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72話 かなり驚いたね!

「かなり驚いたね!」

「それはそうだよ。だって、タイムスリップが本当にあったってことだからね」

「いやいや! 私だって前の時代から来たんだよ! もう!」


 不機嫌という訳ではないが、「冗談きついな!」みたいな感じで笑う。


「ノナのことを信用していないって訳じゃないけどさ、もしかしたら中学生以降の記憶が消えているだけで、実際はタイムスリップをしていないって可能性もあった訳でしょ?」

「言われて見れば!」


 確かに、考えたくはないがその可能性もなくはないだろう。

 先生が何かの授業で言っていたが、過度なストレスにより記憶喪失のようなものが起こる場合もあるという話しだ。


「物理的にタイムスリップして来たなら、精神のタイムスリップもあり得るかなって、そう思ってね」

「私のこと信じてくれてたんじゃなかったの!?」


 またもや、冗談のようにミソギに言う。


「信じていたけど、そういう可能性もあったかもねって話。でも、アリアちゃんが本当に大正時代から来たんだったらノナもタイムスリップでほぼ確定だよね」

「そっちの方が私もいいかな!」


 精神的な問題で記憶喪失とか、あまりにも夢が無さ過ぎる。



 ミソギを連れ、自らが住んでいるアパートの一室の前へと戻って来た。

 そこへ丁度、どこかへ行っていたアリアと鉢合わせる。


「あれ? アリアちゃんどこへ行ってたの?」

「走って来ました! 思い切り走るのは気持ちがいいので!」


 アリアは汗をかいていた。

 非常に楽しそうな笑みを浮かべている。


 大正時代は女性が走ることははしたないと言われていたらしかったので、その反動もあるのかもしれない。

 もしも自分がその時代にいたら、窮屈きゅうくつに感じるだろうと、ノナは思った。


「お友達ですか?」


 アリアはタオルで汗を拭くと、ノナとミソギを交互に見ながら言った。


「そうだよ! 私の友達のミソギだよ!」

「どうも、折原ミソギです」


 ミソギは頭を下げた。

 それに対して、アリアも自己紹介をし、頭を下げる。


土方ひじかたアリアです。よろしくお願いいたします」

「え!?」


 そういえば、アリアの苗字をここで初めて聞いた。


(アリアのこと探索者だと思っていたから、下の名前しか言ってないんだよね)


 フルネームを名乗るとマズいと思ったので、下の名前しか名乗っていなかったのだ。


「どうしたんですか?」

「いや、アリアちゃんの苗字初めて聞いたなって! あ、ちなみに私は吉永ノナね!」

「し、失礼しました! 全く見知らぬ場所でしたので、不用意に苗字を明かすのもどうかと思いまして、その……」

「気にしてないから大丈夫だよ!」


 アリアは下を向き、申し訳なさそうな雰囲気を放っていたので、ノナは特に何も思っていないことを話した。

 アリアは結構そういうことを気にしてしまうタイプのようだ。


 大正時代はこの時代よりも、礼儀にうるさかったのかもしれない。



 部屋の中に入ると、机を3人で囲む。

 ミソギは買って来たお茶が入ったペットボトルを、それぞれの目の前に置く。


 ちなみにペットボトルについては、この前体験済なので、アリアも特に驚かなかった。


「なるほど、いきなりダンジョンにね」

「信じてください!」

「別に疑ってないけどね。昔の私なら疑っていたかもしれないけど、ダンジョンがこの世に出現してからは、あまり疑わなくなったね」


 ミソギは時々頷くなどのアクションをしながら、アリアの話を聞く。


「できればでいいんだけど、元の時代の話を聞かせて貰ってもいいかな?」

「あ……」


 両親もいないということを、ミソギに話すのを忘れていた。

 だが、アリアは自信満々の表情で、元の時代のことを話すのであった。


「アリアちゃん、大丈夫?」

「何がですか?」

「嫌な事とか、いっぱいあったんでしょ?」


 ミソギは「え? そうなの?」と、少し顔を青ざめさせた。

 しかし、アリアは首を横に振る。


「嫌な事とか、あんまりなかったですよ? この時代の方が面白いかなぁ、くらいで」

「そうなんだ!」


 安心した。

 あまり良い思い出がないものだと、思っていたからだ。


「実は私、なんと10歳までの記憶がありません!」


 なぜか自信満々の表情でそれを言うアリア。

 強がっている……という訳でもなさそうで、「どうですか?」と目を輝かせるように言う。


「反応しにくいね!」


 ノナは思わず叫んだ。

 ミソギが気まずそうに目線をアリアと合わせようとしなかったので、代わりに叫んだのだ。


「そうですか!? 面白いと思ったのですが……」

「どの辺りが!?」


 普段は突っ込まれることが多いノナであったが、流石にこれは突っ込まずにはいられなかった。


「だって、覚えてないんですよ!? なんか凄くないですか!?」


 アリアはその後も大正時代でのことを話し続けた。

 気が付いたら、いつの間にか自分が人間であることや基本的なこと以外を忘れていたこと。


 その後、豆腐屋で住み込みで働いて、学校にも行っていることなど、多くのことを話してくれた。

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