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平民のち怪盗  作者: 参
44/63

44話 夜盗のち間者のち潜入に成功

「ん?」


 ずっと見られる気がする。


「どうした」


 社交界、視線は常にあったけど、なんだか今日は少し違う。


「視線が?」

「?」


 元婚約者の接触はあれからはない。表側には顔を出している。義理母はあれから表でも見ない。

 ニウには社交場の裏側間取りを教えてもらったし、中で元婚約者が取引してることは分かっている。偽の王印もおそらくそちらにあるだろうと。

 元婚約者は違法取引以外の文書偽造もここの裏側でやるらしい。公爵邸は使えないのか、そんな気軽に持ち運んでいいのという思いではあるけど。


「場所を移るか?」


 頷いて、広い庭に出た。

 会場内の視線はなくなるが、いまだ毛色の違う視線はなくならない。

 ここにきてニウも違和感に気づいた。


「いるな」

「うん」

「ナチュータンと同じだ」

「そうだね」


 辺境地ナチュータンでの、管理人ロックが仕向けていた所謂刺客やら間者という者やらだろう。ラートステなら新手最高と言って喜ぶやつ。まあナチュータンは密猟者という側面もあっただろうけど。

 そんな複数のなにかは視線だけ寄越してなにもしてこない。しばしの沈黙の後、庭の先が騒がしくなった。


「なに?」

「近づいてくる」


 ニウが私の前に立つ。その背中越しに暗闇から推しが出てきたのが分かった。

 私たちを見て驚いた後、普段の柔和さは搔き消えた鋭い口調で叫ばれる。


「室内へ!」

「え?」


 同時に複数の騎士と複数の夜盗らしき人間が現れた。


「ジル」

「おう」

「?!」


 ちょっとまった。今、推しを愛称で呼んだ? めっちゃ仲いいんじゃん。私も推しのこと愛称で呼びたい。あ、でも恥ずかしくて呼べないかも! いや今はそうじゃないか。

 推しは持っていた剣の内一つを鞘ごとニウに投げた。

 夜盗を叩きのめしながら、推しがすぐ近くまで来て格好よさに眩暈がする。百パーセント騎士な推しが目の前に……やだ惚れる。

 いやだめだ落ち着け、事態が事態だ。

 既に夜盗らしき集団と剣を交えての乱戦にもつれ込んでるわけで。


「何をしている」

「ウェストゥ商会の奴らが暴動を起こしてな。これでも九割は捕らえた」


 ニウが不機嫌そうに唸った。


「目的は王太子殿下か」

「そうだ。まあ城よりちょろいと思われたんだろうなあ」

「ここまで侵入を許してれば、そう思われても仕方ない」

「いや、手引した挙げ句、中にいれた奴がいるぞ」

「……おい」

「ああ、そういうことだ」


 何を納得してるか分からないけど、推しがその後も格好よく指示をだして室内への侵入を許さない様はもう輝きすぎて目潰れるかと思った。まぶしすぎる。


「!」


 気緩ませてる場合じゃなかった。あの変な視線が戻ってくる。

 というよりも近い。まさかこの騒ぎに乗じて出てくるつもり?


「中へ!」

「ニウ、ちょ」

「お嬢さん、ここは俺たちに任せてくれればいい」


 ぐいっと背を押され室内に戻された挙げ句、中庭に続く大きな窓は閉じられた。商会の人間は素人ぽいから、ニウたちは大丈夫だろうけど問題はもう一つ。


「!」


 出てきた。こちらを見ている。たぶん簡単に室内に入れるはずだ。

 なら、やってみようか。

 動きがない中で、元婚約者に接近する術として利用して、王印を手にする為。

 顔色変えられるか分からないが、か弱い令嬢を演じられれば誘き出せる。


「……」


 目があって怖くなった私は会場を出て奥へ。たぶん窓から見えてるはずだ、演技はやめない。

 壁にもたれ掛かって息を整えようとしたら、壁がくるりと回転して、奥の通路へ入る。驚きつつも追われてるから顔を青くしながら逃げるように奥へ。

 角を曲がって少し進めば。


「よし」


 聞こえない小さな声で、そして心の中でガッツポーズだ。

 出てきた。

 ナチュータンと同じ空気を纏った男。目の前に一人、後ろから近づいて来るのが一人。


「……」


 私は声すら出せずに、唯一右手の角を曲がらないといけない。けど、そこは行き止まりだから、あっちは余裕でくるはず。


「!」

「どうした」

「消えたぞ」


 あ、プロじゃないな。

 裏側の壁と天井の構造を知らないなんて、大した者じゃない。

 では思い切り成敗タイムといこう。


「おい、本当にいないの、がっ」

「どうした、?!」


 仕込み壁の裏に隠れて、通り過ぎたところ背後を襲う。

 一人が倒れ意識を失ってすぐに、ラートステ仕込みのすごく細いけど丈夫な紐を仕込み壁にうまく繋げて天井へあがる。

 後ろを振り向いた相手は私に気づかず、倒れた仲間が意識を失ったことを確認して、次に周囲を伺う。

 そのタイミングですでに私は天井からダイブ。

 頭上から蹴りをお見舞いして、相手はダウン。

 うん、我ながらお見事。

 これがだめなら、とある薬草を加工してできた液状の睡眠薬を浸したハンカチ嗅がせて即ダウンという方法もあったけど使わずに済んだのは僥倖。


「さて」


 今男二人が勢いよく倒れたから、その音で気づいた人間がいるはず。

 なので小走りで進み元の通路へ戻って、刺客が阻んで通れなかった方の道を進めば。


「当たり」


 裏取引に使う部屋は三つ。

 一つは前にニウに見つかった見張りがいる大部屋、ここがメイン取引会場。残る二つは主催側控室、物品保管室で使われているようだった。その内の一つ、控室の方へ向かう道。勿論表の壁から選んで、控室に到達できる箇所にしたのだから間違いない。


「あら」

「!」


 まさかの義理母が出てきた。いや、狙っていた人物だからありがたいけど。

 にしても、表に出ないでずっと裏にいたのか。


「た、たすけ……」


 言葉は焦りと恐怖でもつれる感じ。

 足が絡まり、ちょうど義理母の足元で転ぶ。よし、いい感じだ。私、割と器用。


「貴方は、確か……」

「どうした……フォントンディフ子爵令嬢?! 何故ここに?!」


 お約束の如く元婚約者まで出てきた。裏取引してるから当然かもしれないけど。

たくさんの小説の中からお読み頂きありがとうございます。


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