39話 うっかり発言
「で、気をつけなきゃいけないのは葉の形と茎の根本の色ね」
「うん」
貧民街、ここ最近は活気が戻ったような気がする。自分たちで家を修繕したり、畑も育ち始めたし、少しずつではあるけど働き始めた者もいる。
ニウは相変わらずついてきた。今ではみんなが頼りにしてて、来れば人が集まる。見えるところにいるニウは今、剣の稽古をしていた。
相変わらずなんでもできるな。
「ヴィール?」
「ん、あ、ごめんね」
私の視線の先を追って小首を傾ける。
「ニウ見てた?」
「え、いや」
「ヴィールも見るけど、ニウもよくヴィール見てるね」
「え?」
確かに見えなくなるとすぐ見える位置に移動してくるけど。そんなあからさまに見てた? むしろ私が? 私も見てたの?
「婚約者同士だから普通なんでしょ?」
「ちょ、まった」
どうしてそうなる。
「みんな言ってるけど」
「ええ?」
来る度に二人でいるから? まさかこの前の花嫁ごっこで勘違いされた?
あ、いけない。思い出さないようにしてたのに思い出してしまった。あの時のいやに色気のあるニウが思い出されて恥ずかしさに顔に熱がともるのがわかる。
「ヴィール、どうした」
「ひっ」
よりにもよってこのタイミングでこっちくるわけ? なんで?
「何かあったか?」
「な、なんでもない」
「いや、顔色が」
当たり前のように頬に触れる。あ、これだ、こういうことするから。でもこういうことに慣れてきている私がいる。今まで気付かなかった。
「だ、大丈夫だって!」
ニウの手から離れた。叩かなかっただけ優しさあったぞ。けど離れたこと自体がだめなのか、眉間に皺が寄って不機嫌になる。
「人が心配しているのに」
いつもの台詞。
気を使っていることはここまできて少しは分かるけど、だからといって触ることを許すのはどうなの。
「心配してるのは分かったから!」
「なら確かめても構わないだろう!」
「大丈夫だって!」
「信用ならない!」
「ひど、本当だよ!」
風邪も怪我もないと半ば悲鳴のように訴えることになったけど、ニウは全然納得してなかった。
というか、ニウまでムキになることないじゃない。
「それなら顔色は変わらないはずだ!」
「そう見えただけでしょ。気のせい!」
「いつも見てるのだから、見間違うわけないだろう!」
どこからくるの、その自信。でもキレ気味に言う台詞じゃない。
「なに? そんなに心配?!」
「当たり前だろう!」
「なら私の言うこと少しは信じて!」
「っ」
唸ったけど、ニウはムキなったままだった。
「私の大丈夫って言葉、一ミリも信じてくれないわけ?!」
「きちんと聞いてやってるだろう!」
「信じてくれないなら、聞いてないのと同じじゃん!」
「違う!」
「何が違うの?!」
「ヴィールは、辛い時に辛いと言わないだろう!」
「え?」
「一人で泣くから!」
「え?」
「……っ!」
ニウははっとして、視線を逸らした。
なにそれ。
私、ニウの前で泣いた記憶なんてない。
辛いと言ったこともなかったかもしれないけど、ニウが側にいる間はニウが色々してくれるから正直辛かった記憶もなかった。
ううん。そんなことよりも、ニウの表情の方が気になる。
なんで? なんで、ニウが泣きそうになるの。
「……ああ、そうだ。あれはどうした」
あからさまに話を逸らした。
ニウが話しかけたのは、ニウがきたら空気読んでいつのまにか少し離れた畑の観察に向かった子。別に読まなくてもいいのに。むしろ間に入って止めてよ。
「こっち」
連れていかれたのは畑より貧民街の奥、小さな子供たちが何人かかたまっていた。
「ニウ」
「どうだ、うまくいっているか」
「うん。ちゃんとお日さまあててる」
「みずもあげてる」
「そうか」
よくやっているなと褒めている。子供たちがめちゃくちゃ懐いてるし。人たらしすぎでしょ。
「ヴィールも見て!」
言われ覗くと、そこには薬草が植えてあった。きちんと育って立派。これはこの辺にはなかったものと、この辺に群生し始めていたけど全部私が回収した薬草と二種類。
「ニウ」
「ナチュータンから持ってきた」
あの偽管理人ロックが、いくらか小屋に置いていたらしい。念のため王都へ押収したはいいが、ナチュータンへ戻すには弱りきっていて不適格。枯らせるならとここに植える許可をとったらしかった。公的許可おろすなんて、さすがニウ。たぶんニウにしかできないだろうな。
「ヴィール?」
ニウがしていたことに顔が綻ぶ。ここのために、公的許可をおろすまでやってくれてるなんて。
「ふふ、嬉しい」
「え?」
「これでこの子たちが育てながら学べる」
「そう、か」
少し挙動不審になっている。どうしたのだろうと覗き込むと少し赤くなっていた。
声をかける前に他の子がニウを呼んだ。
「ねえ、ニウ」
「どうした」
「夜に変な人きた」
「え?」
曰く、夜中に貧民街以外の人間が境目あたりをうろうろしていたらしい。
何人かの子供が日を分けて目撃していた。
「こっち」
一人の子がさらに案内した場所に沢山植えてあったのは全部毒草だった。
「まさか」
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