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#12 ツンデレにはミニスカートと相場が決まってる

 その日。学校から裕太の家に帰ったあと涼香ちゃんに呼び出された。

 いまだに慣れはしていないが、裕太の家に泊まること自体は昔から幾度かはあったため、自分に「そういうものだ」と言い聞かせることによってなんとか自分自身を誤魔化している。


「それで、急に呼び出してどうしたの?」


「茉莉に、これを」


「茉莉さん、ね?」


「茉莉は茉莉。同僚なんだから問題ない。それよりこれを」


 頑なに茉莉呼びをやめない涼香ちゃんは、急かすようにして紙袋を押し付けてくる。

 いったいこれがなんなのか、全く見当がつかないままに袋の中を覗いてみると、そこにあったのは白と黒の布。


「……はいっ!?」






 涼香ちゃんが「あとのお楽しみ」とだけ残して茉莉を連れて行ってから数分が経った。


「……また、なにか変なこと企ててるのか?」


「どう、でしょうか」


 絢香さんにそう尋ねてみるが、彼女は首を傾げるばかりだった。

 前回、茉莉が涙目になりながら必死で逃げ出してきて、しかしそのまま再回収されていったという事例があったために、このふたりの組み合わせで放置することには若干の抵抗がある。

 ……が、とはいえ無理に俺が介入することでもないだろうし、絢香さんにしても「涼香のことですから」と、信頼半分諦め半分というような表情でいうので、とりあえず放置の他なかった。


 気のせいだろうか。扉の奥、更にその奥。涼香ちゃんの私室になってる部屋から結構な騒ぎ声が聞こえてくる。……うん、気のせいじゃないな。

 今回もまた、一筋縄じゃいかなさそうだな。そんなことを、ひとり考えていた。


 絢香さんも、その様子に気づいたのだろう。あはは……と、妹がおそらく迷惑をかけているだろうということを察してか、苦笑いを顔に浮かべていた。


 俺も絢香さんも、とりあえずは涼香ちゃんの行動待ち。果たしていったい彼女がなにをしているのか。少し緊張しながら、それを待っていた。

 そんなとき、ピコンッ、と。俺のスマホが明るい電子音を鳴らした。確認してみると、メッセージが届いていた。


 それを見て、俺はまた別枠として大きくため息をついた。


「どうかしました?」


「ああ、いやまあ、うん。どうかしたといえばどうかしたんだけど……」


 どうせ言って聞かせて止まるような人でもないし、今からなにかをしたからどうにかなるような人でもないし。


「とはいえ、もうちょっと前に言っておいて欲しいものなけどなあ……」


 ぼやくように、吐き捨てるように俺がそう言うと、要領を理解できていない様子の絢香さんが首を傾げる。


 そしてそれとほぼ同時、ピンポーンという電子音が、今度はインターホンから流れてくる。


「あっ、私が出ますね」


 そう言って立ち上がり、パタパタと玄関へと駆けていく絢香さん。本来ならば来客対応は余計なトラブルを避けるために俺がやると割り込むところなのだが、今回に限っては来客が誰なのかハッキリしてるので、特に言うこともなく、彼女が対応する。


「はーい、どちらさまでしょう……って、美琴さんじゃないですか」


「あっ、絢香ちゃん! 今日もその服、とっても似合っててキレイだね!」


「あはは、ありがとうございます。……それで、今日はどんな用件で?」


「うんっ、ちょっとね!」


 玄関の方からそんな会話が聞こえてくる。ちょっとってなんだよちょっとって。質問に対する答えになってないぞ。


 タッタッタッタッと、軽快な足取りが近づいてきて、ついには扉が勢いよく開け放たれる。


「来たよっ! 君の先輩の美琴さんだよ!」


「知ってます、別に来なくてもいいです、あと来るなら来るでもうちょっと前に連絡してください」


「ひどいっ、辛辣ッ!」


 そう言うと、美琴さんは両の手を目元に持っていき、泣き真似のようにしてみせる。

 それに対して俺が微妙な反応を見せていると、彼女は舌をピッと出して誤魔化してくる。


「とはいえ、今のやり取りは冗談にしても裕太くんがひどいのには変わりないけどね?」


「はい? 俺がなにかしました?」


「なにもしてないよ! でもね、なにもしてないのがひどいのです!」


 ビシッと、まるで探偵が犯人を追い詰めるがごとく、真っ直ぐに指先をこちらに突きつけながら、彼女はそう宣言した。

 ちょうどその頃に絢香さんがこの部屋に合流したこともあり、彼女はいきなり目の前に広がっている意味不明な状況にただただ当惑していた。


「裕太くん。自分の胸に手を当ててよーく考えてみてくださいね。前回、私がこの家に遊びに来た帰り、私は君に対して宣言しましたね?」


「はい」


「私も君のメイドになる、と。そう宣言しましたね?」


「そうですね」


 俺がそう言うと、絢香さんがとても驚いた表情をした。

 うん、そうだろうね。だってまだ言ってないもん。


「それで、君はそれに対してどんな反応をしましたか?」


「どんな反応って、いつも通り流しましたけど」


「流さないでよっ!」


 勢いよく、そんなツッコミがなされる。


 いつも通りというのは、彼女の普段の言動、特に冗談半分で言われたであろう内容に対して、俺が適当にあしらっているというそれだった。

 もちろん、なんとなくではあるがあのときの彼女の宣言が冗談からくるそれではなく、しっかりと明確な考えの上からなされているものだということは俺にもわかっていた。

 ただ、正直なところでいえば万が一にでも冗談であってくれたらいいなという希望的観測が半分、これ以上の心労を増やさないでくれという願いが半分で流したのだった。


「コホン……とりあえず一旦それはいいとしましょう。それで? 数日の間部活に顔を出さなかったのはどうして?」


「いやまあ、しばらく放置しておけば我に返って冷静になるかなって」


「まるで人が狂った発想に行き着いたかのように!」


「いや、狂ってるでしょ。あなたのメイドになりますって」


「……確かに!」


 事実として、確かに俺は部活に行ってなかった。それは今言ったとおり、しばらく顔を合わせなければ冷静になってまともになるかなって思ったから。そして、ただ単純に、あんな宣言をされたあとということがあって、個人的に顔を合わせるのが恥ずかしいというものもあった。


「と、とにかくなんと言われようが私は君のメイドさんになるからね! 良くも悪くも君が数日の間部活に来なかったから、私の方だって準備する期間ができちゃったんだから!」



「準備?」


 彼女はそう言うと、今日来たときからずっと腕に提げていた紙袋をグッと突き出した。

 ふふん、と。とても自信満々な彼女はキョロキョロと見回した上で、廊下の方へと向かっていった。


 と、そこで。


「あっ」


「げっ」


 ちょうど、やってきた涼香ちゃんとカチ合った。


「こんにちは! 涼香ちゃん!」


「うう……なんでこの人がいるの……」


 今にも抱きつかんとする勢いで詰めていく美琴さんに、涼香ちゃんが2、3歩下がって顔をしかめる。


「って、今はそういうことを言ってる場合じゃない」


 なんとか気を取り直した涼香ちゃんが、後ろを振り返りながら珍しく大きめの声を出す。


「ほら、早く来る。隠れてても仕方ない」


 その様子に、俺たち3人は疑問符を浮かべながら首を傾げた。

 すると、遠くからちょっとした叫び声とも取れそうな声が聞こえてくる。


「絶対に、嫌っ! サイズの確認をしたいから着てみてって話だったじゃん!」


 茉莉のものだった。どうやらなにかを着せられているらしい。


「うん。サイズの確認をした。予定通り、ピッタリなサイズだった。だから、それで完成。だから、今からお披露目」


「嫌だからね! 絶対にっ!」


 どうやら話を聞く限りでは、涼香ちゃんが茉莉になにかしらの服を仕立てて、それが出来上がって。

 そしてそれを現在茉莉が着用している、とのことだろうか。


「嫌だからと言っても、どうせ後から見られることになる。今か後かの違いしかない。早まるか遅まるかだけ。だから問題ない」


「問題あるっての!」


「むう、そんなこと言って。……裕太さんだって、見たいと思ってるはず」


 えっ、ここでこっちに振ってくるの? 正直そんなことを急に言われたところで、というのが真っ先な感想ではあるのだが。

 ……ちなみに、個人的な意見としておくと見てみたい。絢香さんや涼香ちゃんのメイド服を作った彼女の仕立てた茉莉の服を見てみたいというのが、割と本音ではある。

 ただ、とはいえあんなに抵抗している茉莉の様子を見ていると、それを無理矢理に見るというのも気が引けるというか。


「うん、見たいかな」


「裕太っ!?」


 うるせえやっぱ見たいわ。茉莉には申し訳ないが、興味のほうが勝っちまった。

 俺がそう言ったからか、廊下の方から「うう……」という葛藤の声が聞こえてくる。時折涼香ちゃんが催促の言葉をかけるが、茉莉が「うるさいわね! 今なんとか気持ちの整理をつけてるんだから!」と反論していた。


「わかったわよ、見せてあげるわよ。……ただ、絶対に笑わないでね?」


「大丈夫。私の見立てに間違いはない。きっと裕太さんも気に入る」


 涼香ちゃんのその自信はどこから来ているのか、正直気になるところではあるが、今の本題はそこではない。


 トッ、トッ、トッ、トッ。ゆっくりとした歩調で、彼女が近づいてくるのがわかる。

 途中、廊下付近に既にいた美琴さんのほうが先に姿を見ることができたのだろう。「かわいいっ!」という言葉とともに、今にも飛びつかんとしていたところを、涼香ちゃんがなんとか止めていた。


 そして、彼女が姿を表した。


「うう……なんで私だけミニスカートなのよ……」


「ツンデレ属性にはミニスカートと相場が決まってる」


「どこの相場よっ! というか誰がツンデレなのよっ!」


 スカートの裾をギュッと掴みながら、彼女は恥ずかしそうに顔を赤らめながら俯いていた。


 彼女が着ていたのはメイド服。形式としてはピナフォアドレスのそれなのだが、明らかに袖や裾などの長さが短い。

 絢香さんの物が、足首辺りまでの長さがあり、涼香ちゃんのものもそこまで長くはないものの、膝よりかなり下まで裾が伸びている。

 それに対して茉莉が着用しているそれはバッチリと膝が。そして太もももある程度しっかりと見える程度には短く、彼女の細く、しかしながらしっかりと筋肉のついている、キレイな脚がバッチリと見えていた。

 腕についても同様で、こちらも彼女の程よく筋肉質な腕がしっかりと見えている状態だった。

 それでいて、装飾はふんだんに。どちらかというと落ち着いた雰囲気を感じる絢香さんの服装とは対象的に、たくさんのフリルによって装飾されている。

 たくさんフリルといえば涼香ちゃんのものと同じだが、しかしながらどちらかというと子供らしいかわいさを押し出しているそれとは別で、茉莉の天真爛漫さや無邪気さを魅せているようで、とても似合っている。


「どっ、どうなのよ! 笑いたいなら笑いなさいよ!」


 ヤケになったのか、彼女はそんなことを言っていた。ついさっき笑わないでねって言ってたろうに。


「いや、とても似合ってる」


「お世辞ならいらないって」


「お世辞じゃない、とても似合っている。かわいい」


「――ッ!」


 俺がそう言うと、彼女は顔を真っ赤にして、脱兎のごとくその場から逃げ出してしまった。

 またなにか選択肢を間違えたか? 俺が首を傾げながら絢香さんの方を見てみると、彼女は優しく笑っていた。

 うーむ、相変わらずだが、女性の考えはまだよくわからないな。


「……驚いた。まさか、そういうところで被るなんてね」


 美琴さんが、そんなことを言っていた。


「もちろん、涼香ちゃんの物に比べたら出来は劣るんだけども、私も仕立ててきたの」


「へっ?」


 なんとか、彼女の話の流れを汲もうとしてみる。うん、汲める。汲めるのだが、嫌な予想しか立たない。

 この話の流れで、彼女が仕立ててきたものといえば、ひとつしかないだろう。


「じゃ、着替えてくるね!」


 そう、彼女は言って、廊下の奥へと駆け出していった。

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