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平民のち怪盗  作者: 参
46/63

46話 馬車の中で喧嘩

 またかと思わざるを得ない。

 ましてや立場あっちが上なのに。王太子殿下も推しもにこにこ笑ってこちらに手を振ってくれた。会釈しかできないのが申し訳ない。

 前と同じように馬車に押し込まれて、機嫌悪そうにきいてくる。


「事の詳細は?」


 いち、義理母が独断で仕向けた刺客が商会の暴動に乗じて接近するから、逃げるふりして裏側に入る。

 に、逃げるふりして刺客を昏倒させる。

 さん、元婚約者と義理母に接触、偽王印発見のち頂く。

 よん、表側に戻る。

 おおっと、百字ぐらいでまとまったぞ。私の勇姿がそんな短くなるなんて。粗筋にもなってない。


「これ」

「ああ」


 ニウは納得いかない顔をしたまま偽物の王印を受け取った。

 指紋も採取できるし、一石二鳥だろうな。恐らく使う人間は元婚約者だけだろう。義理母との関係を見る限り、義理母の立場は元婚約者より下。


「危険を冒すな」

「あの刺客、追ってくるから」


 会場内で現れたら、人が多すぎて逃げ回れない。へたに逃げれば私以外の人間も怪我しかねない状況だった。

 ついでに裏側入ってみようと思ったのは軽率だったかもしれないけど、逆に少人数で攻めてきたから対応しやすかったし。まあニウに言ってもだめだろうな。


「ヴィールがやりそうな事だとは分かっていたが」


 盛大な溜息が漏れる。片手で額を覆って俯く。


「心臓に悪い!」

「中々接触できなかったから丁度いいかなって」

「だから俺を連れて」

「ニウがいると、あの人来ないよ」


 なにせニウを毛嫌いしてるし、今日だって会わないよう途中で私を解放してきた。

 たぶんあっちはニウがいない条件の元で私と接触したいという、難易度高めの事をしようとしている。


「ウェストゥ商会の連中が襲ってきた時だって全然緊張感がなかった!」

「え?」

「襲われている自覚があったのか?!」

「あ、あったよ!」


 ちょっと推しに熱中しすぎてたけど。


「どうだか! 心ここにあらずに見えたぞ!」

「分かってんじゃん!」

「ヴィールを守るのは俺だ!」

「それも分かってるって!」


 ずっとニウの背中の後ろにいたんだから否応なしに分かることだし。


「分かっていない! やっぱりあいつの方が」

「あーもー! 何度も言わせないで! 推しの好きは違うの!」

「だからってあの場であの態度はなんだ!」

「緊張感なくて悪かったわね! しょうがないじゃん!」


 推しが格好良すぎなのが悪い! 騎士って役職はお買い得すぎる!


「俺だって剣は扱えるぞ!」

「そこ張り合う?! 確かに見てて強かったけど!」


 少しだけ怒りをおさめたニウに、見てたのかと問われた。

 そりゃ目の前で戦ってくれてるなら見るでしょ。心配でもあるわけだし。


「てか、やっぱり推しと仲良かったんじゃない。教えてくれてもいいのに!」

「わざわざ教えるやつがあるか!」

「私だって推しのこと愛称で呼びたい!」

「だめだ!」


 なんでニウに否定されるの。推しに言われたら泣く泣く諦めるけど。

 いや、どうぞと言われても無理な気がする。ハードルが高いな。


「もう……そんなに嫌なの?」

「当たり前だ!」

「そんなに私のこと心配?」

「な、前から何度も言って……ああもう鈍感すぎる!」

「ひど、なにその言い方?!」


 そこにきて急な沈黙が降りた。

 くそっと悪態を吐いてニウが頭を抱えて俯く。急に元気がなくなった。

 鈍感……鈍感ねえ。


「ほら、私怪我もなく無事だから。元気出してよ」

「同情なら止めてくれ」

「同情って」


 折角こちらが譲歩したのに、同情ってなに。

 もう一度呼んだ。俯いたままだから、顔を上げてとお願いして、ゆるゆると顔を上げた。やっぱり不機嫌な顔。

 迷わずその両頬を両手でつまんで引っ張った。伸びはあまりよくない。


「な、」

「……もう、いい加減にして」

「あ、な、」

「私、ちゃんとニウのこと考えてるから!」

「う、」

「ニウが心配してくれてるのも分かってる!」

「……」

「勝手をしたのは、その、よくなかったけど」


 つまんでた手を離した。間の抜けた顔をしてこちらを見ていたニウは、気づいて視線を逸らした。


「……ヴィール」

「なに」

「……悪かった」

「ん、私も、ごめんね?」


 気まずそうにしながらも、きちんと謝るんだよな。まあ暴動に刺客とダブルパンチだったから、今回ばかりはニウも焦ったのかもしれない。過剰ってぐらい心配性なのも今までから分かるわけだし。

 推しに対して狭量なのはいかがなものだけど。


「……王印の鑑定に暫く時間がかかるから、それまでは」

「分かってる。大人しくするよ」

「かならず俺を連れていけ」

「はいはい」

「はいは一回だ」


 変わらないな。


「あ」

「どうした」

「ニウ、あったの」

「何が?」


 うっかり伝え忘れるところだった。大事なことだ。


かんざしがあったの」

「何」

「……義理母が持ってた」


 結った髪にとめられた簪。確かに義理母の後姿を見た時に確認した。

 両親の形見。まさか義理母が持っていたなんて。

たくさんの小説の中からお読み頂きありがとうございます。


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