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平民のち怪盗  作者: 参
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9話 商人ラートステの転生成り上がり話(ニウ視点)

 物腰柔らかく事務所の応対用ソファに案内される。


「私からもお話が」

「ヴィールちゃんに知られたくない話?」

「そういうわけでは」


 出されたお茶が到底平民街で出そうもない上等なもので驚く。


「ツンデレ可愛いわねえ」

「……商人ラートステ」

「何かしら。ニウ・ヘルック・ブライハイドゥ公爵閣下」

「やはり私の事を知っていますか」

「有名でしょう? 平民商人の私でも世界を股に掛けることが出来たのは、その辺の法律改正してくれた貴方のおかげよ。それにヴィールちゃんが怪盗だって知って、警備隊に突き出さなかった。イケメンでいい人とか神だわあ」


 ヴィールが朝帰りした時、全部話していたようで説明は省けた。

 知った上でラートステは全て用意していた。こちらが話す前に二つの物を机に置いてくる。


「欲しいのはこれ?」


 紙の束と硬貨が入った袋がテーブルの上に置かれた。やはりこの男は分かっている。

 書類の方はヴィールが持ち帰った美術品等の返還先の一覧。いずれも被害届が取下げられた、真っ当な持ち主達。


「選ばせていますね?」


 持ち主不明で国立図書館に寄附された美術品や骨董品は怪盗が現れた初期の頃しか盗まれていない。

 つまり分かった上で盗んでいる。だからこそ怪盗は市井の間で英雄視されているわけだが。

 ラートステは嬉しそうに笑った。言われるのを分かっている顔だ。


「お金はそれで全部よ。あの子が貧民街の子達にって持って帰ってきた分。一旦全部私が預かって、食料や衣服に替えてあの子に持たせてる」

「ありがとうございます」


 賢明な判断です、と伝えると、少しばかり目元を厳しくさせた。


「で? そのお金の正体は?」

「お察しの通り、贋金です」

「そ」

「一枚たりとも外に出すわけにはいかなかったので、助かりました」

「よかったわ。じゃそれさっさと持っていって」


 見返りを求めて来ない姿に違和感を感じて、視線を戻すとにっこり笑う。


「私達みたいなのがそれ持ってたら、後々面倒でしょ?」


 この金銭の出所が平民側になくても、知られて困る人間がラートステの責任にするだろう。所謂口封じだ。

 ラートステは貴方みたいな人が来ると思ってたとさらに笑った。


「警備隊でもない私が来ると?」

「だって怪盗ものには追いかける警察役が必須でしょ? そこにラブがあるんじゃない」


 相棒ルートもあるけど、と言うが、何の事だかさっぱり分からない。


「そうそう。貴方がヴィールちゃん泊めたって聞いて、あまりの尊さに膝をついたわよ」

「尊さ?」

「てかイベント起こるの早って感じ。最高よ! しかも迎えにくるし壁ドンあるし、本当すごすぎ。生で見られて震えてる」

「……先程から、よくわからない言葉を使われる」


 ヴィールが言うおかしな単語はこの人物からきていると分かるが、いかんせん良い言葉なのだろうか。


「そうねえ、余談だけど話そうかしら?」

「?」

「私、前世の記憶があるわけ」

「は?」


 前世、成人女性だったラートステは仕事の帰りに事故に遭い亡くなった。そして、この世界に生まれ出でた時から、その頃の記憶を有したまま育ち、前世の知識や経験を元に商人として成功を収めてきたということだ。

 その口調も中身が女性だからとなれば納得もいく。


「まさかのトラ転よ?」

「え、とら?」

「私の身体ぐしゃぐしゃになっちゃったのよねえ、辛いわあ。まあこっちきて、よくある成り上がり出来たから物語としては成功なんじゃないかしら。タイトルはそうねえ……アラサー女子、転生して荒稼ぎ~化粧品販売員の営業力を舐めるなよ~かしら」

「……貴方が商才を発揮したのは十に満たない歳だったと聞いています」


 ラートステの名は有名で貴族の間でも浸透している。


「仰る通り、化粧品を僅か十年で貴族界隈から市井にまで広め浸透させ、それだけではなく……」


 功績は非常に多岐に渡る。水路を敷いたり、絵画や彫刻の方面にも才があり、彼自身小説家として出版もしている。


「全部前世の記憶と経験、後は転生者仲間のおかげよ」

「仲間?」

「私みたいな転生者が他にもいるのよ。そのネットワークで色々やってたわけ。正直、私がまともに自分の力でやれたのは化粧品と小説ぐらいじゃないかしら。私の成り上がり人生をそのまま書いたのとヴィールちゃんの怪盗ものの二作」


 ヴィールのしている怪盗業は知られるはずもないのに、新聞記事には嫌と言う程掲載されているし、寄付や盗品返還があれば記事になる。それはひとえに目の前の商人兼小説家の力だ。

 貴方も有名じゃないと言われるが、それも公爵としての知名度で、知ってほしい人には少しも伝わっていない。


「ヴィールちゃん、貴方のこと知らないみたいだけど、貴方はヴィールちゃんのこと知ってるわよね? 個人的に」

「……」

「その話詳しく」

「話す必要もないでしょう」

「ふーん……あ、そしたら見返りはそれにしましょう」

「え?」

「ヴィールちゃんとの過去話と、これからいいもの見せてもらうの。これだわ!」

「いいもの?」


 今日の血相変えてヴィールを迎えに行くとか、その上で連れ帰ってくるとか、カベドンとかそういう行動の事らしい。何がいいのかさっぱり分からない。


「まあでもね、私ヴィールちゃんの身は本当に心配なのよ」

「問題ありません。私が守ります」

「イケメエェン」


 またよくわからない言葉を叫んでいる。転生前は非常に言語が特殊な世界にいたのだろう。


「それは期待大なんだけどお」

「どうしました?」

「……んー、あの子に敢えて怪盗続けさせたのって理由ある?」


 黙り込んだ様子を見て、無理ならいいわとあっさり引いた。

 守ると言いながら、怪盗という危険な目に合わせる必要はない。こちらで保護すればいいだけだ。

 矛盾だらけなのは充分わかっている。あの時は保護を許してくれる雰囲気でもなかった。その上で、ヴィールとの関係をどうにか繋ぐ為の苦肉の策が取引。何かがないと、彼女はすり抜けていく。他人に戻りたくなかった。


「怪しいと思わないのですか」

「貴方のことはこちらだって調べ上げてるわよ。転生者に探偵いるんだから隅々までね? ま、気にはなるけど、ヴィールちゃん守るって言ってくれたし、次回必ず供給してくれるなら今回はいいわ」

「……有難う御座います」

「じゃ、本題入りましょ」

「え?」


 もう大事な所は話したはずだと思ったが、目の前の男……いや女性は今まで以上にいい笑顔でとんでもないことを言ってきた。


「貴方、ヴィールちゃん好きなの?」

「はい?」

たくさんの小説の中からお読み頂きありがとうございます。


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