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平民のち怪盗  作者: 参
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4話 死ぬか怪盗するかのどちらか

「取引?」

「そうだ」


 いきなり何を言ってくるのだろうと目の前の男を見上げる。

 なんとも読めない顔をして、こちらをじっと見ていた。


「怪盗の罪を問わないかわりに、こちら側に協力しろ」

「主人?」


 まさかと傍に立つ侍従が驚いている。この主人、独断で勝手をするタイプなの。


「貴族間で横行している不正取引の証拠を掴みたい。潜入して材料をとってきてほしい。それがこちらの条件だ」

「材料……」


 さっき現場を押さえるには早いと言っていた。つまりああいったことをする貴族を捕まえるには何かが足りないのか。まあ、私には関係ないけど。


「ただでさえ直近爵位を剥奪されているのに、ここで罪に問われたら、それこそ斬首になると思うが」

「私のこと、よく知ってるのね」

「……話題になっている」

「ふうん」


 相手が公爵というのもあるのか、そういった話題好きな貴族世界では私の平民落ちは格好の餌食なのかもしれない。なにを言われようとかまわないけど。


「拒否権は」

「ないだろうな」


 死ぬか怪盗するかのどちらか、か。


「伯爵の所持していた北東地域の土地の権利だが」

「え」

「現夫人は相続に該当しなかった。他に該当者もいなかった為、公共の土地として相続し、今は臨時的に俺が土地の権限を持っている」

「え?」


 私が父から引き継いだ土地の権利だ。爵位がなくなった今、私から離れて義理の母に相続されると思っていたけど。

 どうやら父が亡くなる前に正式な手続きにより、血を継ぐ者にしか相続権を渡さないと盛り込んだらしかった。となると、唯一相続権があるのは私だけ。けど、私も平民。土地を所持するには爵位が必要なのがこの国の土地に関する最低限のルールだ。ルールの上乗せは手続きさえ通れば簡単だけど、爵位のルールはそう覆らない。

 今回のように誰の所有でもない土地は、名義上、王が所持し国の管轄・所持になる。


「なんで、あんたが」

「仕事上、仕方なくだ」


 お堅い仕事をしているな。爵位が高いぞ、この男。王室管理にもなりえる父の土地の権利を持てるなんて、中枢機関で働く高爵位の人間にしかできないはず。


「で? その土地の権利でもくれるわけ?」

「出来なくはない」

「マジか」

「まじ?」


 あの土地は研究で必要だ。あそこを自由に行き来できる権利がほしい。その権利が私に渡されるなら願ったり叶ったりだ。


「私、爵位ないのに」

「そこはいくらでもやりようがあるからな」


 何かよくない方法で権利を得られるような気がするけど、気のせいにしておこう。

 研究を続けるためにも、私にはあの土地が必要だ。死ぬわけにもいかない。父の研究をここで終わらせるなんてできないもの。


「それに、何かを探しているだろう?」

「え?」

「ただ闇雲に窃盗を繰り返していない。現れる所にある程度法則があった」

「え、調べたわけ?」

「そんなもの、すぐに分かる。調べる程ではない」


 それもそうか。

 私が求める形見は東の国の文化。こちらではかなり珍しいものになる。扱う人間に限りもでるから、潜入先も限りが出てくるのは分かっていた。ラートステの情報にも、選択肢が少なかったぐらいだし。


「で、求めるものはなんだ?」

「……簪」

「カンザシ?」

「東の最果ての国のものですね。女性が髪を束ねる時に使ったりするものでしょう?」


 この侍従、よく知ってる。大体の人はなんだそれみたいな反応するのに。ラートステは世界を周っていたことと、彼女の中身のことから説明の必要もなかった。


「そのカンザシは何かあるのか?」

「……両親の、形見で」

「伯爵の?」


 正確には母の持ち物だった。しかも最初は簪の形をとっていなかったらしいのだけど、何かの後作り直して簪にして、母から父に贈られた。それが父が亡くなる時に私に渡された。

 私は素直に誰かに奪われたことを話した。正直、手詰まり感のあった状況と、形見を奪われた行き場のない気持ちを誰かに聞いてほしかったのかもしれない。


「それだけ戻れば、なんでもいい」

「他の物はどうした」

「寄附とかしてて、もう手元には」


 彼が侍従に目配せすると、侍従が頷き、合っていますと応えた。嘘なんてつくわけないのに。まあ、簪の魔法については話してないし、私が彼らに言えたクチではないか。


「なら、こちらはそのカンザシについて調べ、情報を提供しよう」

「え?」

「お前が普段貰っている情報に加えれば、より効率的に見つかるんじゃないか?」

「え、なんで」


 ラートステのこと一言も話してないのに、なんで。どこかでうっかり話してた? だめだ、知られたらラートステの立場まで危ない。

 私を見ろしていた男の眉間の皺が少し弱まった。


「お前一人ではそこまで情報を仕入れられないだろう。大丈夫だ、その人物まで何かしようというわけではない」

「本当?」

「ああ」


 この人なんで私の言いたいこと分かるわけ。いやでも口約束でもラートステの身の安全が確保されるならマシなのか。


「どうだ? 怪盗としての罪に問わない、土地の権利の譲渡、捜し物の情報提供。だいぶ良い条件だと思うが」

「……」

たくさんの小説の中からお読み頂きありがとうございます。


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