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平民のち怪盗  作者: 参
28/63

28話 可愛いと言われたらどうだろう

 ニウの馬が怯んだから、あっという間に逃げ切れた。

 追いかけてくることはなかったから一安心。

 そしてしばらくしたら、追いかけてくる馬の足音二頭分聞こえてくる。ニウと私が乗ってる子たちとは違う種類。

 ちらりと背後を見れば、予想通り、顔を隠した男二人が追いかけてきている。


「んー……ねえ、少し助けてくれる?」


 乗る馬の首を撫でると応えてくれた。よし、怒られそうだけど、やるとしよう。

 跨がるのを止めて、足を馬の背に乗せ中腰のまま、少しスピードを落とす。


「一人で飛べるね?」


 たてがみを撫でれば頷いたので、私はそこからタイミングを見て真上に両手を伸ばして飛んだ。

 掴んだのは横に延びてる木の枝。勢い良すぎて掌痛いけど、そのままくるりと逆上がりして枝の上に着地。思いのほかイメージ通りにできた。伊達に怪盗業してたわけじゃなかったってことかな。


「よし」


 私の馬はそのまま飛んで、深くもなく距離もない渓谷を飛び越えた。

 私が消えて驚く男二人はその勢いを止めようとするも、一人はかなわず川に落ちた。高さはないから無事。乗ってた馬も驚きつつも泳いで川岸に到達。

 落ちなかった男の方は狼狽しつつ、渓谷を覗いている。そのまま私は枝を使い勢いをつけて男の後頭部目掛けて跳び蹴りをしてみた。形はラートステの言う体操の鉄棒みたいな。


「ちょろ」


 簡単に蹴りが入って、男が馬から落ちる。驚く馬をよしよしして大人しくさせ、意識を飛ばした男を縛り上げた。

 簡単すぎるけど、近くに他の仲間がいる気配はない。

 次は渓谷へ降りて、岸辺で待つことすぐ。

 息をあげながら泳ぎきった男の目の前、笑顔でお出迎えだ。


「お帰り」

「え?」

「念のため意識飛ばしてて」


 手近なもので昏倒させて、手に持つロープを引っ張ると男が川から持ち上がる。本当ちょろいな。簡単すぎて逆に心配だよ。


「ニウ怒りそうだな」


 馬二頭、その上に丸裸にして縛り上げた男が一人ずつ、そしてそれを牽引する私。

 絵面的にアウトっぽい。

 案の定、待ち合わせの丘を登る途中、私を見つけたニウは最初、眉根を寄せた。次に驚きに目を開き、次に不機嫌を滲ませた。

 うっわ、怒られそう。


「それはなんだ」

「なんか、怪盗してたら鍛えられてたみたいで捕まえることに成功した図」


 かんざしの時にここまで身体能力向上してたら、奪われないですんだのにな。今更たらればの話しても意味ないか。


「何故逃亡の危険ないよう縛り上げる方法を知っている」

「ラートステ仕込み」

「だからといって、男二人の服を脱がしたのか」

「何か仕込んでたら危ないし」


 丸裸にしたのがニウにはよく思えなかったらしい。淑女からは遠いとは思うけど。いやそもそも淑女は自分から戦いに行かないから、その時点でアウトか。


「なんでこう、勝手なことばかり」


 不機嫌だなあ。まあ勝手すぎることに自覚はあるけど。


「いいじゃん、捕まえたし」

「俺がどれだけ心配したと!」

「だからあの時も言ったし。二手に別れた方が良かったって」

「ふざけるな! 黙って俺の後ろにいればいいだろう?!」

「なんでそこまでこだわるわけ?」

「何故そう独断専行する」 


 あ、私の質問無視された。ひどい。


「捕まえたんだからいいじゃん」

「そもそも撒くといっておいてこれか」

「そ、れは、タイミングでっ」

「撒くだけも納得いかないが、こいつらと相対したんだろう? 少しは自分の力を考えろ」

「なによ、そんなに信用ならない?」

「一度襲われている身だろう。用心すべきだ」

「怪盗やってたら強くなったわけ。だから今回は大丈夫だったの」

「それでも相対するなら俺がいる時だけにしろ」

「なにそれ」


 まあ私がミスしたら、私が人質になってニウが一気に不利になるんだけど、そうなることはない自負はあった。あちらがこの地を知っていても、私も同じくらいは知っているし、撒ける自信もあった。

 まあ戦うをすぐさま選んでいたのは、やりすぎかもしれないけど。


「ああくそ」


 がしがし頭の後ろをかいて、ニウが浅く溜息をつく。

 こんなことを言いたいんじゃないと、小さく囁いた。

 息を何度か吸って吐いて、自分を落ち着かせている。視線を一度逸らした後に戻ってきたのは、不機嫌がいくらか緩和された形で見下ろす瞳だった。


「怪我は」

「ないよ」


 するりと手が伸びて、私の目元を拭う。

 不機嫌そのまま、けど我慢している。


「汚れてた?」

「そうだな」


 ニウの手が離れない。

 どうしたのかと思っても、視線も逸らさないし、眉間の皺も変わらない。


「……無事で良かった」

「え?」

「もう勝手はするな」


 ふいっと顔を背けて、捕まえた男の二人の方へ向かうニウの後姿に気付いてしまう。

 首筋が真っ赤だった。


「心配してくれた?」

「さっきもそう言っただろう!」


 肩越しに睨みつけられた。むっとするけど、その首筋の反応が本音だと思うとしようか。

 男たちを馬から降ろす為にロープ緩ませようとするニウの隣に立って手伝った。すると不機嫌ながらも不可解な顔をして、こちらをじっと見ている。


「本当に心配してるようだから、許してあげる」

「……可愛いくない」

「ど、どうせ可愛いくないわよ」

「ヴィールは、」


 ニウが何か言いかけた時、ホイスが馬に乗ってやって来た。どうやら私がここに来るまでに、ニウの方の追手を負かして、ホイスに回収を一任してたようだ。

 このタイミングだったからニウが言葉を続ける事はなかったけど、一瞬ニウに可愛いと言われたらどうだろうと考えてしまった自分に首を傾げた。

たくさんの小説の中からお読み頂きありがとうございます。


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