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平民のち怪盗  作者: 参
35/63

35話 気晴らしの怪盗で事故チュー

「ヴィールちゃん」


 表向きは社交界のパーティーで、裏ではよくない取引している。本当貴族好きすぎでしょ。一部なんだろうけど。

 そのパーティー会場で、VIPと呼ばれる場所があるらしい。闇オークションと同じくだ。


「そこにかんざしがあるの?」

「ただの噂よ。東の国のものが流行ってるって話があったの」

「……ほお」

「行くの?」

「うん」

「イケメンは?」

「え?」


 ラートステはニウに話をしたらと言う。

 ニウとは取引ついでに情報をもらうけど今回のはまた違うしな。


「話さなくてもよくない?」

「えー?」


 まあ正直、気まずいとこもあるんだけど。

 いつも通りなのに、求婚はごっこをはっきり否定しないし。なんだか最近ニウ見るともぞもぞするし。


「丁度いいよ。少し気晴らしで怪盗してくる」

「気晴らし?」


 おっと、あんまり話すと深堀されるから話を切り上げよう。


「なんでもない。ありがとね」

「んー、判断間違えたかしら?」


 イケメンに怒られるのも悪くはないけど、とラートステがにやにやしている。ニウに怒れるのがいいとか中々の猛者よ。



* * *



「一人いいわあ」


 何の縛りもなく、自由に壁裏と天井裏を楽しめる。

 オークション会場程裏側の造りは広くないけど、大きな建物だから造りはしっかりしている。壁の穴を開けるのは大変そうだけど、所々見える場所があるから放っておこう。まずは間取り把握からだ。


「出入りは三つか」


 よくある造り。メイン部屋と思われる場所へ行くのに一つ、作業か商品を保管する小部屋に直結したのが一つ、退路が一つ。回廊を進み、奥に大きな扉があるメイン部屋前に見張りが三人。


「!」


 天井裏、私だけのはずの中に、木材が軋む音がした。うそ、まさか天井裏まで見張りいれてるとかないよね?

 柱の後ろに隠れる。隙間から漏れる明かりで人影が見えた。

 ここから逃げるのは結構骨が折れそう。一歩進めば裏の壁側に降りることができる。ここに降りて回廊を走り抜けて、表側からまた天井に入る?

 間取り把握してないから賭けになるけど。


「え?」


 やって来る姿を確認して軽く混乱した。

 こんな場所にいるはずないのに。


「に、ニウ?」

「……ああ、ここにいたか」


 きちんとした貴族の服を着たままニウがいる。ここ天井裏なのに?


「なんでここに?!」

「聞いた」

「ラートステめ」


 自ら怒られにいったな。行動早すぎでしょ。ご褒美とか言って笑うラートステしか浮かばないし。


「ちょっと、危ないから早く戻りなよ」

「その前に、何故勝手な行動にでた」

「え、それここで話すの?」

「……」


 無言の圧力よ。機嫌悪いな。


「簪の情報あるなら行くしかないでしょ」

「何故俺に話さなかった」

「取引とは違うからいいかなって」


 眉間の皺が深くなる。

 じりじり距離を詰めてくるニウに気まずくて少しずつ距離をとる。それすらもちゃっかり詰めてきて困った。


「近いって」

「狭いから仕方ないだろう」

「てか、その服でどうして来たわけ?」


 恐らく社交界用の服だろう。えらく立派だ。普段から高そうな服着てるなとは思っていたけど、今回はそれ以上。そしてお分かりの通り、天井裏と壁裏は基本埃だらけだ。動けば動く程汚れるのに。


「奥へ進む気だろう?」

「下見としては、あの部屋見ておきたい」


 おっと違う、私の質問に応えてないぞ。


「私の質問に応えないなら先行く」

「待て、駄目だ」

「なんでよ、いいじゃん」

「危険だろう」

「だから下見が必要なんでしょ」


 退路の確保とか、どこに壁裏入れる場所があるかとか、そういう確認した方が安全だし。

 そう訴えてもニウは不機嫌のままだ。


「こちらで間取りを把握する」

「いいよ、折角来たから自分でやってく」

「待て」


 というか、全然気晴らし出来てないんだけど。

 どこへ行ってもニウが現れる。よりにもよってこんな近いし。


「ほっといて」

「嫌だ」


 ええい、なんなの。

 私の手首を掴んで阻もうとしたから、その手を払った。


「もう! ニウってば、いい加減に、お?」

「!」


 その時に距離をとろうと少し動いたのが良くなかった。

 ずりっと滑った。そうだ、ここ天井裏から壁裏へ進める境目だから、踏み外せば落ちてしまう場所なんだった。


「ヴィール!」


 バランスを崩して落ちる私を追いかけてニウが手を伸ばしてくる。そして案の定、ニウもバランス崩して身体を傾けた。

 そのまま一緒に落ちるか。川にダイブした時とかぶる。


「よっと」


 先に落ちたところを、壁と壁に手と足を引っかけて落ちる速さを留めようとした。減速した最中にニウが落ちてきて、音を立てて一緒に壁裏へ落ちるしかなかった。

 けど、そこまで痛みがない。


「どうした?」

「何か音がしなかったか?」

「!」


 びくっと身体が鳴る。

 見張りに気付かれたとか、頭の隅で冷静に考えてはいるのだけど、今起きたことの方が衝撃すぎてだめ。

 やってしまった。


「このあたりか?」

「?!」


 ニウの唇が、わ、私の唇に。

 落ちたはずみでやらかした。事故チューだ、ラートステから聞いたことある、間違いない。

 見張りが近くなるのに、どうしようにもこっちの方が気になって仕方なかった。

 すっとニウが身体を少しずらして離れていく。緊張に浅く息を吐いた。それでも近すぎて互いの息がかかって……ああもうどうにかして。


「ヴィール、怪我は」

「黙って!」


 ニウは気づいてなかったらしい。思わず自分の手で彼の口を覆った。

 隙間から見える見張りはきょろきょろしてる割にこちらには気づいていない。よかった、壁の裏とかそういうのは知らないタイプね。

 見張りは一通り確認したら元の場所へ戻り、そのまま扉の向こうへ行ってしまった。

 丁度良く誰もいなくなったので、ほっとして肩の力を落とす。


「よかった」


 そしてそこではたと気づく。

 ニウにがっつり抱き寄せられている。

 衝撃が少なかったのは彼のおかげかと思いつつも、今の体勢は非常に良くないと手をどけ身体を離そうとしたけどかなわない。

 ニウの腕がしっかり私の腰に回されているから。

 向かい合ってニウの足の間に綺麗に入って抱きしめられている。


「や、やめ」

たくさんの小説の中からお読み頂きありがとうございます。


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