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ロータス旅行団~出生不詳JKの異世界冒険譚~  作者: 景少佐
 ERSTER AUFZUG:Timelineの分れ
11/42

#10 夜を越す場所

毎週金・日、15時~20時の間に投稿予定

 食糧などを機内で確保できたことで、いま我々が解決すべき問題は一つ、消え去った。残る問題は、一夜をどう越すかだ。


「さて、どうやって夜を明かそうかね」


 と、リコが近くに生えていた木の幹に寄り掛かり、腕を組んで考え込む。


 日はもう頂点を過ぎ、あとはその高度を下げていく一方だ。日が完全に沈んでしまうのは時間の問題だろう。あの食人族たちが夜も活動するのかわからないし、もし活動するのであれば、暗闇でばったり出くわしてしまう可能性があって危険だ。それに、そうでなくても夜行性の肉食動物に襲われる危険性だってある。


「……さすがにあの客室では遠慮したいな」


 と、ケイ。例の甲冑男がいなくなっても、死体はそこら中に転がっていて血生臭い。死体と仲良く雑魚寝は御免被りたい。


「それは最終手段だ。だから、いま死体と添い寝をしなくてもいい方法を考えてる」


 あと数時間のうちに、夜を安全に越せる場所を探さなくては。


 そこで、リコは一つのアイディアを閃いた。その考えを彼はさっそくケイに伝える。


「なあケイ、木の上で夜を越すってのはどうだ?」


「木の上だって?」


 木の上で、というアイディアはただの思いつきではない。そこには一応、確たる理由があった。


「ああ。動物の中には、天敵の肉食獣から逃れるために木の上で眠る種があるしな。完璧ではないかも知れんが、地面にいるよりはずっと安全だろう。それに、チンパンジーだって木の上で寝るんだ」


 確かにそのような話は、ケイもテレビかなにかで聞いたことがあった、ような気がする。

 

「フムン、それもそうだな。だけど、それは他にいい場所がなかったときにしないか? 幸い、この辺は登って休めそうな木が腐るほどあるし」


「ああ、そうしよう」


 これでひとまず、二人の次の行動は決まった。あまり墜ちた飛行機から離れすぎないよう注意しながら、先ほど歩いた方向とは反対方向に進んでいく。


 しばらく歩いていると、どこかから水のせせらぎのような音がしたのをケイの耳は聞き逃さなかった。最初は気のせいかと思うほど小さな音だったが、立ち止まり、耳を澄ませて耳に全神経を集中させると、それが気のせいなどではないことがすぐにわかる。


 川だ。水が流れている。どこか、この近くに川が流れているのだ。


 ケイはそのことをリコに伝え、二人はすぐに音のする方へと転向した。水場が近くにあるとわかれば、その場所を特定しておくにこしたことはない。ペットボトルのドリンクは無限ではないし、それが尽きれば自力で水を確保しなければならないのだ。いざそうなってから水場を探し、必要に応じて濾過などの作業をするのと、予め場所を把握して準備しておくのでは、圧倒的に後者の方がよい。


 舗装された道からは逸れてしまったが、しかし川までの距離は長くなかった。すこし森の中を歩いていると、すぐに開けた空間に出た。川だ。確かに川が流れていた。


「おお、こりゃ運がいいな」


 思わず見とれてしまうような、美しい清流だった。川幅は――五、六メートル以上はあるだろうか。それなりに広い川だ。水がどこまでも透き通っており、川底が容易に見える。ゴミなど一つも流れていない。川の周囲は丸みを帯びた石となっており、これも川の風情の良さに一役買っているのだろう。


「リコ、この川沿いに進んでみないか? もしかしたら、なにかあるかもしれない」


 目を輝かせて川を覗き込んでいるリコの背後から、ケイがそう提案する。


「川沿いに、か。そうだな――待て、なんだあれ」


 二人が川端で話していたそのときだった。上流の方から、小さく白い物体がひとつ流されてくるのをリコは見つけた。それはだんだんと端に寄り、とうとう石に引っかかって静止した。


「これは……」


 リコが念のためハンカチでそれを拾い上げて見る。


 それは、白くて細長く、湾曲しており、片方の先端が鋭く尖っていた。


「釣り針……?」


 彼の横でそれを眺めていたケイが静かに呟く。


「ああ、そう見えるよな。それに、明らかに何かで削ったような跡がある。人工物だな。元は……骨か?」


 元々住んでいた世界の視点で見れば、川上から流れてきた一つの釣り針など、誰か釣り人が捨てたかちぎれて流されたゴミでしかない。しかし、今の状況では違う。ここがどこかわからず、人が住んでいるのかさえ怪しい土地で川上から人工物が流れてくるというのは、上流の方に誰かしら人が住んでいる、または居たという確かな証拠となる。


 もし川上の方に人が住んでいるのなら、その住処があるはずだ。木製か、鉄筋コンクリート製か、はたまた竪穴式住居やただの洞穴かはわからない。しかし、――原住民が快く受け入れてくれればの話だが――いずれにしても夜を越せる良い場所になるだろう。


「行ってみよう、川上に」


 と、リコ。


「ああ」


 そこからは大変スピーディだった。この不可思議な地に、人を喰らう化け物でない、自分たちと同じ人間が住んでいるかもしれない。その期待感は、一歩上流へ進むたびに、それに比例して大きくなっていった。もっとも、コミュニケーションが取れるという確証はないし、そもそもそこには住んでおらず、偶然訪れて釣り針を落としてしまっただけなのかもしれない。しかし、そんな疑念・疑惑は今の彼らにとっては、ナンセンスだ。


 だんだんと日が傾き、地面に写る真っ黒い己の影がすくすくと成長していく。青々としていた空が、今では徐々に、徐々に紅く染まっていく。もうすぐで完全な闇が訪れる。そのタイムリミットも、彼らの足を速める要因となっていた。二人は一言も言葉を交わさず、ただ前へ前へと進むことに集中した。


「あれは……?」


 紅くまん丸い太陽が山のてっぺんとちょうど接したそのときだった。途中で林が途切れ、崖になっていたのだ。川はその崖に洞窟を開け、中から流れ出してきている。そしてその傍らに、茶色く四角いなにかが見えた。


「近付いてみよう」


 まだそれなりに距離があったためよくわからなかったが、近付いて見るとその正体がはっきりわかった。


 小さな小屋だ。一棟。崖と林に囲まれてポツンと建っている。壁はすべて木製で、屋根は茅葺きだろうか。トタンやコンクリートなどではない。


「ハハハ、やったな、リコ。これで猿みたいな寝方をしなくて済む」


 と、ケイが額に若干かいた汗を拭い、小屋を見上げて言う。が、小屋の発見を喜ぶケイの一方で、リコはまだ気を抜いてはいなかった。


「念のため周りをぐるっと探ってみよう。ここが本当に安全かはまだわからん」


「おっと、それもそうだ」


 そういうわけで、二人は小屋の周りを一周、まわってみた。辺りに生き物の気配はない。小屋の中からも気配は感じなかった。煙突が一本。窓は無し。大きさは、おおよそ五畳から六畳ほどといったところか。


「外は特に問題なさそうだな」


 と、ケイ。


「そうだな。それに、人がいる感じもしないし」


「あとは、中だな。開いているといいが」


「人生初の不法侵入だ」


 そういいながらリコはドアの前に立ち、息を整えて、慎重にドアをノックした。

お読みいただきありがとうございます。


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