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ロータス旅行団~出生不詳JKの異世界冒険譚~  作者: 景少佐
 ZWEITER AUFZUG:異界へようこそ
14/42

#01 亜人種との邂逅

毎週木・日、15時~20時の間に投稿予定

 いったい何時間ほど、眠っていたのだろうか。


 ケイは目を覚まし、まだ若干眠たい目を制服の裾で擦った。布団もシーツも何もない、ただ木の板だけが敷かれた堅いベッドで寝たせいで背中が痛い。今まで柔らかいベッドの上でしか寝たことのないケイは、最初こそこんなところでろくに睡眠が取れるのか不安だった。が、いざ寝てしまえば、周囲の環境などまったく問題ではなかった。もっとも、起床後はその限りではないが。


 枕元に置いていた腕時計を手に取り、文字盤を見た。長針は一○、短針は九を指している。九時五○分。だが、すぐにこの時計がこの世界の時間と対応しているとは限らないことを思い出し、再び枕元に置いた。


 ケイはベッドから起き上がって靴を履き、そっとドアを開けて外の様子を覗いてみた。その瞬間、ギラギラと輝く日光が暗い室内を一刀両断した。朝だ。昨晩からずっと暗い空間に慣れていた彼女の目は、突然の強烈な光に対応できておらず、彼女は思わず両目を腕で覆った。それから、ゆっくり、ゆっくりと腕をどかし、目を光に慣れさせる。


 暖かな日の光を浴び、なんと爽やかな朝だろうか、と、ケイは外の景色を見て思った。昨日の惨状など存在しなかった、お前は夢馬に取り憑かれていたのだと言わんばかりの気持ちよい朝。昨晩の豪雨はもうすっかり晴れており、空は快晴。一つの雲もなく、まったくもって遮られることのない日光が燦々と地表に降り注いでいる。それから少し視点を落とすと、すがすがしい陽光を少しでも効率よく受けようと、木木が緑の葉を目一杯広げていた。さらに視点を落として地面を見ると、昨晩の雨のせいか、ところどころに大小様々な水たまりが出来ていた。屋根からは滴が数十秒間隔で滴り落ち、ボーッと景色に見とれていたケイの頭を濡らす。


 それからケイは室内に戻った。まだぐっすりと眠っているリコを起こすために。


 ベッドで寝ているリコの横にケイは立ち、「起きろ、朝だぞ」と声をかけつつ揺さぶってやった。と、今回はすんなりといった。いつもであれば、寝ている彼を起こすのは一苦労なのだが。


「んぁ、おはよう、マイハニー……」


 と、リコが寝ぼけた声で寝言を言う。

 

「くたばれ。――外を見てみろよ。今まで見たことのないくらいの心地いい朝だ」


「本当に?」


 そう言ってリコもベッドから起き上がり、まだ眠気が抜けきらない頭でドアを開け、外を見た。


「フムン。確かにこりゃいい朝だ。お陰で目も覚めた」


「だろう。――で、今日はどうするんだ?」

 

 手の平を敬礼のようにしてまぶしい日光から目を守りつつ、外の様子を眺めているリコの後ろからケイが訊く。


「そうだなぁ……昨日まだ行ってないところに行ってみようか。食べ物も探さないといけないし。まあ、まずは朝飯を食おう」


 それから二人は、昨日のうちに確保しておいた朝食を取り、ゴミを片付け、外出の準備をしていた。壁に掛けられていた剣と弓を装備して忘れ物がないことを確認し、さあ出掛けようとした、そのときだった。不意に、キィと音を立ててドアが開いた。二人のどちらもドアノブに手などかけていないというのに。


 それを皮切りに、一瞬にして二人の間に緊張が走った。風などで勝手に開くような代物ではない。確実に、誰かが外から開けているのだ。今にもこの小屋に入ってこようとしているのがここの持ち主で、且つ話の通じる相手だったらいい。てんでバラバラに逃げた他のクラスメートが逃げ込んできたというのなら最高だ。確実に話が通じる。が、想定すべきはいつだって最悪の事態だ。例の人喰い族か。それとも肉食獣か。


 リコは剣を、ケイは弓をそれぞれ構え、正体不明の侵入者に備えた。何者か、固唾を飲んでその正体を明かすのを待つ。


 そして遂に、ドアが完全に開かれ、その正体が露わとなった。開かれた扉から差し込む日光を背負い、二人にその影を見せる。

 

 それは二足歩行で、人型だった。が、身長が低い。目測で一・四メートルほどだろうか。しかし子供や女という訳ではない。ボディビルダーとまではいかないが、なかなかの筋肉を備えており、顎には立派な灰色の髭をぶらさげている。それから毛皮で作られたと思われる服と帽子をかぶっている。


 その者は自分に向けて剣と弓を構えている二人の姿を見、一瞬目を見開いて驚いた様子を見せたが、すぐに落ち着き払い、腰の剣を抜いて構え、叫んだ。


「誰だ、お前たちは。ここでなにをしている!?」


 言葉を発した。しかも意味がわかる。言葉が通じている。風貌はとても日本人とは思えないが、しかし、これは運がいい。


 はやる気持ちを抑えつつ、慎重にリコが口を開いた。


「あなたは、この小屋の持ち主ですか?」


 目と目が合う。言葉が通じるからといって、向こうに害意がないという保証はないし、勘違いから殺し合いに発展するかもしれない。

 

「いかにも。これは儂の小屋だ。……人間だな、お前たち。賊か? 儂の小屋でなにをしていた」


「そうでしたか。それは失礼しました。我々、道に迷ってしまいまして」


 そう言ってリコはゆっくりと剣を下ろし、ケイにも武装を解くよう合図する。もっとも、それで警戒を解いた訳ではない。向こうの出方次第では、いつでも応戦できるよう、剣を握る力は緩めない。


「そうだったか。……詳しく聞こう」


 その者は剣を鞘にしまってそう言った。


 それから二人はその者に、飛行機に乗っていたらここに墜ちていたこと、食人族に襲われたこと、仲間の何人かがそいつに喰われたことなど、今までのことを洗いざらい話した。すべてがあまりにも非常識なことであり、鮮明に記憶していたため、思い出すことに苦しむことはなかった。


 二人の話を聞き、その者はしばしうつむいて黙り込んだ後に顔を上げて言った。


「なるほどな。お前たちの言う国や飛行機、という物はよくわからんが、お前たちを襲った奴の正体はわかる。災難だったな」


「信じて、いただけるのですか?」


 と、リコ。


「全部を、とはいかない。日本、と言ったか? そんな国は聞いたことがないし、飛行機という乗り物も儂は知らん。正直言って眉唾だ。それにお前たちの服装だ。そんな服は見たことがない。だが、どうも嘘を付いているようには見えん」


「わかるのですか、そんなこと?」


「ああ。人間の嘘には慣れているからな。連中が嘘を付き、我々を欺こうとするときは必ずその背後に黒いモノが見え隠れしている。だが、今のお前たちにはそういうものが見えない」


 どうやら信用は勝ち取れたらしい、と、二人は思い、内心でほっとした。しかし、それと同時に一つの疑問が湧いてきた。それは、この者の発言だ。どうも彼は、自分が人間ではないような言い方をする。単に人嫌いだからそう言っているのだろうか。その疑問を、リコは彼に投げかけてみた。


「それは、まあ、有り難いことですが……その言い方だと、まるであなたは人間ではないように聞こえます」


 そのリコの発言に、彼はキョトンとした目をして答えた。

 

「はぁ? なんだ、お前たち、ずっと儂を人間だと思っていたのか?」


「なんだって!?」


「儂はドワーフ族。誰もが知っているものだと思っていたので特別取り上げて言わなかったが、まさか知らなかったとは」


 ドワーフ族――ファンタジー物の作品などでしか聞いたことのない単語だが、彼は確かに自分をそう説明した。正直、信じられない。二人はそう思った。


「ドワーフって…… それは、その、人間の数ある民族のなかの一つの名前、という訳ではない、のですよね。あの、ホピ族とか、マサイ族みたいなのとは違って……」


 と、リコがしどろもどろになりながら訊く。


「ドワーフ族は亜人種の一つ。人間とは似て非なる種族だ。じゃあなんだ、お前たち人間が昔から我々亜人種を迫害してきたことも知らないのか?」


「迫害も何も、我々にとってはドワーフなんてファンタジーの世界の存在だった。ドワーフが実在したなんてことがわかれば、世紀の大発見ですよ」

 

 どうやら、二人と彼では持っている常識が致命的に違うらしい。そのことを、今までのやりとりで三人はだんだんと自覚していった。


「はぁ、こりゃ参ったな。まるで話が噛み合わない。話が通じるのはお前たちを襲った化け物のことだけか」


 と、彼がため息をつき、呆れ果てて言った。


「参ったのは我々もですよ。まるで……絵本の世界に迷い込んだみたいだ」


「どうやら、儂らはひとまず状況を整理する必要があるな。――儂はグリムボルト。ドワーフ族だ」


「俺はリコ。唐澤リコです。で、こっちは――」


「矢蔓ケイです」


「こいつは少々人見知りでして。まあ、宜しく、といったところですかね」

お読みいただきありがとうございます。


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