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32話 終わりだ……

「なんか、強そうだ! しかも、滅茶苦茶派手でかっこいい!」

「今度こそ逃げた方がいいような気がするけど……」


 ミソギはそう言い、ノナの手を引いて逃げる。


「ちょっとー!」

「逃げた方がいいって! ……って、あれ!?」


 だが、見えない壁のようなもので遠くまで逃げることはできなかった。


「ノナ! どうしよう!?」


 今のミソギにクールさは無かった。

 アニメや漫画に感化される前の彼女は、このような感じだったなと、少し懐かしい思いだ。


「大丈夫!」


 確かに強そうな雰囲気を放っているドラゴンだが、1匹なら勝てない相手ではない。

 実質、先程のドラゴンもただ硬いだけのモンスターだった。


 この長い剣であれば、100発くらいなら余裕で攻撃を当てることができるだろう。


「余裕!」

「どこが!? 明らかにヤバそうだって!」

「ま、なんとかなるって、だって1匹だけだよ?」


 そんなことを話していると。


「グオオオオオッ!」


 虹色の光が、ノナを襲う。

 剣で弾こうと思ったが、弾き切れずに、それを浴びてしまう。


「ノナ!!」


 全く痛みも感じない。攻撃ではないのか?

 ただ、ノナの視界は次第に白くなっていく。


「ミソギ……」



























☆吉永 ノナside (2009年)


「ノナ! 起きて!」

「えっ!?」


 ノナは隣の席のミソギに、小声で言われると、慌てて顔を上げる。


「先生に怒られるよ! 眠そうだけど、もしかして昨日も夜更かしをしたの?」

「そんな感じ! 掲示板でアニメ実況をしててさ!」


 どうやら、授業中眠ってしまっていたらしい。

 ミソギの言う通り、昨日も夜更かしをしていたのが原因だろう。


「そんなんだと、体壊すよ」

「私神だから平気でーす!」

「そうなの? でもアニメとかだと、自称神って、大抵最後は負けるよね」


 と、話を続けていると。


「そこ! 何話してる!」

「ご、ごめんなさい!」


 先生に注意されたので、ノナとミソギは頭を下げた。



「どうしたの?」


 昼休み、1人で考え事をしているノナに対して、ミソギが話しかける。


「僕は本来、風紀委員で忙しいんだけどね。悩みがあるなら聞いてあげてもいいよ」


 ミソギは風紀委員ではない。

 完全にアニメキャラになりきっているようだ。


「悩みって程でもないんだけど……」

「どうしたの?」

「物忘れ的な……?」

「夜更かしばかりしているからだよ。僕はいつも早寝をしているからね。記憶力は、ばっりちさ」

「そういうのでもないんだよね。確かに記憶力は良くないんだけど……こう、言葉で上手く言い表せないんだけど……う~ん」


 言い表せないモヤモヤがノナを襲う。

 何かするべきことがあるような気がするのだが。


「ふ~ん。所で、今日はいいものを持って来たんだ。週間少年漫画の来週の分さ。発売日より、少し早くコンビニに並んでたんだ」

「うわっ! いいな!」

「読ませてあげるよ」

「おお! ありがとう! 流石ミソギだね! どれどれ、確か先週は、剣士キャラが負けそうになって終わるんだよね! 今週は覚醒するんだったっけ!?」

「覚醒?」


 ノナはミソギから少年漫画を受け取り、続きが気になっていた漫画を最初に読む。


「あれ?」


 剣士キャラは1コマしか登場しておらず、なぜかピンピンしている。

 ボロボロで、流血していた記憶があったのだが。


 来週は覚醒回だった記憶があるのだが。

 いや、なぜ来週が覚醒回だと思ったのだろうか?


 どこかでネタバレを見たのか?

 いや、それはないハズだ。


「覚醒も何も、剣士キャラは今仲間の元に駆けつけている途中なんだけど?」

「あっ! そうだった! 確か覚醒は再来週の展開だったよね! 勘違いしてたよ! 再来週の次の週で覚醒した剣士が勝つ流れだったね! って、あれ……?」


 再来週?


「私、何言ってるんだろう?」


 そもそも、覚醒して勝つとなぜ知っているのだろうか?

 流石にそこまで先のネタバレは、どこ探しても無さそうなものだが。


「ミソギ、今日は早く寝た方がいいよ。割と真面目に」

「そ、そうだね」


 その後、気を取り直して、一番好きな漫画を読む。

 ノナとミソギが2人してハマっており、男女共に人気のある漫画である。


 ネットでも、かなりの学生や大きなお友達がハマっているらしく、イラストなども多数投稿されている。


「未来編、面白いけど、まだまだ先が長そうだね」


 ミソギの言う未来編とは、その名の通り主人公達が未来に飛ばされる章のことである。


「そうか……」


 ノナは真剣な眼差しで少年誌を見つめ、つぶやいた。


「どうしたの? 確かに今週も面白かったけど」

「未来編」

「が、どうしたの?」

「今ので何か思い出せそう……でも、思い出せない」


 未来編……なぜかは分からないが、物凄く引っ掛かる響きだ。






☆折原 ミソギside (2024年)


「ノナ! しっかりして!」


 ミソギは、倒れたノナをゆさゆさと揺さぶり、無事かどうかを確認する。


「あれ? ここは?」

「良かった!」


 今は岩陰に隠れており、まだ場所はバレていない。

 今の内にノナを回復させて、なんとか救助が来るまで時間を稼ごう。


「え……? 死んでない?」


 ノナは急に立ち上がり、自らの体を見ると、力が抜けたのか床に座り込む。


「どうして……?」

「ノナ……?」

「あ、れ……? ミソギ?」

「そうだよ! もしかして、どこか具合が?」


 そう言うが、ノナはミソギの話を聞かずに壁に頭を叩きつけ、そのまま壁に向かって叫ぶ。


















「なんで!? ねぇ! なんで私生きてるの!? ねぇ! ねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇ!! 私死ね!! 死ね! 死ね! 馬鹿! 死ね! どうせ何もできないのにお前何生き残ってんの!? 早く死ねよ馬鹿! 無能が死ね! お前はな! 死んで正解なんだよ! 死ななくていいのか? 良い訳ないだろ? だったら早く死ねっつーの!」
















「ノ……ノナ?」


 ミソギに言っている訳ではないのだろう。

 誰に言っているのかは分からないが、壁に向かって、ノナは泣きながら叫んでいた。


 先程までは敵に怯えていたミソギだが、ノナが叫んでいる間だけは、それに恐怖を持っていかれていた。


「というか、ここはどこ……? 死んで地獄に来たの? おかしい、死後は無だって安心してたのに!」


 今度はノナはミソギの方を向き、真顔で叫んだ。


「落ち着いてノナ! ここはダンジョンだよ!」

「ダンジョン……? なんで……?」

「なんでって……。ねぇ、ノナ。確認だけど、今年で何歳?」

「29だけど? 29で電車にはねられて死んだんだ。死んだんだよ? ねぇ、死んだんだよね?」


 会話になっているようで、どこか会話にならない。

 だが、分かった。


 ドラゴンの大群を倒した際、ノナの下手な誤魔化しでハッキリと分かったが、おそらく最近のノナは、ただ元気になったという訳ではない。

 中学時代のノナが、この時代のノナに憑依していたのだろう。


「グオオオオオッ!」

「しまった!?」


 敵に見つかってしまった。

 このままではやられる。


 逃げなくては。


「ノナ! とにかく逃げ回るよ!」

「無理」

「ノナ!?」


 ノナは立ち上がろうともしない。


「ノナ! せめて、攻撃を防いで!」

「無理」


 このままではノナが危ないと思ったが、敵は叫んだミソギを睨んだ。


(そうか! 注意を引き付ければ!)


 ノナはミソギから離れ、逃げ回った。


「こっちだよ。ドラゴン」


 恐怖心を打ち消す為に、無理やりにでもクールに振舞う。

 だが、その後ドラゴンから放たれた言葉のような何かで、恐怖心は抑えきれない程に大きく膨れ上がった。





















「ドラゴン……チガウ……ワレハ……カミ」

「神……?」


 物音が声のように聴こえたのかは分からないが、奴がそう言ったのはなんとなく分かった。

 そして、その言葉には、説得力があった。


 力の差があり過ぎる。

 本能的に、そう感じたのだ。


「か、神に勝てる訳ないじゃん……」


 ダンジョン内で死んでも現実で死ぬ訳ではない。

 だが、しっかりと死の恐怖は味わうことになる。


 廃人になるかもしれない。

 いや、そもそも相手は神なのだ。


 本当の意味で死ぬのかもしれない。


「こ、怖い……」


 しかし、どうしようもない。

 ミソギに向けて、ドラゴンの口内から、黄金の光が放たれた。

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