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平民のち怪盗  作者: 参
62/63

最終話のちオマケ

「でも、なんで」


 泣くのが落ち着いて、そのまま馬車に乗った帰路、疑問に思ってニウにきいてみた。


かんざしの発動条件は体液の付着だったな?」

「うん、そうだけど」

「ヴィールが簪に触れた指を舐めていたからだろう」

「あ」


 血じゃなくてもいいのか。

 そっか。体液だから、ニウの唾液でも条件クリアしたの。


「でも、会いに来てくれなかった」

「それは……」


 ニウは会いに行く前に、元婚約者との件をどうにかしようと思ったらしい。

 だからありとあらゆる面で調べつくしていた。私が怪盗として推しに送った物も使って、それはもう迅速に。

 私が逆行の話をしてすぐに、ラートステはニウのところに行ったらしく、そこからは証拠とりで監視のくだりを入れたり、ナチュータンの審査状況をやや無理を通して知り得たらしい。

 まあ要するに、準備に時間がかかったから会いに行けなかったと。

 私はニウが私の知るニウでないと思っていたから、会いづらかったのに。

 なんかこう別の手段で、覚えてるから安心してね、ぐらいあってもよかったじゃん。


「そうだ、信用金庫の箱開いたの?」

「ああ」

「条件分かった?」

「分かったが、その……」


 言いづらそうにしている。そんなに条件よろしくないものだったの?


「あの箱もやはり二重底になっていた」

「うん」

「伯爵からの手紙があって、」

「うん」

「その……君が誰かを好きと言う事と、君に想われている人間が箱に触れる事が開錠条件だと書いてあった」

「う、ん?」


 それって、えっと、あれ、私いつニウに好きって言った?

 ……もしかして、独り言で呟いたあれ? あれが告白したことになるの?


「聞き覚えがないが、その、ヴィールは」

「……」

「ヴィールは俺の事が好き、か?」


 なんて期待に満ちた瞳だろう。

 ここまできたら黙って頷くしかできなかった。

 ああもう頬が熱い。


「そうか」


 ニウが珍しいぐらい嬉しそうに微笑んだものだから、余計恥ずかしかった。

 さっき正式に結婚申し込んで、それを承諾しておいて、なんで今更こんなやり取りに恥ずかしさを感じないといけないわけ。

 好きだから、結婚オッケーするんでしょうが。


「これはヴィールが持つべきだ」


 父の手紙を渡してくれた。

 語り口が明らかに私宛ではなくてニウのようだけど、ニウは頑なに私にと譲らなかった。ヴィールを想ってくれている人へ、なんて始まり方なんだから私読まない方がいいと思うのに。

 仕方ないので、手紙を読むことにした。


「……やっぱり分かってて毒飲んでたの」

「ああ」


 解毒も自力でできる父が分からないなんてことはなかった。

 自分のために飲み続けたと言う。元婚約者に知られたがためにだとか、持つ全ての知識を屠るためだとか、みえていた未来の通りであったからとか……どこか上辺だけの理由のように感じる。

 まだ本心と思えた理由は、どうしても先立った母が忘れられなかったというくだり。後追いのように死のうとする自分を許してほしいと書いてあった。

 結局、これだけ読んでいても本心はどれかなんて分からない。ニウが気まずそうにしていたのは、母を選んで私を置いていったような表現があるからか。でも父が納得して亡くなったのなら、それを受け入れたいと思う。そう一人落とし込んだら、ニウは他のことを考えていたらしく、苦々しく囁いた。


「いっそ三年前に戻りたかった」

「え、なんで?」

「三年前なら、まだあいつと婚約してなかっただろう?」

「ああ、そうだね」


 元婚約者と婚約した時期は三年前、父が亡くなって割とすぐだったけど、間に時間は多少なりともあったわけで。


「俺が先に婚約したかった」

「え、そこ?」


 そんなこと、と私が呟くと、ニウが不機嫌に唸った。


「俺はずっとヴィールが好きだったのに」

「ずっとって、街の警備で私に声をかけてた時から?」


 その言葉に一瞬間があるも、すぐに考え至ったらしいニウが驚きの顔を見せた。


「知って?」

「戻ってきてからだけど、その、騎士団長と出会ったとこにニウがいたから」

「そう、か」


 知られたら知られたで恥ずかしいのか耳を赤くして、口元を手で覆っている。この勘違いがあったから、私の押しに対する態度だったのかもしれないなと今更思った。


「あ、でも推しは推しだけどね?」

「なんだと?」

「ニウが声をかけてくれたこととは別で、私は騎士団長を推し続けるってこと」

「どうしてそうなる」


 あ、不機嫌になった。


「推し、格好いいし。逆行前にかなりお世話になったし」

「なんでそうなる」

「いいじゃん、推したって」

「俺が好きなら、奴をおす必要はないだろう!」

「だから推しは恋愛の好きじゃないから!」


 どうしてここにきて、この押し問答もう一度やらないといけないの?

 もういい加減やめようよ。


「ヴィールがあいつに会う前から、俺はヴィールを知っている。時間の長さを考えれば、俺があいつに劣るわけがない」

「なんでそこ競うの?!」


 というか、そうなると、街の警備云々前から、私のこと知ってたの?


「俺の方がヴィールを想っているという事だ!」

「いやだから競う必要ないでしょ! てかいつから私のこと知ってるの?!」

「誰が言うか!」

「そこもったいぶる必要あるわけ?!」


 いっそさっきの結婚承諾取り消そうかという思いがよぎったけど、なんとかこらえた自分えらい。


「ヴィールが悪い! 折角の再会なのに、俺以外の男の話をするから!」

「推しの話して何が悪いの?! それに誤解してたことは解決したじゃん!」

「ヴィールは俺の事が好きじゃないのか!?」

「好き! ニウだって私のこと好きでしょ?!」

「ああ好きだ! だからこそ許せない!」


 勢いのまま叫び続けたところに、少し互いに上がった息遣いが馬車の中で響く。

 ニウとのやり取りは息切れするぐらい声を張るからなあ。


「……ん?」


 あっれ、今とんでもないこと叫んだ?

 馬車の中だからいっか? そういう問題でもない?

 ニウ気づいてなさそうだから誤魔化そう。


「ニウ、もうやめよ? ごめんね、せっかくこうして再会したのに」

「あ、ああ……そうだな、再会したばかりなのに、俺も、そのムキになった」


 ああまた俺は、とニウが自身の発言に反省していた。

 よし誤魔化せたぞ。

 いずれは推しにだって王太子殿下にだって挨拶することになるけど、極端に嫌がるニウの反応が目に見えたから言わないことにする。

 お互いが同じ気持ちなのに、なんだか全然変わんないなと一人笑った。

おまけは二話あります!



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