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平民のち怪盗  作者: 参
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オマケのちハピエン

「え? みんな知ってたの?」

「うん」

「ニウしってる」


 二人で貧民街に行ったら、全員ニウのことを知っていた。


「どういうこと?!」


 逆行してすぐ、ニウは貧民街に一人で訪れて以前と同じことをしたいと申し出たらしい。

 そういえば、文字の勉強とか剣の稽古とか、伝手があるから大丈夫とは言われていたけど。

 全部ニウでした、なんて。


「頭下げてまで言われちゃあなってことでな」

「まじか」

「その言葉は使うなと」

「ニウ黙ってて」


 お小言はいらない。

 どういう経緯があったかの方が気になるじゃない。


「うまいこといったなら、あとは二人で話せばいいんじゃん」

「ニウ、教えてくれるの?」

「……」

「こんなんじゃ、無理だよ」

「もう婚約したんだろ? ヴィールに黙っていてほしいって言ってたこととか、俺の片思いですって言ってたこととか全部話したって問題ねえじゃん」

「待て!」


 ニウが焦った。

 いきなり現れた明らかな高爵位の人間が、私の為だと言って貧民街に訪れ支援をしたいと言ってくる。はたから見れば怪しいことこの上ないけど、それはニウが根気強く街の皆と向き合って解決していったらしい。

 薬草と毒草のことは私が先回りしてやっていたけど、それ以外の支援は全部ニウのおかげということ。

 確かに以前と比べて、かなり復興のスピードが速かった。それに気づけなかったなんて。


「なんてこと」


 というか、そんな回りくどいことするなら、貧民街で再会すればよかったのに。

 相変わらずニウは話さないけど、こっそり格好つけたかったんだと、と言われ、少しむず痒さと恥ずかしさを感じて問い詰めるのをやめた。


「ヴィールちゃん」

「ラートステ」


 そこに、ここ数ヶ月留守にしていたラートステが戻ってきたらしく、土産を引っ提げて貧民街に現れた。

 子供たちが喜んでラートステに飛びついている。


「長かったね」

「ええ、東の国に行ってて」

「成功したという事ですか」

「ええ」


 ニウの言葉に頷くラートステ。話が見えない。


「何があったの?」

「ヴィールの母君は外国の方だろう」

「うん」

「彼に頼んで故郷を探してもらった」

「え?」

「ドンピシャだったわよ~」

「え?」


 大陸の最東端の山岳地帯にある小国に魔法の力に特化した一族がいるという。


「その魔法使い達の総称を、狐と呼ぶ」

「え、それって」


 母のことだ。昔話してくれた中にあった言葉。あれって本物の言葉だったの。


「ヴィールの母君はその国の正当な王族だ」

「はい?」

「ヴィールちゃん、お姫様だったってわけ」

「え?」


 今、そんなことを聞かされるなんて。


「爵位をゲットしていて正解ね。スムーズにあの国に入れたし、王陛下との謁見もすぐだったわ~。爵位のパスポートはやっぱり必要ね」


 その言葉でやっと分かった。

 ラートステが爵位を得た理由。


「そうよ、ヴィールちゃんのお母様の国はかなり厳重でね。平民が持つパスポートなんかじゃ入れないのよ。だから爵位もらって、イケメンから爵位持ちの一部しか渡されない外交許可のあるパスポートゲットしたわけ」


 もちろん、自分の商いの為もあるけど、とラートステが笑う。

 まさかラートステがそこまでしてくれるなんて。


「それに、私が爵位持ってれば、ヴィールちゃんの伯爵位を預かることもできるし?」


 私がニウと結婚すればピュールウィッツ伯爵位は廃嫡となる。ラートステはそれも見越して、預かる気でいたというの?


「んー、これは私の我儘ね。ヴィール・ピュールウィッツ伯爵令嬢をどこかに残しておきたかったのよ」

「ラートステ……」

「あ、離婚したら伯爵位返すわよ」

「それはありえません」


 ニウが即答すぎて少しひいた。


「いいわねえ、イケメンの溺愛ぶりが最高だわ」


 小説書くから全部話を聞かせてね、とラートステは笑う。


「正当な報酬というやつ」

「承知しています」

「え? なに? 報酬?」

「あら、ヴィールちゃんに話してなかったの?」

「……ええ」


 ラートステが東の国に赴いたのは、母の出自を確かめる為に加えてもう一つ、外交関係を結ぶにあたっての顔合わせの場の提案だった。

 東の国にいる母の親族を、この国に招く為。


「貴方たちの結婚式の為にね」

「え?!」

「了承は得ましたか」

「モチよ。私に不可能はなくってよ」


 東の国の王族が私とニウの結婚式にやってくる。

 外交関係を築くきっかけの一つとして。

 理由がそうであっても、ニウとラートステが私のことを考えてやってくれているのは明らかだった。 


「うそ」

「嘘じゃないわね。そもそも魔石の件があったから、外交交渉に行ったんだし?」

「ラートステ、あの」

「ふふふ」


 てかヴィールちゃん本当最高よ、とラートステが黄色い声を上げた。


「貴族から平民になったり、怪盗になったり、出自がお姫様で、イケメンから溺愛されるとか、本っ当最高すぎ!! シリーズ本出せるわ~おいしくてたまらないわよ~!」

「あ、うん、ラートステが楽しそうでよかったよ……」

「ええ、怪盗ノーヴァの新作を楽しみにしてて」

「あ、その連載系列なの」


 怪盗ものとは別物だと思ってた。まあご自由にというところだけど。

 にしても。


「ニウってば相変わらず話さないの」

「それは悪かったと」

「きちんと話してって前も言った」

「善処する」


 それはもう無理なのでは?

 何度やらかせば気が済むの。


「うんうん、そのまま喧嘩しちゃってもいいわよ?」


 あれ、私とニウのやり取りが大概喧嘩ごしって話したことあったかな?

 仲直りもセットよ~ときゃっきゃしているラートステを見て、言及する気持ちが失われた。


「うん。ラートステが一番楽しそう」

「そりゃあねえ?」


 だって、とラートステが笑う。


「私の目の前にある物語はハッピーエンドって決まってるもの!」

これにて完全完結です! ありがとうございます!

ラートステの一人勝ちで幕を閉じました(笑)。


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