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平民のち怪盗  作者: 参
27/63

27話 怪盗の依頼と襲撃

 ニウの機嫌が良くなった。口元に手をやって身体を少し折って、笑うのを堪えるような様子まで見せて。

 窓からロックが去るのを見てから、ニウに詰め寄った。


「話が違う!」


 土地の所有権を得ようとしてる人設定だったはず。


「話変えないで!」

「そんなに嫌か」

「合わせるこっちの身にもなってよ」


  まーまーとホイスが私を宥めて座らせる。

 その隣に当たり前のようにニウが座って、さらっとお茶まで用意されてしまったので、仕方なくお茶を頂く。

 納得がいかない。あ、でもお茶おいしい。


「少しぐらい美味しい思いをしてもいいだろって事ですね」

「ホイス!」

「おいしい? 私が困るの見て楽しんでるわけ?」


 趣味が悪い。睨むと、むくれるなと言われた。


「ヴィールは奴に恋人だと言われて何も思わないのか?」

「その場で違うって言うだけでしょ」

「他の奴なら恋人だと言われて嬉しいのか」

「なにそれ? ニウでも他の人でも恋人じゃなければ否定すればいいし」


 ニウが一つ溜息を吐いて話題を変えた。


「あいつは所有権継承の条件を知っているぞ」

「え?」

「だから、急遽継承権が俺にくるような言い方にした。第三者の人間にしたら、逆にこちらが不利になる」


 どこの会話で分かったの?

 私にはさっぱりだったのに。


「ヴィール」

「なに? 言っとくけど、勝手に設定変えたの許してないから」

「怪盗の仕事だ」

「え?」


 突然何を言い出すの。というか、ここでは研究するっていうご褒美タイムじゃん。密猟はどうにかしたいけど。


「ロック・フォーホルの管理人権限についての契約書が欲しい」

「ああ、さっきの」

「王印に加え、王の直筆のサインをした書類なら全て把握しているが、奴の言う物に記憶がない」


 何気なくすごいこと言ってるな。国が抱える書類丸暗記ってできるものなの?


「それって偽物ってこと?」

「その可能性もある」


 偽造品ならそれを元に、ロックも作成者も一気に取り締まる事が出来るし、なにより王印の偽造が一番の懸念材料だとニウは言う。

 そっか、王印あればなんでもできるな。


「奴から管理権限を奪う事が出来れば、密猟の件も片付くぞ」

「え、本当?」

「管理していると言っておきながら、密猟を認知し、且つ対策もせず放置しているなんて、自分が手引きしていると言っているようなものだろう」

「そっか」


 そしたらやるしかない。


「怪盗やる」



* * *



「なんでよ、ラートステ」

「フラグだったから送っておいたわ、だそうです」


 おのれ、ラートステ。

 私がここナチュータンへ行くって言った時点で怪盗衣装の用意して送りつけてきた。フラグって何。私にとってのご褒美回じゃなかったの。怪盗のフラグ、どこにもなかったでしょうが。


「相変わらず器用だな」

「事業が安定してるからって、こういうことにどっぷりだからね」


 曰く、趣味の同人活動らしいけど、作品を公に発表しているわけでもないのが不思議なとこ。


「その前に確認しに行くか」

「管理人小屋?」

「ああ」


 退路の確認はしておきたいし、ちょうどいいか。

 管理人小屋のある場所は領地西側中央、行ったことない場所だ。

 馬を走らせれば、すぐに到達する。道中、確認したいとこは後でと言われて残念だったけど。


「あ、そういうことか」

「どうした?」


 管理人小屋は父と過去に用意した避難用の小屋だった。それを増築しているよう。

 人の領地で勝手しちゃって。当時の私は何も聞いてなかったし。


「貴族の屋敷みたいにはいかないだろう。窓と扉の位置を覚えておくか」

「ん、大丈夫」


 管理人はいなさそうだった。

 小屋周辺を確認すると、以前とさほど変わりない中に、目立つものが現れた。


「車輪の後」

「馬車だな」


 溝が深いということは重いものを運んでいたのか。もしかして。


「密猟の?」

「だろうな」


 馬車の方向は二つ。

 一つは北の海側へ、一つは西の領地境。よくもまあ隠さないでいるな。ニウが来た時点で隠せばいいのに。


「あっちは俺が婚約者に現抜かして遊びに来てる程度にしか思っていないだろう」

「そうなの?」

「密猟について深く言及せずに、婚約者と来ていると言って雰囲気でも作れば簡単にかかっただろう? 表向きは仕事、実際は旅行と思われているな」

「それかなり能天気じゃない?」

「あれはその程度の男だろう」


 管理人ロックの評価が低すぎる。可哀相。何かしてくるかもしれないのに?


「周辺を再確認して戻るか」

「うん」


 森があれば紛れて逃げられる。屋敷まで距離はままあるけど、見つかりにくいルートがあるからやれそうだな。


「!」

「ん?」


 木々が奥深い森の中、ニウが何かに気づいた。

 一つ遅れて私が気づいた時には何かが降ってくるのが見えたところで。


「くそ」


 獣用の罠でも踏んだのか、石が飛んできた。いや、基本傷つけたくないはず。石を飛ばすのはたぶんやらない。そしたら、私たちに向かってわざと飛ばしてきてる?


「ニウ、二手に別れよう」


 私の提案にニウがあからさまに怒った。


「何を馬鹿な事を言っている!」

「私はこのあたりに詳しいし、固まってるのは逆にいい的」


 それに、これ以上同じことされたら、周囲の動物も植物も傷つく。けど、ニウは譲らない。


「駄目だ!」

「ええ……」


 ニウ一人なら魔法も使えるし帯剣もしてるから、追っ手が姿を現しても勝つ見込みがあるはず。けど、私を守りながらは逆に不利。あちらの人数も囲まれているかもわからないし。

 それなら互いに単独の方が切り抜けられる可能性が高い。私一人森をかけて撒いてしまった方がニウへの負担もないはず。撒ける自信はある。

 そういってもニウは納得しない。強引に進めるしかないかな。


「このまま北へ進むと、平原に出て、そこに切りだった丘があるの。そこに待ち合わせで」

「だから駄目だと」

「あ」


 草むらから何か長いものが出てきたので急いで避けると、大きな網だった。

 危ない、捕まるとこだった。

 同時、私とニウの間に長い棒のようなものが飛び出してくる。罠の一つかな。でもちょうどいいか。


「じゃ、よろしく」

「待て!」

たくさんの小説の中からお読み頂きありがとうございます。


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