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ロータス旅行団~出生不詳JKの異世界冒険譚~  作者: 景少佐
 ERSTER AUFZUG:Timelineの分れ
12/42

#11 束の間の安息

毎週金・日、15時~20時の間に投稿予定

 リコは慎重に、小屋のドアをノックした。三回。……反応がない。やはり中には誰もいないのか?


 二人は顔を見合わせた。そして無言でうなずき、リコはそっとドアノブに手をかける。


 開いた。彼は少し立て付けが悪いと感じたが、開閉に支障はない。


 二人はもう一度、顔を見合わせた。


「開いた……な」


 と、リコが声を押し殺して言う。


 二人はそっと、中を覗いてみた。誰も居ない。窓が無いせいか、中は真っ暗だった。ただ、リコが開けたドアの隙間から差し込む夕日だけが赤赤と小屋の床を照らしている。


「入ろう」


 ケイがスカートのポケットからスマホを取り出し、ライトを付けて中を照らして入る。小屋の中は仕切りで二つのルームに分れていた。片方には石造りの暖炉のようなものがあり、もう片方には木製の簡易的なベッドが二つ、並んでいた。


 二人はベッドのある部屋に入り、そこに荷物を降ろした。ようやく肩が荷物の圧力から解放され、圧迫されていた血流が元の勢いを取り戻して喜んだ。そして腰をおろし、ホッと一息つく。


「いやいや、これは本当に運がいいな」


 と、リコが壁に寄り掛かり、くたびれた身体をうんと伸ばして言う。


「それに、見ろよ、これ。剣と弓だ」


 と、ケイが壁を指さして言う。そこには、弓と剣がそれぞれ一つずつラックにかけられてあった。


 リコが立ち上がり、その剣を手に取ってみる。日中に拾った短剣より大きい分、それなりに重量がある。竹刀やおもちゃの剣などでは断じてない、鉄を打って作られた本物の剣だ。鞘から抜いてみると、それがより顕著に伝わった。刃は丁寧に磨かれており、室内のわずかな光を貪欲にかき集め、撥ね返して輝いている。


 ケイも壁掛けの弓をその手に取ってみた。長さはおおよそ一八○センチほどといったところか。ケイの慎重よりは二○センチほど大きいが、しかし普段使っている弓道用の弓よりは遙かに短い。矢は、矢じりが縦長の四角錐型。恐らく鉄製だろうか、とケイは思う。材質や形状は、弓道用の矢とは大きく異なっていた。弓道用の矢には大抵、ジュラルミンやカーボンなどが使われる。しかしいまここにあるそれは、そうではない。決して競技用などではない、実戦を想定された代物だ。


「多分ここは、猟師とか、そういう人用の小屋なんだろうな。家ではないだろう」


 と、ケイ。


「確かに、キッチンもなにもないしな。暖炉とベッドと武器しかない。……そうなると、ここの持ち主はいつもここに帰ってくる、という訳ではないのか」


「かもしれない」


「ここの人間とコンタクトが取れなかったのは残念だが、まあ、そういうことならしばらくここを拠点にしよう。いざという時の武器もあるし」


 と、リコが手に取った剣を壁に戻しながら言う。


「人の物を勝手に使うのは気が引けるが……こんな状況だしな。そんな悠長なことは言っていられないか」


「そうと決まれば、晩飯にしよう。もうそろそろ空腹が限界点に達しそうだ」


「そうだな」


 具体的な今の時刻がわからないが、少なくとも数時間は飲まず食わずで動き回っていたのだ。当然、腹が減る。本来は飛行機の中で食べる予定だった昼食の機内食も食べ損ねたためなおさらだ。


 墜ちた飛行機から持ち出してきた機内食は二食分。一つはバターチキンカレーセット。もう一つは、焼き魚を初めとした和食セットだった。リコはそれらをベッドの上に広げる。


「ケイはどっちがいい?」


「じゃ、和食セットで」


「あいよ」


 ケイが選択した和食セットは、サバの塩焼きに白米、それから漬物が数種類。持って来られたのが二食だけなので、明日の朝ご飯分を残すためには一食を二人で分ける必要がある。


 ケイはリコから割り箸を受取り、白米を一口、口に運ぶ。本来なら電子レンジなどで温められてから提供されるものであり、今の状態では残念ながら冷えているが、それでも充分旨かった。もっともこれから先、このようなまともな食事にありつけるかわからないのだから、冷めている程度で不味くは感じないだろう。それが例え、自分の嫌いな食べ物であったとしても。


 そういえば、と、夕食を食べながらケイがリコに聞く。


「――機内にあった機内食はこれと、そのカレーセットで全部なのか?」


 ケイのその問に、リコは手を止め、やや上を向いて機内の様子を思い出しながら答える。


「確か、もう一食か二食分くらいはあったっけかな。ああ、そうだ。確実にあと二食はあった。獣に食い漁られでもしなけりゃ、昼を抜けば明日の夜と明後日の朝はどうにかなる」


「そうか」


 そのときだった。ふと、ぽつ、ぽつと小屋の屋根が叩かれる音がするのを二人は認めた。雨だ。雨が降ってきたのだ。最初は小雨程度だったが、その後すぐに土砂降りの豪雨に変わった。バケツをひっくり返したかのような雨が小屋の屋根を絶え間なく叩いてやかましい。おまけに雷の鳴る音までする。雷雨だ。


「ハハハ、この小屋が見つかってなかったら最悪だったな」


 と、突然の雨に、リコが苦笑いをして言う。


「ああ。木の上だったら、完全にずぶ濡れだった。どれだけ葉が生い茂っていても、この強さじゃ意味ないだろうし」


「こうも幸運が続くと、逆に怖くなるな。このあとずっと不幸続き、なんてことにはならないよな?」


「不吉なことを言うな」


 それにしても、雷、か――。ケイは今日の不可思議な出来事に巻き込まれる前後のことを思い出していた。そういえば飛行機がここに墜ちる前、雷雲に突っ込んでいたっけな。あの雷雲が、なにか超常的な力を持っていて、結果こうなったのだろうか……。


「そういや、飛行機がああなる直前って、雷雲に突っ込んでたよな」


 と、リコが改まって言う。


「ああ、そうだが。それがどうかしたか?」


 やはりリコも、あの雷雲になにか疑問を持っているのか? と、ケイは思う。


「それで、今も雷が鳴っている訳じゃないか」


「そうだが……」


「だったら、あの雷に打たれたら、もしかしたら何もかも元に戻るんじゃねえか?」


 リコのその発言を聞いたケイは、途端に真面目に聞こうとしていた自分が馬鹿らしく感じ、ため息をついた。


「あのなあ……雷に打たれたら死ぬリスクがあるんだぞ? 肉体が黒くなり、骨格だけが白く見えるだけで済む訳じゃないんだ。確証があるならまだしも、無いのに雷に打たれ、仏様になってから『やあ、まずったな』ではかなわない」


「まあ、冗談だよ、冗談」


「そうか? その割には結構真面目な顔して言ってたぞ」


 食人族に襲われた時などは頼もしいと感じたが、彼はなにも変わっちゃいないということを再認識させられたケイであった。

お読みいただきありがとうございます。


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