30話 偽管理人を捕らえる
数日かかるから待てとは言われつつも我慢できない。
私はこっそり様子を見に来てしまった。馬に乗って近くまで行って、裏口からこっそり見る。
小屋には変わらずロックがいる。あの子たちがいる部屋は分厚いカーテンにしきられて見えないし声も聞こえない。
確認のしようがないかと諦めかけたとき、ロックが動いた。その挙動不審ぶりが気になり、少し後をつけてみることにした。
「……」
程なくして、茂みの中に設置された檻が出てきた。罠だ。
「回収しとくか」
どうやらにニウとのやりとりがあったからか、近場の檻は全部回収する気のようだった。その中で捕らえられた子たちはそのまま小屋へ連れていかれ、例の部屋に持ち込まれる。覗いた限り、部屋の中は昨日と同じで一匹たりとも売買されてなさそう。
にしても回収するのはいいけど、檻とか動植物そのまま持って帰る時、その現場押さえられたら終わりの気もするけど。
「明日もこよっと」
* * *
日中はニウと罠探しと回収をしたけど、ロックが多少回収してたのもあり、回収率は悪い。
そして内緒でまたまたロックの小屋に来た時だった。
「ヴィール」
「っ!」
後ろから口を塞がれて驚くことになる。
なんてことはない、ニウが怪しんで後をつけてきただけだったのだけど。
「びっくりさせないでよ」
「勝手な行動をとるな」
「見つからないように確認して帰るだけだよ」
「危ないだろう!」
まあいい、いくぞと声をかけられる。
「え?」
「あれが偽造だと確認がとれた」
「早っ」
そうしてニウは堂々と正面から入っていった。
私は隣で一緒に。その時、耳元で例の部屋を開けて密猟の現場をおさえろとまで言ってきた。
「公爵閣下、いかがしました」
「ロック・フォーフォル、貴殿の罪について確認をとりたい」
「罪?」
するっとニウとロックの間をすり抜けて、例の部屋の扉を開けた。鍵はかかっていない。
ロックは気づくのが遅れて、私を止めることが出来なかった。本当ちょろいな。
「あ、やめ」
「何か不都合が?」
間にニウが入ることで私はすんなり扉を開け、中の子たちを確認できた。皆怪我もなく無事だ。
「希少動物と……これは罠、と」
タグについている国名や貴族名を言うとロックは顔を真っ赤にさせて怒りを顕わにした。
「何を勝手なことを! それは傷ついた動物を保護してるだけで」
「罠とタグについてどう説明するつもりだ」
「それ、は、ほ、そう、治療に必要な援助があった方のメモだ」
「国同士の治療薬のやり取りは人・動物問わず、王への報告が義務づけられている。が、そのような話はここ数年一度もない」
「管理が違うのですよ」
「現在の管理は私にある。報告がないまたは遅延がある場合、過料がとられるが」
ロックが唸る。相手がニウなのがよくなかった。いや、ニウじゃなくてもってとこかな。
「公爵、罠に動物の血が」
「それを鑑定に回せば何が罠に捕われていたか分かるな」
「それは密猟者がやったことです。私が回収し、動物は逃がしました」
「血が付く程の怪我をしているなら保護するだろう。先程そう言っていたな」
「あ、いやそれは」
この人本当墓穴多いな。こういう時、焦らないのも大事だよ。
「港の商人から証言が出ている。南の領地境でも村人から証言があった。いずれも希少動物の金銭を伴ったやり取りがあると」
「ち、ちがう、私ではない」
「取引用に使われたとされる馬車の押収も済んでいるし、外に残っていた車輪の後も押収した馬車と一致している。先程言っていた治療の援助だが、そこに名のある貴族全てに聞き取りしたが、全員そのような話はないと否定している」
「な、なんだって……」
取引現場をおさえたわけではないけど、ロックの言葉からボロがでてるのは確実だった。
私があらかじめ覚えて持ち帰った貴族たち、密輸の取引先は自分可愛さにロックに罪被らせることにしたのだろう。
総じて否定されれば、治療という名目の保護は失われたも同然。
「ロック・フォーフォル。取引禁止生物の売買の容疑で王都へ同行願おう」
「……それ、は」
ニウの後ろには二人の騎士。王都警備隊の騎士だ。ここまで連れて来たの? てかいついたの、
気付かなかった。
「なにを、私は、正式な書類の元で管理をしているのです」
「その書類が本物であれば有効だろうな」
「え?」
「書類の王印もサインも偽物と結果が出た」
「け、契約書は」
「契約書は本来本人に一部、王都に一部保管されると決まっているだろう」
「そ、そんなはずは……契約書はあの御方が」
「その人物が正式に書類を開示、王都保管を要求してきたと言ったら?」
ロック・フォーフォルがこれでもかと目を開いた。
ニウのはったりもすごいけど。
「それは」
「契約書が偽造の場合、ここに居を構える貴殿は不法侵入、占拠、違法取引をしている事になる」
「そ、んな」
違う、私はやっていないと主張するロック。
ニウは浅く溜息を吐いた。
「管理権限は一時的に王にあったが、此度の事を鑑み、全権利を私に委譲すると決めた」
「なんだと?」
「王命だ。覆らない」
不正がこの地にあるのなら、正式に公の権限にし、取り締まれる状況にするのがいい。
一時的にニウに管理権限がある今、そのまま委譲するのは割と簡単なのだろう。まあ早すぎるとは思うけど。
さておきニウに権限があれば、他の人物はニウが認めない限り違法となる。
つまり今の状況だけなら簡単に取り締まれる。過去の分は後々暴いていけばいいだけで。
「認めなくても構わないが、暴かれるのはすぐだ。今否定しても無駄な足掻きだぞ」
「ち、ちが」
違うと何度もたどたどしく訴えるロックにニウが右手に持つ何かを翳して見せた。
綺麗に輝く宝石。
ロックが身体をふるわせた。
「この石に記憶があるだろう?」
するりと掲げた石は、ドリンヘントゥ伯爵家であった裏オークションでひっつけてしまった宝石だった。そういえば川に落ちたやらなんやらでニウから取り返してなかったっけ。
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