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平民のち怪盗  作者: 参
49/63

49話 父の抵抗

「ヴィール、怪我は」

「ないよ」

「そうか」


 真面目な顔をしてきいてくるニウにそう応えるけど、変わらず私の肩を抱いたままいるニウ。

 怒っては、いなさそうだけど、ちょっと心配ではある。


「何を、証拠に……」


 元婚約者は顔色はあまり変えず、少し声をかたくして応える。


「ウェストゥ商会の面々が全て自供している。当日の手引きはピュールウィッツ伯爵夫人ではあるが、それ以前にヴェルランゲン公爵が関与している事は分かっている」


 するりと出てきたのは書面。

 ウェストゥ商会の取引関税が公に減額を認められた王印つきの証明書だった。


「この証明書の王印は偽造されたものだ」

「……」

「偽の証明書が原因でウエストゥ商会は脱税の罪に問われた。王太子殿下がウェストゥ商会を意のままにする、あるいは商会自体をを解体する目的で脱税の汚名を着せてきたと吹聴したのは貴殿だと商会の面々から供述があった。この証明書が発行された時期は現王太子殿下が税務を担当している事もあり、商会関係者は貴殿の主張を信じたと」

「しかし、」

「この証明書の受け渡しは貴殿が行ったと商会は主張している。公的記録にも、王城に訪れた商会会長の訪問理由は証明書取得となっている」

「証明書がそれとは限らない」


 なら次の話をするか、とニウが小さく囁いた。

 商会の事を認めてしまうと、偽造王印の罪と書類偽造の罪が証明されてしまう。加えて内容が王太子殿下を貶める内容だから、場合によっては国家反逆罪ってとこかな。罪状にはなかったけど。


「貴族間で違法なオークションや嗜好品の取引が行われていることは、仕事柄知っているな?」


 知らないと返せない元婚約者。

 元婚約者はニウと同じで王城勤め。たとえ関わっていなくても、裏取引の横行は爵位持ちの間でも有名だったという事なら、知らないふりはできないだろう。


「その主犯が貴殿だ」

「何を根拠に」

「ドリンヘントゥ伯爵及びナチュータンの自称管理人ロックの供述、押収済みの交わされた書類から貴殿の名が出てくる。ああ、ドリンヘントゥ伯爵が許可を得ていた書類の王印も偽造されたものだと鑑定結果が出た上に、貴殿の所持していた王印と合致した」

「王印だと?」

「王印が届けられた。指紋は貴殿のものしかなかったな」

「白々しい……」

「事実だ」


 伯爵が私を睨みつける。

 十中八九、私がしたことなのだけど、今はそこを追求する余裕はなさそうだった。


「それは、何者かが仕組んだことでは? 王印は二つとない、それに相当する物があったとしても私達一介の貴族が持てるはずもない」

「ああ、先程も話したが、貴殿の所持する王印は偽造だからな」

「なにを」

「嫌疑の中にある。王印及び通貨の偽造、偽造王印による書面の作成だな」


 王印の偽造が確定されると自ずと書類の偽造も成立する。芋づる式的な。


「まあいい、手早くいこう」

「なにを」


 ニウが書類をだす。魔法の箱に入っていたやつだ。


「ここにある共同研究の同意書に覚えがあるな?」

「それ、は」


 途端、ヴェルランゲン公爵が青褪める。ここに来てそんなにあからさまに態度に出ていいのだろうか。


「筆跡鑑定も済んでいる。貴殿の直筆で間違いない」


 もっとも伯爵の署名は偽造だが、とニウは加えた。


「こんなところに、それが」


 その囁きはきちんと聞こえた。

 元々彼が所持するはずのものを父がうまいことした持っていたのだろうか。


「三年前から貧民街と平民街の境目から分布が始まった薬草と同じ種を研究するとしているな? 似た植物に毒草があり、見分けは研究者以外は困難。毒草に至っては、毒性が強力である為、取り扱いが難しく研究もピュールウィッツ伯爵しかこの国では出来なかった。それも研究対象になっているな」

「覚えがない」


 ニウに見せた薬草の分布図。

 あれは確かに薬草で、似たもので毒草もあるけど、毒草ではなかった。生育が似ているから薬草から始めたのもあるだろう。また貧民街の人がとっていきやすいように植えていた毒草を誤魔化す為というのもあると思う。


「貴殿がピュールウィッツ伯爵の講演に参加した回数も日時、個人的な訪問も公的記録に残っている」

「ピュールウィッツ伯爵は様々な生物研究に精通されている。それだけについて話をしに行った事にはならない」

「伯爵は普段の研究では使用しないにも関わらず、いつも王城の研究室で面会を行う方だった。王城での個人の面会は何を目的に行われるか記録しなければならない。貴殿とて知らぬわけではないだろう」

「……」

「ピュールウィッツ伯爵の記録はすべて、この同意書にある薬草及び毒草についてとある」

「勘違いされて記入したのでは? 誤記はよくある事だ」

「加えてピュールウィッツ伯爵は何を話したか詳細を記し、訪問記録として提出している。貴殿の名前についで内容も詳細に書かれていたな。誤記にしても二桁の数を顔合わせしている人間を間違えるとは考えにくい」


 こうなると父は自身が狙われていることを分かっていたのだろうか。ヴェルランゲン公爵に対してあまりに用意ができすぎている。


「非公開かつ外部には出さない条件の元、ピュールウィッツ伯爵の論文が来月伯爵の意志の元、学会を経由して公表される」

「?」

「三年前に学会に送られたものだ。特定の人物以外閲覧不可、指定の日時まで学会に厳重保管、非公開秘匿情報とされていた」

「それが、何だと」

「内容は大きく分けて二つ。南西地域で流行った疫病の特効薬となる薬草、服毒すると件の疫病と諸症状が同一となる毒草……貴殿が共同研究で掲げていたものの研究結果だ」

たくさんの小説の中からお読み頂きありがとうございます。


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