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アカデミーライフ  作者: 秋月 葵紗良
序章 『学園島へようこそ』
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3.大人としての決意

 まずは状況の整理だ。

 

 舞依を拐ったのは宗教団体。

 崇める存在として連れ去った以上、身代金の要求などはない。

 逆に言えば、連絡を取る手段がないということか……? いや、違うか。おそらくは……。

 

 ぼくが考えていると、奏が口を開いた。


「雪乃ちゃん、舞依ちゃんを拐った人たちがどんな格好をしていたか覚えてる?」


「えっと、みんな普通の私服だったから、見た目での判別は難しいと思います」


「そう……大丈夫よ、雪乃ちゃん。だから落ち着いて」

 

 奏の言葉を聞いて雪乃の方を見ると、そわそわしているのが分かった。

 当然だろう。


「雪乃」


 ぼくはできるだけ穏やかな声で、雪乃に声をかけた。


「大丈夫、任せて」

 そして、あえてはっきりとそう告げた。少しでも、雪乃の不安を和らげるために。


「奏、いくつか訊いていいか?確認しておきたいことがある」


「はい、何でも訊いてください」


「宗教団体が、ただの観光客のふりをしてきたかも、って言っていたけど、前にもこういった事件ってあった?」

 

 そう言うと、奏は少し驚いたように見えた。

 

 もしここが未来の世界だったとしても、せいぜい十年後か二十年後だ。

 信教の自由が失われたってことはないだろう。

 宗教信者というだけで、島に入ることを拒むことはできないはずだ。


 だが、ここは目的があって造られた島だ。

 以前に何か問題が発生したなら、対策がなされていた可能性がある。


「……想像以上に鋭いですね」


 奏が、感心したようにうなずいた。


「そうです。今回とは少し異なりますが、三年前に宗教信者によって学生が傷つけられる事件がありました。それ以降、警戒を強めていたのですが……」


 少し異なる……か。


「奏は、その時と犯人が同じだと思う?」


「いえ、違うかと。というより、おそらく今回の犯人は宗教信者でないと思います」


「え?」

 

 雪乃は予想外の答えだったらしく、声をあげた。

 だが、ぼくは奏の考えを理解できた。


「そうだね。本当に信者なら神様を探すためでも信者でないふりなんてしない気がする。雪乃の話を聞く限り結構乱暴に連行したみたいだし、舞依を神様と思うのなら、不自然な点が多い」

 

 奏もうなずく。雪乃はなるほど、と納得したようだ。


「……会長のことは知っていましたけど、篠宮さんも頭がいいんですね」

 

 ぼくの場合は、昔から探偵小説とか呼んで、結末を読む前に自分で推理をしていたからなぁ。


 おっと、今はそれより。


「犯人が宗教団体でないのなら、やりようはありそうだ」


「ええ、連絡が取れる可能性があります」


 宗教信者に扮した理由はまだ分からないが、少なくとも、何らかの交換条件を持ち出してくるはずだ。

 奏も、ぼくの意図を汲んでか、雪乃に声をかけた。


「雪乃ちゃん、いつ連絡が来てもいいようにスマホ取り出しておいて」


「は、はい……!」


 連絡が来るのは確実として、あと必要なのは……場所と、相手の人数が知りたいな。

 電話で、情報を聞き出せたらいいが……。


「マス……失礼しました。篠宮さん、少し確認したいことがあるので先に電話しておいてもよいでしょうか?」


「ん?ああ、分かった」


 もし、取っ組み合いになったりしたら……。

 高一のときに柔道と剣道をやっていたけど……鈍ってないといいな。


「……はい……ではやはり……なるほど、そういうことでしたか。実は今……はい。ありがとうございます、よろしくお願いします」


 奏が、スマホを耳から離した。


「もう終わったの?」


「はい、確認とお願いをしただけですので」


 奏は、どこかスッキリしたような顔をしていた。


「確認とお願い……?」


「確認については後程お話します。お願いは、援軍です。乗り込むことになりそうな予感がしたので。私たちだけでは危険でしょう?」


 さっき、雪乃も言っていたけど、本当に頭が切れるんだな、奏は。


「なんか、思考を読まれているみたいだ」


「それはわたしも同じことを思いました。きっと考え方が似ているんですよ。こんなときに言うことではないですが、少し嬉しいです」


そのとき、プルプルと音が聞こえた。雪乃のスマホに連絡が来たんだ。


「来ました……!」


「行きましょう」


 雪乃の声を聞いて振り返った奏が後ろで組んでいた手が、視界に入る。その手は、震えているように見えた。

 

 三年前の事件の被害者って、もしかして……。

 

 ……いずれにせよ、怖くないはずがないよな。


「頼りにしていますよ、篠宮さん」

 

 強がっていたのかもしれない、奏も。雪乃の不安を煽らないように。

 

 ぼくも、覚悟を決めないと。


 「ああ、任せて」

 

 ぼくは彼女たちを少しでも安心させるため、そして自分を鼓舞するために、自信満々に返事をした。


 三人でうなずき合う。


 そしてついに、雪乃が電話に出た。


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