間もなく小石が想像以上に上昇し、ケイの額にクリーンヒットしてしまった。小石がぶつかった箇所に血が滲む。

 

「大丈夫か? 怪我しているじゃないか。はやく手当をしないと」

 

「まずったな。さっきの成功で調子に乗りすぎた」

 

 と、ケイが痛む額に手を当て、顔をしかめて言う。

 

「大丈夫だ。すぐに治癒魔法をかけてやる。さ、怪我したところを見せてごらん」

 

 そう言ってギービッヒはすぐさま彼女に近寄り、患部を見た。そして彼は、あることに気が付いた。

 

 傷が、目に見える程の速度で修復されているのだ。まだ治癒魔法をかけていないというのに。ケイが自分で魔法をかけているということも考えられない。リコがやっているということも同様。

 

「いったい、何が起こっているんだ……? そっちの世界の人間は、こんなにはやく傷が癒えるのか?」

 

「まさか。こんなこと、有り得ないですよ……」

 

 リコが即座に首を横に振る。

 

 ケイ自身も、自分の身に何が起こっているのか理解できていなかった。そのとき、ケイは胸のあたりが少し暖かくなっていることに気付いた。例のペンダントだ。彼女は服の中に入れていたペンダントを取り出してみる。と、それはわずかに発熱・発光していた。今までこんなことはなかったのに。

 

「ケイ、それは……?」

 

「物心ついたときからずっと持っていた物です。誰に渡されたのか、いつから持っていたのかはわかりませんが」

 

「てことはそっちの世界で、か。それを手に取ってみてもいいかい?」

 

「ええ、どうぞ」

 

 ケイは首からペンダントを外し、ギービッヒに手渡す。渡されたそれを観察し、彼はウムゥと唸った。

 

「なんてことだ。これは魔動具だよ。魔法が仕込まれている」

 

「魔導具?」

 

 と、リコ。

 

「予め魔法が仕込まれた道具のことさ。大昔に作られたオーパーツ的アイテムだ。どうやって作られたのか、今ではまるで分からない代物だよ。魔導具は普通の魔法とは違って、魔力さえ流し込めば自動で発動する。――多分こいつは、治癒の魔法が仕込まれているんだろう。傷を負ったと同時にケイの魔力を吸い、傷を治したんだろうな」

 

 と、ギービッヒがペンダントを穴が空くほど眺めながら、早口で雪崩のように話す。

 

「はえぇ、すっごい……。でも、なんでそんなものをケイが?」

 

「それが謎なんだ。そっちの世界は魔法がなかったんだろう? じゃあ魔導具もあるはずがない」

 

 なんということだろう。また謎が一つ、増えてしまったではないか。しかもこれは、一筋縄ではいかなそうだとケイは思う。確かにわたしの出自はわからないことだらけだ。もしかしたらその謎を解く鍵の一つが、このペンダントなのかもしれない。そういう考え方もできるが、しかし、どうはめればよいのかが皆目見当も付かない。使い方が分からないでは鍵にはなり得ない。

 

「一先ず、村に戻ろう。考えるのはそれからだ」

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