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66話 銀ブラ

 過酷な現実を突きつける羽目になってしまったのは申し訳なく思うが、それでも事実なのだから伝えるしかなかった。

 確かに言わない方が良いこともあるだろうが、こればかりはこれから生きていく中で受け止めなくてはならないことだからだ。


「そんな……素敵過ぎます!」

「え?」


 素敵過ぎる……?

 聞き間違いでなければ、確かにアリアはそう言った。


 そして彼女の瞳は、なぜかキラキラと輝いているように見えた。


「そんなおとぎ話みたいことが現実にあるだなんて、感動です!」


 ショックを受けるかと思っていたのだが、むしろ喜んでいるようだった。


(えっと、予想外の反応だったけど、なんか良かった!)


 このまま暗い雰囲気になるのも嫌だったので、内心ホッとしたノナであった。

 シリアスな雰囲気は、苦手なのだ。


「ずっとここで暮らしていたいです!」

「そこまで気に入ったの!?」

「はい!」

「元の時代に戻りたくはないの?」

「そこまで戻りたくないですね!」

「そうなんだ! ……ってそういえば」


 ここに来て、ノナ自身も令和の人間ではないことを思い出す。

 それにしてもノナと違い、アリアはダンジョン内と姿がほぼ変わらないのは、なぜなのだろうか?


 状況が違うからかもしれない。

 ノナの場合は魂が憑依したような状況なのに対し、アリアの場合は文字通りタイムスリップといった感じだ。


 似ているようで違う。


「とにかく、住む場所を決めなきゃだね! 私の家でいい?」

「はい! 精一杯働かせていただきます! あ、でも、迷惑にならないでしょうか?」

「どうして?」

「だって、ご結婚相手がいる中で、その……私みたいな見知らぬ人がお世話になるというのも……」


 申し訳なさそうに、顔を下に向け、「シュン」とするアリア。

 なぜ結婚していると思ったのだろうか?


 確かに今の肉体は28歳ではあるが、結婚をしないという人も特に珍しい時代ではない。

 15年前ですらそういうのは自由になって来ていたので、この時代ではもっと自由なハズだ。


 時代……?


「私、結婚してないから大丈夫だよ!」


 そう、時代だ。

 大正時代はおそらくほとんどの人が、結婚していたのだろう。


 こんなことなら、歴史をもっと勉強しておくべきだったと感じる。

 そもそもタイムスリップが起きている以上、自分が大昔に飛ぶ可能性もあるので、今度しっかりと勉強しておこう。


「珍しいですね! あ、でも最近は女性で働いている方も増えて来ているようなので、ノナさんもそんな感じですかね?」

「え? いやいや! 働いてないよ!」

「働いてもないんですか!?」

「うん! 本当は話さないんだけど、境遇的にもアリアちゃんになら話しても問題ないか!」


 歩きながら、アリアに自分のことを話すノナ。


「あ、そうだったんですね」

「反応薄いね! この時代で出会った友達は、もっと驚いてたのに!」


 100年に対して15年なので、この反応も仕方のないことなのかもしれない。

 それよりも、アリアは100年で変わった東京の景色に夢中のようであった。


「あ、あの! もしよかったら、銀ブラしていきませんか!?」

「銀ブラ?」


 ノナは立ち止まり、スマホで検索をする。

 スマホをあまり使わないノナであったが、こういう時は便利な代物だ。


「新型の爆弾ですか!?」

「違う! えーと、本みたいな?」


 大正時代で例えられものが思い浮かばなかった。


「銀ブラ……銀座でブラブラすること、銀座でブラジルコーヒーを飲むこと……か」


 意味がまるで違うのだが、大正時代では2つの意味として使われていたらしい。

 銀座でブラブラした後にブラジルコーヒーを飲めば、コンプリートということである。


「じゃ、行こうか!」

「私から言っておいてなんですけど、いいんですか? お金は……」

「この時代の私のお金があるから大丈夫だよ!」

「そ、そうですか」

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