表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
平民のち怪盗  作者: 参
51/63

51話 元婚約者、語る

「貧民街を使ったな」

「ああ、どの程度で死ぬか調べるには丁度良かった」


 曰く、死のうが死ぬまいが影響がないからと。

 ひどいものだ。あそこにいる人たちは懸命に生きているのに。


「最初は薬草における実験からだった。そこから徐々に、毒草を交えて接種しても確実に死に至らしめられるか、また致死量に至る毒草の摂取量の確認をしたかった」

「だから薬草から増えていたの」

「まあ当初はナチュータンの管理人が判別つかず適当に届けていたせいもあったが……実験途中では薬草の中に毒草を紛れ込ませて誤魔化そうと考えていた時期もあったな」


 繁殖力等の確認もしつつ、さらにもう一つ、元婚約者は実験していた。


「初期段階で重要視していたのは、薬になるものを毒にする方法だ」


 あの薬草を使って?

 薬は時として毒にもなる。それは分かっていたし、あの薬草は抽出の仕方と濃度によっては人の皮膚を焼く程、強い毒にもなると知っていた。

 自分で取り扱っていたことだから尚更。まさか元婚約者が同じことを考えていたなんて。


「それも全て回収されていたから、こちらとしては困ったが」


 私が採取していたのは思いのほか良い効果を生んでいたんだ。よかった。


「どの毒をどの程度の強さにすればいいか定まったら、加工した上で平民街に蔓延させるつもりだった。薬草を有毒にする実験がうまく進んでいたら、致死率が高まった疫病としてばら撒けば、速やかに王都の混乱は加速するし、同じ時期に偽造通貨も流通させ経済を傾かせればほぼ完成すると言っていい」

「王都を混乱に陥れて、有力な平民を煽り、内戦を起こそうとしたな?」


 疫病に対策をとるにしても我が国に解決策はない。

 父が研究していた万能薬を使っても元が毒なら別のものを使わないといけないけど、そこに気づくまでに時間がかかれば人が多く死ぬし、国への不平不満が溜まる。

 父という研究の第一人者がいなければ、疫病が故意にばら撒かれた毒だと気づくまで時間がとれると判断した元婚約者は、その時間で手早く民衆を扇動する気でいたようだった。


「内戦を起こしてどうする気だった」

「まあ王を退かせ、そこに私が立つというのもやぶさかではなかったが」


 一番は、と加える。


「他国へ侵略を開始する。戦争をしたかった」


 最初は毒を使いやすい兵器にして東に進路をとる。目的は東の果ての島国にある魔石を得て侵略範囲を拡大させると。


「東の国にしかない魔力の宿る魔石を使えば平民でも魔法が使える」


 つまり毒から生き残った平民を使って兵に登用、東側問わず侵略範囲を拡大する。

 戦争は多くの人間が死ぬが、同時に国によっては芳醇な利益を齎す。それを元婚約者は目的にしていた。

 自分たち貴族は悠々と国内に居座り、平民たちに戦わせる。平民たちは最初の疫病と偽った毒による扇動で心を掴みきっていれば、洗脳の形に持っていくことができる。簡単に軍が完成すると。

 そこに戦争の専門である必要はなく、ただの使い捨てとしてしか元婚約者見ていない。だからこそ魔石というアイテムを使って、誰でも戦争に参加できる仕組みを作ろうとしていた。


「その一つの手段がヴィールか」

「私?」


 ナチュータンが欲しくて私と婚約したなら分かるけど。不思議そうにしている私を見て元婚約者が笑う。


「父親の死を自身の責任にされ、婚約破棄され平民落ち。それに逆恨みした貴方が平民街に疫病をふるう」

「え?」

「ついで王がピュールウィッツ伯爵に疫病にきく万能薬の研究を許していたことで、それが娘の知識になり事が起きたと罪に問えば、全ての原因と理由をそこに集約できる。その為にアレインを送り込み伯爵を始末し、その娘とわざわざ婚約までしたのに」


 今まで起きたことが全部仕組まれた?

 始めから父を殺害するために近づいて?


「ナチュータンが手に入れば、貴方から手を引いてもよかったが……伯爵が余計な条件を加えていた為に利用する計画に移行した」

「はっ、初めからそのつもりだったろう?」

「私も彼女に同情はしていたさ? まあ、生かしていた為に計画はだいぶ狂ったが」


 判断ミスだと笑う。

 私が怪盗していたから。


 裏オークションの主犯だったドリンヘントゥ伯爵は、元婚約者の流通ルート確保のために裏取引の場に取り込んだ。また偽金を広めるのも、また任せていたようだった。


 ナチュータンの管理人ロックは、あの地を毒の栽培地にすること、貴族たちを取り入るための密猟や鉱石採取を生業にさせた。

 実質の管理を実行支配することで、私が管理できないと元婚約者の有利な状況へ持っていく。平民街の疫病と証した毒散布で私を貶め始末することで、ナチュータンは完全に彼のものだ。


 ドリンヘントゥ伯爵とロックは、私が怪盗として重要な物を頂いてきたから捕まえることができた。元婚約者のこととは当時直接繋がりがあったか分からなくても、捕まえることで見えてきたものがニウにはあったのだろう。

 いや、ニウの場合、ここに到達するのを前提に動いていたのかな。

 あまりにも綺麗に繋がっているから。

たくさんの小説の中からお読み頂きありがとうございます。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ