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平民のち怪盗  作者: 参
59/63

59話 味方のち申渡し

「……ニウ」


 今の私を知らないニウ。

 会場のどこかにいたとしても、元婚約者とのやり合いに入ってくるとは思わなかった。


「なんで……」


 ニウは私に一切視線を寄越さず、元婚約者を見据えていた。


「ブライハイドゥ公爵が何故……」

「ヴェルランゲン公爵、話は最初から聞いていた」

「これは私たちの問題だ。部外者は口を挟まないでもらおう」

「そういうわけにもいかない」


 ニウが半身後ろを向いて手で指し示す。その先には私のよく知る人物がいた。


「ラートステ……」

「はあい、ヴィールちゃん」


 軽く手を振られる。

 身なりを社交場用に整えたラートステがなんでここにいるの。


「あの商人ラートステか? ……平民が何故ここに」

「彼は平民ではない」

「え?」

「この度、伯爵位を賜りました。今の私は、ラートステ・モーイーヴラウ伯爵ね」


 え、あのやり取りって小説のネタだったんじゃないの?

 私の無言の圧力にラートステが笑う。


「公に筆跡鑑定をお願いするには爵位が必要だったから」

「そ、それなら私の伯爵位を使えばよかったのに」


 正確に言うなら父の爵位だけど。


「あら、私だって格好つけたい時があるのよ」


 王都にある鑑定係に依頼するためにラートステは爵位を得たということだ。

 民間では弱いと分かって。

 それ以外にもやりたいことがあって爵位が必要だったと言っているけど、ラートステは爵位なんてなくてもやりたいことをやってしまえる人だ。わざとそう言ってくれてるの?


「モーイーヴラウ伯爵からの依頼により、筆跡鑑定を公に行った。先程ピュールウィッツ伯爵令嬢が主張していた書面の全ては王都側で鑑定を終えている物で、その結果に間違いはない」

「何を……」


 元婚約者が顔を歪める。

 そしてニウが小さく、隣の私にしか聞こえない声で囁いた。


「ヴィール」

「え?」

「……覚えている」

「……え」


 視線は合わすことなく、元婚約者を見据え直し、ニウは新たな書面を出してきた。

 名前を呼ばれた。

 覚えているって、なにを。

 やめて、そんなはずないのに。

 そんなはずないのに期待してしまう。


「国家信用金庫に保管されているピュールウィッツ伯爵の個人金庫の書面の話だが」

「金庫? 書面?」


 あの金庫、開いたんだ。

 なにかしらの条件がクリアしないと最後の鍵が開かなかった魔法の金庫。

 逆行前では、後回しにしてたけど、今回は開くなんて。

 私、何か特別なことしたのだろうか。


「貴殿がピュールウィッツ伯爵の未発表の研究をそのまま盗用し学会に提出した研究書と、研究書の内容を引き続き貴殿が研究する許可を得ようとした申請書が出てきた」

「何?」

「研究書は学会にて即時に盗用したものと知られた為、貴殿は学会を追放されているな。当然、研究の許可は下りていない」

「それは」

「加えて当時、伯爵が提言していない極めて過激な内容に修正されていた事について、学会内では法的措置をと声が上がっていた。それを学会はピュールウィッツ伯爵に判断を一任する形にしたが、伯爵は法的措置について現在も未だ保留としている」


 信用金庫の方の魔法の箱の中身は私の部屋の中身と違っていた。

 父はそんな話何もしていなかったのに。


「判断を一任する形をとる時に、伯爵は一つ条件を加えて学会側と合意に至っている」

「条件?」

「自身が判断できない状況下にあった場合、最終的な判断は娘のヴィール・ピュールウィッツに委ねると」

「私?」

「これが学会側と伯爵が結んだ合意書だ。不審に思うなら学会長を呼び立てよう」

「結構だ」


 それが本物であることを元婚約者は理解しているようだった。苦々しい声音からそれが分かる。


「ピュールウィッツ伯爵令嬢」


 ここで初めてニウが私を見た。

 変わらず、眉間に皺を寄せた懐かしい眼差し。

 あまりに懐かしくて胸が締め付けられる。

 私を知らないニウなのに、知っててほしいと思ってしまう。


「判断して頂く事は二つ。伯爵の研究内容を盗用した罪と、過激な研究をと内容を無断で修正していた事について、法的措置をとるか否かだ」

「過激な研究の、内容は……どのような?」

「大きく分ければ、薬になるものが毒になる基準の審査、毒を加工した兵器の開発、それに伴う人体を使用した実験の実施」


 以前知った内容だ。

 それを父は知って、私たちに託したのだろうか。


「人聞きの悪い。この国を守る為に必要な研究内容としている」

「では貴殿が盗用した研究書と研究許可を学会に提出した事を認めるな?」


 証明されてしまっている事を今更否定するつもりはない、と元婚約者ははっきりと宣言した。


「私はこの国の防衛力を高める為、ひいては国民医療の質を高める為に提示した。それを犯罪者呼ばわりされる謂れはない」


 内容の書き方に問題があっただけで、本来は崇高な目的であったと主張する元婚約者。

 それがたとえ真実だったとしても、父の研究を盗んだことは揺るがない。


「盗用した事に何も感じないのですか?」


 なるたけ丁寧にきいてみたけど、元婚約者は無駄になる所を救い上げたと息巻いた。


「南西の疫病対策など利のない事ばかり追求しようとする。だから私が有効に活用出来る道を示しただけだ」


 ああもうだめなんだ。

 元婚約者とは分かり合えない。前も貧民街の人々がどうなろうと構わないという考えだった。

 何度戻っても変わらないのね。


「ブライハイドゥ公爵閣下、父に代わって申し上げます」

たくさんの小説の中からお読み頂きありがとうございます。


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