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平民のち怪盗  作者: 参
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8話 推しのいる人生は最高

 近場の壁に押し付けられた挙げ句、ニウの両手は私の顔の横。険しい顔をしたまま見下ろしている。

 ラートステがきゃーイケメンの壁ドンんんと叫んでいたけど無視することにした。彼女の不思議発言は今に始まったことじゃない。目の前に集中するとしよう。


「ニウ、名前」

「は?」

「私はお前じゃない」


 たじろいだ挙げ句、少し頬を赤くした。恥ずかしがってる? そういう要素どこにもなかったけど。


「っ……ヴィール」

「うん」

「一度襲われているだろう。同じ事が起きかねないのだから、夜は一人で出歩かないよう努めた方がいい」


 たぶん相当言い方を考えただろうニウが苦々しく言葉をおろしてくる。

 前襲われたのは明らかなかんざし狙いだったんだけどね。あれ高値で売れるだろうから、狙われてもおかしくないわけで。だから襲われたと言っても、ひったくりで私自身に怪我はなかった。


「夜の街は騎士様が守ってくれてるから大丈夫」

「騎士?」

「そうそう。簪の時はまあ置いといて、私、何度か騎士様に声かけてもらってて」

「誰だ、その騎士は」

「たぶん、騎士団長様」

「ズワールド・ムデフ伯爵か?」

「うん」


 折角だから話してあげよう。

 ここ最近のエピソードをチョイスで。

 私は街中の植物採取に熱中していた。とるだけとって、やりきった私はそこでどっと疲れを感じて、広場のベンチでうっかり寝てしまった。

 ちょっとした昼寝のつもりだった。夢うつつ、綺麗な声の主に話し掛けられる。


「もし?」

「ん?」

「このような所で寝ていては身体に良くないかと」

「ふわ……す、すみませ!」

「いや、この辺りは女性一人では危険だ」

「ああありがとうございます! すみませんでした!」


 とまあ、動揺激しくその場は走り去ってしまった。たぶん騎士団長様はぽかんとしていただろう。

 折角なのでもうひとつ。今の話より後の話だったか。

 帰りが遅くなり道中暗くなってしまった中、道端の植物がまたまた珍しいものだと分かり、その場で飛びついてしまった。月明かりがあったから、かろうじて判断できたけど、そうでなきゃ見逃していた貴重な薬草だった。


「何をしている」

「ひっ! あ、怪しいものでは」

「……この辺りは明かりが乏しいから気をつけなさい」

「う……」

「夜分は月明かりがあっても出歩かない方がいい。早く帰りなさい」


 そう言って優雅に去る様よ。責めるでもなく怒るでもなく優しく声をかけて、市民を慮る様。ああして騎士様が街を巡回して守ってくれてるから治安的には大丈夫。

 と、話を終えてニウを見たら心底苦々しい顔をしていた。うっわ、不機嫌。

 後ろのホイスが笑い堪えて手を口に当てていた。


「ほう、それが騎士団長だと」

「うん」

「顔を見たのか」

「暗くて良く見えなかったけど、そんな時間に巡回してるのって騎士様ぐらいでしょ?」


 騎士の中でも割と身なりが高級そうだったから、偉い人なのだと思う。そうなると、団長が該当になるのでは。


「見えてなかったのに、騎士団長だと分かるのか?」

「うん。おかげさまでズワールド・ムデフ騎士団長様は私の推しだよ!」

「おし?」

「だよね、ラートステ」

「そーそー! 推しのいる人生は最高よ!」

「……ヴィールは、騎士団長が好きなのか? 惚れているのか?」


 きゃーとラートステが叫ぶ。なにかツボに入ったらしい。そもそも、このカベドンという状況がツボみたいだしな。後で詳しくきこう。


「好きは好きだけど、推しに対する好きだよ。恋愛感情はない」

「そういうものなのか?」


 きっかけがあれば好きになるんじゃないのかと念を押される。推しの意味を理解できないとな。でもそれは教えてくれたラートステに説明頼むのがいいかと思うんだけど。


「好きにはならないよ。そもそも騎士団長既婚者じゃん」

「そうだが」

「なによ」

「その、愛妾に、なる事も、できるし」

「はあ?!」


 失礼しちゃう。なんなの。


「私そんな軽い女じゃないし!」

「いやに騎士団長を気に入っているだろう! その可能性だって考える!」

「私、恋愛とか結婚に興味ないし! するにしたってパパとママみたいなのがいいの! 何人も相手にするような人と一緒になりたくないわ!」


 たった一人、最愛の人だけ。それが両親だった。

 今の私は研究第一だから考えてもいないけど、もし誰かと一緒になるなら私だけを好きになってくれる人がいい。なんてそんな話喜々として聞きたがるのはラートステぐらいかな。


「あ、騎士団長様の名誉に関わるから言っとくけど、彼は奥様に一途だから」

「俺の前で奴の話をするな!」

「なんでよ!」


 ホイスが大笑いしてニウに怒られた。ラートステは鼻血でそうと震えている。なんなの、推しの良さを伝えることのなにがいけないのよ。


「あーもー、イケメン最高。ヴィールちゃん」

「ん」

「泥だらけでいるのもなんだから、落としてらっしゃい。着替えてこちらに戻ってきて」

「分かった」

「その間、私がヴィールちゃんのお友達の相手してもいいわね?」

「いいの?」


 こいつ性格悪いよと指差して言うと、ホイスがまた吹き出した。


「イケメンはいくら眺めても飽きないから大丈夫」

「いけめん?」

「分かった」


 そして私は三階にあがる。ニウは最後まで不機嫌そうだった。

たくさんの小説の中からお読み頂きありがとうございます。


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