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平民のち怪盗  作者: 参
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5話 取引成立のちお泊り

「どうだ? 怪盗としての罪に問わない、土地の権利の譲渡、捜し物の情報提供。だいぶ良い条件だと思うが」

「……」


 確かにかなりいい。でも、あまりにおいしい話すぎて怪しさが出てくる。どちらにしても拒否権はないのだけど、真意が知りたい。


「そっちの条件は、私が怪盗して貴族の悪事を暴くだけ?」

「そうだな……後はその身なりと言葉遣いを直してもらうか」

「そこ関係なくない?」

「いや、後々必要になる」

「ええ?」


 どういうことだ。けど、それは教えてくれない。

 側の侍従がにこにこしてるのを見ると益々怪しさが出てくるのだけど。


「せめて伯爵令嬢らしく、淑女らしい振るまいと言葉をこなせるように」

「私、平民なんだってば」

「今時、平民であっても最低限の身嗜みと言葉遣いが出来るだろう」

「なによ、私ができてないっていうの?」

「出来ていると思っているのか?」


 また人のことジロジロ見てきた。確かにラートステを見てると、爵位持ちに遜色ない身なりをしているし、街中の女性もとても清潔感ある見た目だ。それは王が促し施策をとったのもあるし、この国が豊かであるということでもあるけど。


「磨かれた後を他人の目に晒すのは嫌な所ではあるが仕方ない」

「え?」

「どちらにしろ、こちらには伝手がある。問題ない」


 いやいや、そこじゃないよ、心配してるとこは。さっきはど真ん中私の考えてること分かってたくせに、今の的外れぶりはなんだ。


「……」

「なんだ? 何が不満だ」

「……」


 納得いかない。そんなにあっちに見返りがあるのだろうか。貴族間の揉め事は詳しくないから、彼の求めるものがどれだけ危険かが分からない。


「ねえ」

「なんだ」

「私のこと知ってる?」


 無視された言葉を蒸し返す。

 この目の前の男は私を知っていた。名前も立場もどうこう言うぐらいだ。けど私はこの男に覚えがなかった。元々研究ばかりで人に興味がなかったのもあるけど。


「……ピュールウィッツ伯爵は生物研究の第一人者だ。論文も読んだし、講演も何度か」

「パパのこと知ってるの」

「淑女は人前で親の事をパパと呼ぶものではない」

「さっき淑女扱いしなかったくせに」

「それは……いや、だから、伯爵に一人娘がいることは知っていたし、よく伯爵に同行していただろう」

「あ、うん」


 同じ研究をしていたからと言って、父にはしょっちゅう付いて回った。とはいっても、私はまだ父ほど深めていない。だからもっと研究に打ち込んで、父が何を見つめていたのかを知りたい。

 彼が父を知っているのなら合点がいく。研究の内容に興味のある人間なら、確実に名前を知っているはず。となると、目の前の男が父の土地を所有していることも、少しばかり道理が通るかもしれない。あの土地が動植物にとって重要で保護すべきものだと判断出来るなら、すぐに公共管轄にもっていく方が良いと分かるはずだ。個人管轄にして、下手に荒らされないで済むのだから。


「ねえ、名前は」

「え?」


 気まぐれだと思う。少し興味が沸いた。

 父を悪く言わなかったことに単純に喜んでいただけかもしれない。


「名前、教えて」


 真っ直ぐ見ると、僅かに眉根が動いた。目を少し細めている。

 この男、仏頂面のようだけど、割と表情出るタイプかもしれない。


「……ニウ。ニウだ」

「ニウ・ヘルック・ブライハイドゥ公爵閣下です。ピュールウィッツ伯爵令嬢」

「ホイス!」


 侍従がフルネームで男の名前を言ったら何故か怒った。

 にしても公爵か。やっぱり爵位が高い。土地の権利を一時的に持てそうだし、このばかに豪華な屋敷を持っていてもおかしくはない。まあ、見た目私とそんなに歳が変わらなそうなのに、爵位を継いでいるのは意外だけど。


「ニウ……分かった、飲む」

「受けるのか?」


 私が彼の名に大した反応を見せないことに、二人は少し驚いているようだったけど、気にせず返事だけさっさとすることにした。どちらにしろ逃れようがない。怪しさはあるけど、少なくとも悪い人間じゃないと思えたから。


「うん、取引成立」

「ああ、わかった」


 手を差し出す。

 驚いたように手と私を交互に見る。あ、貴族の間でこういうことはしないか。

 けど、目の前の男は諦めたのか、もしくは納得したのか、手を差し出し私の手を握った。

 男の人らしい大きな手。一瞬、父を思い出した。


「早速だが」

「ん?」

「湯浴みをしろ。今日はここに泊まれ」

「はい?!」

たくさんの小説の中からお読み頂きありがとうございます。


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