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5話 上司に退職を却下されたけど、無理やり退職してみた!

☆吉永 ノナ


「なんとか到着した……」


 あの後、ノナはダンジョンを出た。

 そして、自分の住んでいる場所の情報をスマホなどで確認し、この時代の自分が住んでいるアパートへと、やっとの思いで辿り着いたのだった。


「明日学校だしなぁ。早めに寝ないと」


 初の一人暮らしだが、家では家事を手伝っていたということもあり、そこはなんとかなりそうだ。

 だが、とりあえず今日の所はコンビニ弁当を買ってきたので、それを食べよう。


 と、ここでノナはあることに気が付く。


「学校……?」


 ダンジョンに入っている間は元の姿になれたということもあり、すっかりと現実を忘れていた。

 ダンジョン外のノナは、今も変わらず大人の姿なのだ。


 そして、行くべき場所は学校ではなく、職場だ。


「でも職場にはうるさい人がいるみたいだし、あんまり行きたくないなー。仕事のやり方とか全然分からないし」


 正直、3年くらいであれば、節約すればニートできるくらいの貯金はあるのを確認できたので、怖い人がいるのならばやめた方がいいのかもしれない。

 貯金がそこそこ貯まっている理由は、部屋に必要な物以外ないことから、お金をほとんど使わなかった為だろう。


「でも、あの上司ただアニメキャラの真似してただけかもしれないし。悪い人じゃないかも? ただ、最後携帯投げ付けたっぽいのが、どうも本気っぽかったんだよなー」


 現実世界の大人が叫んだり暴力的なことをしているのは、どうにも信じられないが、もしそうだとすれば、今の仕事は早めにやめた方が安全だろう。


「どうしよっかな?」


 と、ここでノナは部屋にある、一冊のノートを見つける。


「日記かな? って、何このホラーアイテム! コスプレする時の小道具かな!?」


 そのノートを開くと、「死にたい」とだけ書かれていた。

 物凄い量の「死にたい」が殴り書きされていて、非常に怖い。


「コスプレの小道具じゃなさそうだ……。怖っ! この時代の私、どんだけ中二病なの!?」


 とここまでは、ただの中二病だと思っていたのだが、ページに挟まれた封筒に目を通すと、ノナは叫ぶ。


「なんだこれ!!」


 その封筒には「遺書」と書かれていた。


「ちょっとちょっとー! ネタが不謹慎なんですけどー! いくら中二病とは言え、限度を超えてるって!」


 本気で悩んでいる人に失礼だ。

 ノナが自ら死を選ぶとは考えられない。


 つまりは、ネタ。

 不謹慎なネタである。


「うそーん」


 と思っていたのだが、内容がしっかりと書かれていた。


「今日の日付だし! 何これ!?」


 その遺書には、親に向けての文章と共に自殺方法が書かれていた。

 その自殺方法とは、本日駅で電車に飛び込むという内容だった。


「まっさかー! 本気じゃないよね? ……そんな風に考えていた時期が私にもありました」


 ノナは思い出す。

 自分がこの時代に来た時のことを。


「もう少しで死んでたってことか。やばいね」


 ノナはスマホを手に取る。


「会社に退職の電話しておこーっと!」


 明らかにやばそうなので、退職をすることにした。


「というか、この時代の私よ。なぜこんなことになってしまったんだぜ?」


 スマホを操作しながら、ノナは呟いた。


「連絡がつかないなぁ」


 仕方がないので、明日会社で退職することを伝えることにした。



「おはようございます! あ、昨日の上司! 昨日はごめんなさい!」

「吉永か。昨日は好き放題言いやがって、お前本当に覚えとけよ?」

「何をですか? まぁ、努力はします! でも、今日はそれ所じゃないんです!」

「テメェ……」


 拳を握りしめる上司。キレているのだろうか?

 しかし、もう辞めるので、大丈夫だろう。


「私辞めようと思います! 辞表も書いてきました!」


 急ぎだったので、コンビニで買った用紙に手書きで書いた物である。


「テメエエエエエエエエエエエエエッ! 前も言っただろ! 却下だ!」

「フハハハン」


 ノナはニコ動のMADで使用されている、カードゲーム主人公の真似をして、得意げに笑った。

 実は、退職についてスマホで勉強をしてきたのだ。だからこそ、この余裕がある。


(上司は多分、知らないんだろうな!)


 そう、勉強してきたのだ。

 おそらく、却下と言ってきたので、知らないのだろう


「先輩! お得な情報なんで、覚えておいて欲しいんですけど、退職って2週間前までに伝えれば、その効果は無効にならないみたいなんです! なので、私はこれから二週間休みたいと思います!」

「いや、それ受け取らねーから」


 上司はノナの辞表を指差して言った。


「なぜ!?」

「分からねーのか? 社会人の常識っつーもんがよ! お前何年生きてんだ? それくらい分かるだろうが!」

「ええ!?」

「お前何年生きて来た? 言ってみろよ! 仕事もできねーくせに、無駄に年重ねやがってよぉ!」


 受け取る前に、それを聞きたかったのだろうか?

 それなら答えるのは簡単だ。ノナは一安心した。


「もう少しで14年です!」

「は?」

「あ、そうだった! 違うんだった!」


 ノナは照れながら、右手で首の後ろをかいた。


「もう少しで、29年だと思います!」

「ついに狂ったか!」

「えへへ! 色々ありまして!」


 と、ここでコソコソと話す社員の声がノナの耳に入る。


「なんか、今日の吉永さんおかしくないか?」

「いつもあんなにハキハキ喋らないし」

「吉永さんが上司に、それもあの上司に意見するだなんて、雪でも降るんじゃないのか?」

「辞めるからじゃないのか? まぁ、前も一度却下させられてるし、辞めさせて貰えないんだろうけど」


 照れるしかない。


「まぁ、ということで辞めます!」

「受け取らねーつってんだろ!」

「ええ!? 困りましたね……う~ん。ま、いっか!」


 ノナは辞表を強引に上司の机に置いた。


「では、皆さん! 今までありがとうございました!」

「受け取らねーっつってんだろーが!」

「渡しましたので、多分大丈夫でしょう! 今までありがとうございました!」

「おぉぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおいっ!」


 こうして、もう2度と会社に来ないで済むようになった。

 仮に辞表を捨てられたとしても、渡したので多分大丈夫だろう。


「テメェラアアアア! 追ええええええええ!」


「嫌です! というか、私もやめます!」

「俺も!」

「ぼ、ぼぼぼぼぼ僕もっ! と、というか、前僕のことぶん殴ったこと、あの時は泣き寝入りしましたが、これ以上同じようなことをするのなら、う……訴えますよ!それに今の僕は、スイッチのフィットネスボクシングで鍛えましたからね。リングフィットネスアドベンチャーも100週以上しました。ま、訴えるのは辞めてやる。ここでケリつけようぜ! 見せてやるよ、スイッチのゲームソフトの力をな! それと皆気を付けろ! 今の奴は右手に武器を隠し持っている。己の器の小ささに相応しい、カッターナイフという名の矮小わいしょうな武器をな! せめて己を大きく見せる為に、強い武器を用意しておけばいいものの……弱すぎるぜ、お前……。おい! 後輩共! 今の内に警察と救急車の手配を頼む。もっとも、救急車に乗るのは俺じゃなく、あいつだがな!」

「テ、テメェエラァァァ!」


 何やら声が聴こえてきた。

 喧嘩のようで恐ろしい。


「まぁ、こういうのは私の役目じゃないし。私学生だし」


 色々問題のあった上司だったのだろうが、それを罰するのはノナの役目ではない。


「暗いことは忘れよう! というか、なんか疲れたし、今日はもう帰ろーっと!」


 ノナは叫ぶと、前かがみになり、右手と左手を後ろに流すようにして走って帰宅した。

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