32話 結婚の申し込み作法
「来るんだ?」
「俺を連れていけと言っただろう」
ナチュータンから帰って、怪盗する前に貧民街に行くことにした。そこに何故かついて来るニウ。護衛は貧民街入る手前で待機。
私は薬草をいくらかと、ラートステに薬草から替えてもらった食糧と衣服やらにしてもらって持っていく。まあその荷物をニウが持ってくれて助かるけど。
「ニウ、剣教えて」
「ニウ、こっちも。この前の続き」
「お、ニウ。こっちもいいか」
子供から大人までいつの間にか懐柔されている。なぜ。
私が薬草のことやらなんやらしてる間にニウは何人かの大人と難しい話をやりとりして、同じ年頃の男子に剣を教え、さらにはもう少し幼い子たちに文字を教えている。
相変わらず器用だし、なんでもできるな。
「ヴィール」
「こっちは全部終わった」
「そうか」
帰るかとニウが腰を上げるとまた声がかかる。いいよと伝えてニウに行ってもらう。商売関係の難しい話は私にはわからないしな。教養として夫人からレッスン受けてるけど、誰かに教えるレベルまでいってない。
「ヴィール」
「うん、じゃ畑作り始めようか」
小さな子たちを連れて貧民街境目あたりに来る。護衛からも見えるし、ニウからも見えるから文句ないだろう。少しでも見えないとニウってば、すぐに探しに出てくるし。
「あれ」
「ヴィール?」
「これ、触っちゃだめね」
境目に生えてる毒草を丁寧に採取。念のため子供達には伝えて食べちゃだめだということを教えておく。
似たものに食べられるのもあるけど、見分けつくには時間かかるから、どちらにしろ触らない方が無難。
この子が育つには些か早い気がするけど、後でよく見てみよう。土壌は申し分なかったからな。
「よしよし、じゃやろうね」
男の子も女の子も等しく畑の土耕しにチャレンジだ。
子供たちにできることもしてもらっている。街の中の美化やら、家の修繕やらも大人子供合わせてやってるから、だいぶ整ってきた。いいことだ。
「ヴィール、ここのお花は?」
「んー、ギリギリ範囲外だから、そのままにしよう」
折角なので、その花で遊ぶか。かなりの数群生してるし。害ないし。
花を一つ一つもいでは繋げていく。興味ある子がいくらか寄ってきて私の手先を見ている。
「はい、できた」
「おおー」
花冠。そしてもう一つ、指輪だ。
女子受けはかなりいい。男の子の一部はじっと見ている。
「ヴィール、花嫁ごっこしたい」
「花嫁?」
「結婚式する」
お姫様ごっこじゃないらしい。結婚に憧れてるのかな。土まみれでやるのもまたなんとも。
「いいよ、並んで」
正式なやり方知らないけど。男女が並んでればそれらしいかな?
折角なので花束もどきも作ってあげるとより喜んだ。
「ヴィール、結婚ってどうやったらできるの?」
「ええと、好きな人に結婚して下さいって言って、相手がオッケーしたら、かな。なんか手続きとか色々あるけど」
「てつづき?」
「慣例と法の上での審査の事か?」
ニウがまた難しいことを言ってきた。どうやら呼び出しは終わったらしい。いつの間にか近くに立っている。
「まずは婚約からだろう」
「ごっこ遊びだよ?」
「国の習慣と法律を学ぶ良い機会だ」
どこまでも勉強に繋げるとは。
ニウは婚約から結婚までの貴族の風習、平民の風習との違いと共通点から、法律上の義務とされる手続きまで全部説明した。難しいよ。まだ早いよ。さすがに文字覚えてからじゃないの?
「婚約しないとだめ?」
「いや、法律緩和があったから、婚約を通り越して結婚を申し込んでも問題はない」
どうやら歴史的背景があるらしい。その話はさすがに長くなりそうだったから止めておいた。もうここで授業やってもいいんじゃないの。
「ねえ、どうやって結婚を申し込むの?」
「作法の話か」
「さほう?」
急にがばっと立ち上がって、それはもう真剣な目をしてやると宣言する子が出てきた。
「僕、もうしこむ」
「え?」
「僕、結婚したい」
と、先程ごっこ遊びしてた相手役の女の子と手を繋いでいる。女の子は嬉しそうに頬を染めていて、可愛いしかない。和む。
「正式な申込の仕方か」
「うん」
貴族のやり方を教えるとばかりに立ち方から入り始めた。ニウ厳しいな。スパルタすぎる。
「ニウ、程々にしてあげなよ」
「今身につけておいて損はない」
子供達が自由に花嫁ごっこをやっている間に、このあたりを畑にすることと毒草があった話をニウにしておく。相変わらず難しい顔をしていた。
何を考えているのか訊こうとしたら、自由にしていた子供たちがニウが結婚やってよと言い始める。
ようは見本を見せろってことかな。ニウは私との話も早々に、顎に手を添え少し考えてから分かったと頷いた。
「ヴィール、立て」
「はい?」
「お手本とやらを見せてやろう」
「いやいやいや、私?」
そこの女の子相手にやればいいじゃない。皆ニウのこと好きだからきゃっきゃして喜ぶと思うよ。
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