表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
平民のち怪盗  作者: 参
3/63

3話 拉致のち取引

 やらかした。

 弱くなった部分が崩れて、そのまま落下。


「あれ、痛くない?」

「な、なんだ」


 身体を少し起こす。バラバラになった天井板にまみれて、先程の若い男が私を見上げていた。

 この人下敷きにしたから無事だったんだ。ん、いやそうじゃないぞ。


「え……まさか、怪盗?」

「!」


 焦っていた男の方が私を見てそう言った。ああもう、だからこういう奇妙な格好してなければ。ラートステ恨む。

 いやでも、普通の人は天井板ぶち抜いて落ちてこないか。でも格好に問題ありだろうなあ。

 そんな焦りと悪態で脳内いっぱいな所に、遠くから声が聞こえた。


「こっちだ、音がしたぞ」

「怪盗か?!」

「やばっ」


 逃げないと、せめて天井裏とか壁裏へ逃げ込まないと。

 急いで立ち上がろうと、身体を半分起こそうとすると、ぐっと強い力に留められた。


「え?」


 尻餅をついている目の前の男が眼光鋭く私を見上げている。

 あ、これもうダメなやつでは。嫌な予感しかしないぞ。


「連れて行く」

「はい?!」

「―」


 魔法で手足を拘束された。

 こいつ、魔法使えるタイプの人間だ。

 魔法は一部の人間しか使えない。主に貴族になるけど、貴族の中でも使える人間は限りがあるのに、よりによって目の前の男が使える側だなんて。今日ついてない。


「行くぞ」


 なんと小脇に抱えられて荷物のように持ち去られた。

 あまりに雑な扱いに物申したい所だったけど、そこから二人は非常に迅速で思わず言葉を失った。

 元々逃走経路は確保していたのだろう。私兵から離れつつも誰にも見られないまま屋敷を出て、そのまま貴族街の別の屋敷に入って行った。

 やっぱり貴族か。

 でも、さっきの屋敷より大きくて立派。この男、もしかして結構な爵位? いや今はそれどころじゃないか。逃げないと。でも手足の拘束解けないと逃げられないし、どうしたものか。


「よし」


 お忍びだったのか、侍従侍女のお出迎えもなく、私室と思われる部屋へ連れていかれ、そのまま床にポイっと荷物のように放り出された。


「いっ」


 そこまで痛くはないけど、もう少し優しくしてくれてもいいのに。一応人なんですけど、私。決して荷物ではない。いや荷物でも丁寧に扱うべきだと思うけど。


「なんだ、お前」

「……」

「おい、なんなんだお前は」

「……それはこっちの台詞」


 豪奢な絨毯に寝転がりながら、きつく睨みあげると目の合った男は驚きに顔を染めた。


「ピュールウィッツ伯爵令嬢?」

「え?」


 私のこと知ってる? いやその前に、正体バレないようマスクをいつもしているのに。


「って、マスク!」

「ああ、これか」


 ちゃっかり手に持ってる。なんて抜け目のない男。


「返して!」

「返すわけがない……にしてもひどいな」

「え?」

「顔がひどい」

「はあ?」


 私の姿を上から下までじっくり眺めて、呆れた様子で息を吐く。初対面にしては、だいぶ失礼じゃないだろうか。


「髪の毛の手入れをしていない、化粧もしていない。挙句汚れがひどいな」

「うっさい!」


 汚れは仕方ない。天井裏とか壁裏通ると埃とかつきやすいし。そもそも怪盗に身だしなみは必要ないだろう。人目に触れないのだから。

 ラートステもやたら化粧がどうとか、髪結いたいとか言っていたけど、怪盗って身なり整えないとやっちゃだめなわけ?


「拘束解いて! 今すぐ!」

「言葉遣いもなっていない」

「どうでもいいでしょ!」

「北東地域の訛りもあるな」

「!」


 こんな少ない会話で分かるなんて。母がそうだったから、私も割と訛りが残っている。知られて揶揄されると母が悪く言われているように感じて、それが嫌で端的な話しかしないようにしてたのに。


「女性としてどうなんだ。恥ずかしくないのか」

「なにその厭味な言い方! 初対面の人に言う?!」

「初対面だと?」

「てか顔は仕方ないでしょ!」

「身嗜みの話をしているのであって、造作ぞうさくの話ではないぞ」

「私、造作って一言も言ってない!」


 言ってないぞ、失礼な男だ。なんで連れ去られて睨み見下ろされた挙げ句、見た目悪いなんて言われなきゃいけないわけ。


「あんたこそ厭味なのが顔に出てるわ! 性格悪そうな感じに!」

「なんだと」


 ぶふっと焦っていた方の男が吹いた。余程面白かったのか、口元を押さえて身体を震わせている。


「見目麗しいと言われる事ならあるが」


 紳士だの、お優しいだの言われるらしい。自分で言う話ではないよね。


「うわ、自意識過剰……性格悪い」

「なんだと」

「大体紳士は淑女を小脇に抱えないでしょ。抱き上げるでしょうが」

「どこに淑女が?」


 わざとらしく周囲を確認する男。やっぱり性格悪いな。

 すると笑いに笑いきったのか、後ろにいたもう一人が、まーまーと目の前の男を宥めた。


「主人。こちらが攫って来たわけですし、落ち着いて」


 拘束もとってあげましょう、と優しい言葉まで。素敵、こっちは人格できてる。

 すると渋々拘束を解いてくれた。

 よし、ひとまず自由。豪奢な絨毯の上で座り込んで、周囲を確認した。窓も扉も遠いから、すぐには逃げられなさそうだな。


「逃げるなよ」

「……」

「おい」

「主人、まずは謝りましょう」

「はあ?」


 女性に失礼な事言ったんですからと窘められている。主人と呼ぶということは、彼は侍従か。


「ちっ……悪かった」


 存外あっさりと頭を下げてきた。


「舌打ち……でも意外。すんなり謝るんだ」

「どういう意味だ」

「言葉のまま」


 言い返すことはしないで舌打ちだけ返された。貴族にしてはマナーが悪い。まあ私が言えたクチではないけど。


「まあいい、ピュールウィッツ伯爵令嬢」

「私もう伯爵令嬢じゃない。というか私のこと知ってる?」

「……そこはいい。話がある」


 はぐらかされた。会ったことないと思うけど、そこを話す前に違う話題を振られてしまう。


「俺と取引しないか」

たくさんの小説の中からお読み頂きありがとうございます。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ