81話 別れの挨拶
「そのクリスタルは、なんですか?」
「ホッホッホ! このクリスタルはな、強制的に魂を元の場所に戻す魔道具だ! これを使えば、強制的に君の魂は元居た世界と時間に戻り、今の体にはこの時代の君が戻る! これで解決だな!」
「そんなものが!?」
これがあれば、今までの日々を取り戻せる。
しかし……
ノナはクリスタルを受け取りながら、王様に言う。
「ダンジョンって、いつ消すんですか?」
「ホッホッホ! 地球で言うのならば、1週間後くらいだが、それがどうかしたのか?」
「少し考えさせてください」
「ホッホッホ! もしや、ダンジョンが消えるまで元に戻らないつもりかい? 悪いが、ダンジョンが消えたら、そのクリスタルを使っても元の世界と元の時代には戻れんよ。それとも、こっちの世界にでも住むか?」
「別に戻りたくない訳ではないですけど……最後に話し合っておきたいんです」
「ホッホッホ! よく分からんが、若い時は悩みなさい! ちなみに地球へのワープホールは、ワシの方で手配しよう! そして、こっちの世界のこの宮殿へ直接ワープできるアイテムもな! 決意が固まったか、無事に元に戻れたら、君かそこの友達がワシに報告しに来てくれ! 長くて1週間だぞ? そこだけは忘れるなよ!」
「はい! クリスタルのこととか色々、ありがとうございます!」
こうして、王様が用意してくれた魔法陣のような所へ乗ると、元居た地球のダンジョンへとワープした。
魔法陣はこちらの世界にはないようなので、向こうへ行くときは、王様へ貰ったアイテムを使うしかないようだ。
◇
異世界から戻って来た2人はエムに事情を話し、その日は疲れたということもあり、それぞれ自宅へと帰った。
そして、次の日。
「ねぇ、ミソギ」
「何?」
ノナの部屋で話し合う2人。
ノナはベッドで横になり、ミソギは机でコーラを飲んでいる。
「どうしたらいいと思う?」
「ノナが悩むなんて、珍しいね」
「珍しいかな? この時代の私って、悩んでばかりだったんでしょ?」
「そうだけど、中学生のノナが悩むのは珍しい」
確かにそうかもしれない。
「私、戻るべきなのかな?」
「戻るべきだよ」
「でも、この時代の私……死のうとしてたし……」
「そんなことか。それなら大丈夫だよ。私がついてるからね」
「本当に大丈夫?」
「心配しなくてもいいよ。ノナはしっかりと自分の人生を生きればいい」
「ミソギ……」
「元の時代の私にもよろしく頼むよ」
「うん……」
ミソギを、そしてこの時代の自分を信じるしかない。
どちらにしろ、このまま戻らない選択をしたのであれば、それは永遠にこの時代のノナの体を乗っ取るということになる。
そうなってしまっては、1人の人生を奪ってしまうのと一緒だ。
「分かった。でも、ここにいるミソギには、もう会えなくなるんだよね。寂しくなるなぁ」
「パラレルワールドだからね。でも、似たような私には会えるんじゃない?」
「でも、ここにいるミソギとは別個体だし」
「別個体って、なんかゲームみたいだね」
「だって、そうじゃん」
「確かにね。でも、死ぬ訳じゃない」
「死ななくても、もう会えないじゃん」
「同じ世界に生きていても、引っ越しとかで一生合わない場合もある。それと同じさ。私にもそういった友達がいて、もう20年以上会ってないしその子が今どこで何をしているかは分からないけど、私は今も友達だと思っている」
「そうなんだ」
「うん。そして、別れの時絶対に湿っぽくなるから、今の内に私から別れの言葉を伝えておく」
「今も伝えてるじゃん」
「風紀委員モードになって強がってるから、正確には少し違う」
ノナはベッドから起き上がり、ミソギと向き合う形で座る。
「本当は、私も寂しいし別れたくないよ! 今私がこうして元気になったのも、ノナのおかげだし! 本当ならどっちのノナとも一緒に居たい! でも、それじゃあ駄目なんだ! ノナはノナの人生を生きて! じゃあ、さようなら!」
涙目になりつつ言ったミソギであったが、ハンカチで涙を拭くと、クールな雰囲気に戻った。
「これで終わり。さ、この時代の人に別れの挨拶でも済ませてきなよ」
「ミソギ……うん! ありがとう!」
◇
エムの自宅にて。
「ということなんだ」
「お別れか……でも、仕方ないよね」
「残念だけどね。引っ越しみたいなものだって、ミソギも言ってたし、離れていても友達だよ!」
「そうだよね……」
「ごめんね! そして、お願いがあるんだ」
「お願い?」
「もしよかったら、如月パインさんと仲良くして欲しい!」
つまりは、この時代のノナと仲良くして欲しいということだ。
その言葉を聞いたエムは頷く。
「うん! 友達だし、これからも推していくよ!」
◇
デパートのダンジョン内にて。
ノナはフェンリルと共に、他の探索者がいないエリアへ行き、互いに座りながら話をする。
『そうか、帰るのか』
「うん! って、あんまり寂しそうじゃないね」
『寂しいと言えば寂しい……それよりもだ! もっと重大なことがある!』
「もっと!?」
少し悲しいが、次の言葉を聞いたノナは頷くしかなかった。
『ダンジョンが消えたら、我はどうなるのだ!?』
「確かに!?」
フェンリルも消えてしまうのだろうか?
「王様に、話しておくように言っておくね!」
テイムされたモンスターは意思を持つ。
となれば、見殺しにはできない。
『頼んだぞ!』
「私は戻っちゃうけど……強く頼んでおくよ!」
ノナはフェンリルに背を向けて、ダンジョンを出ようとする。
『ちょって待て』
「え?」
フェンリルのいる方へ、体の向きを変えた。
『最後に言っておきたいことがある。ありがとう』
「こっちこそ、ありがとう!」
『と、まぁ、それもあるがお前の話を色々と聞いて、言っておきたいことがある』
先程フェンリルにも、15年前から来たことなどは、全て話してある。
「言っておきたいこと?」
『ああ。これはモンスター目線からなんだが、人間と他の生物の違いというものをお前に伝えておきたい』
「他の生物…?」
『動物とやらは見たことないが、おそらくモンスターと似たようなものなのだろう? それらと人間の決定的な違いを、我から伝えたいということだ』
「どうして?」
『どうしてもだ。これから生きるのに、役立てて欲しい』




