60話 婚約破棄確定のち連行
「ブライハイドゥ公爵閣下、父に代わって申し上げます。先程語られた盗用と研究許可申請に関するヴェルランゲン公爵の違法行為に公的及び法的な審査と適切な処置を要求します」
「委細承知した」
「そんな道理が通るはずがない」
「決定権は伯爵及び伯爵令嬢にあるが、貴殿を訴えるのは学会だ。学会からの法的訴訟であれば道理は通るだろう」
元婚約者がどう足掻こうが、法的なルートに乗っかってやれば、真実が何か明らかになるだろう。そこまでいけば、正式に元婚約者は捕らわれ最終的には裁判にかけられる。
「貴殿には他にもいくらか嫌疑がかかっている」
「何?」
それは前にも話したこと。
王印及び通貨の偽造と製造、偽造王印による書面の偽造、保護指定生物の所持売買、父の殺害の嫌疑諸々だ。
「平民街に薬草と毒草を不法に植え、臨床結果を得ようとしていた事は既に知っている」
「私はしていない」
「ああ、貴殿が雇った人間が植えていたな。既に捕らえ、その者達からの証言で貴殿の名が出ている」
「ピュールウィッツ伯爵令嬢がしたことでは? 先程から私にやたら執着しているようですので」
執着、とニウが憎々しげに呟いた。
「私は公爵閣下に執着などしておりませんし、街に毒草を植えたこともありません」
「しかし婚約破棄について抵抗していたではありませんか」
「婚約破棄は一向に構いません。むしろ当初の婚約は義理母が勝手に了承したもので、私の本意ではありません。私に直接その打診が来ていたのであれば、受けておりませんもの」
はっきりと告げると、元婚約者は不快だと言わんばかりに眉根を寄せた。
「そのような戯言など」
「では当時サインをした婚約証書の開示を請求しましょうか? 私のサインではなく義理母のサインであるとすぐに分かります」
「まさに売り言葉に買い言葉だ、無意味な事を」
「ヴェルランゲン公爵」
ニウが元婚約者を諫めた。
「その話は後程、双方同意の上で解決されれば良いだろう。もっとも、現時点で破棄は確定だろうが」
「ブライハイドゥ公爵」
「害のある植物をばら撒こうとした人物は、ピュールウィッツ伯爵令嬢と接触した事がない。それは、騎士団長が直轄する王都警備隊の日々の街の安全確認で確認出来ている」
ニウが率先して街をチェックしていたからこそ証明できる気がした。
「貴殿の主張するピュールウィッツ伯爵の不審死について、ピュールウィッツ伯爵令嬢は重要人物として、三ヶ月前から騎士団とモーイーヴラウ伯爵の監視下にある」
「え?」
「その結果、ピュールウィッツ伯爵令嬢はこの三ヶ月薬草と毒草を植えようとした疑惑はなく、また別の調査によって実の父親の死にも関与していない事が証明されている。その為、先日監視が解かれたばかりだ」
そんなことをいつの間にしていたの。
ラートステに視線をやれば、肩をすくめて小首をかしげ笑った。事実だ。本当にやっていたの。
「そこの平民の言う事など」
「彼は既に爵位を得ている」
「低爵位を得たばかりの人間の何を信頼しろと言うんだ。そいつと彼女は共謀しているのでは? 随分親しいようじゃないか」
「だからこそ、監視に向いていた」
私の深いところまで見ることができる人物。居住も知り得て監視もしやすい。郵便物のチェックだってできてしまう。
「一つ一つの疑惑をここで明らかにするか? もっとも、これから我々が行う事で全て片付いてしまうがな」
「何をしようと言うのか」
「ムデフ騎士団長」
推しもいた。
というか、とても近くまで来ていた。
上質な紙を広げて、王太子殿下の許可の元、この社交場を捜索する旨を宣言する。
「なんだと」
「ナチュータンの管理人を名乗ったロック・フォーフォルの持つ管理人契約書の王印が偽造だと分かった。その書面の偽造に貴殿が関わっている嫌疑がある。よって、貴殿の屋敷とこの社交場は偽造王印の捜索対象だ」
「私の屋敷は納得出来ても、この場所は何故」
「ドリンヘントゥ伯爵が自身の屋敷の裏側に別室を造り、違法なオークションを行っている事が発覚した」
その言葉に元婚約者の顔色がいよいよ変わってくる。
まさか推しに送った美術品と偽金の件で察してくれたのだろうか。
そうだとしたら、やっぱり有能だよ。
「ドリンヘントゥ伯爵の証言もあり、この社交場にも別室が造られ、そこで貴殿が主催する違法な取引が横行しているという嫌疑がかかっている」
「そんな伯爵位如きの証言で」
「それは捜索すれば知れる事だ」
「王家より許可が出ている。貴殿にはここでムデフ騎士団長監視下の元、大人しくしていてもらおう」
元婚約者に有無を言わせず、騎士団による捜索が始まった。
陣頭指揮は捜索許可を出した王太子殿下だ。結局挨拶もできずに終わったイケメン。
「ブライハイドゥ公爵閣下」
程なくして、社交場の裏側が暴かれ、その部屋の一つから偽の王印が出てきた。
元婚約者はここにきてついに諦めたのか、膝を折って俯いた。あり得ない、そんな馬鹿なと何度も呟いて。
それを推しが捕らえて連れていく。
あっという間のことだった。
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