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平民のち怪盗  作者: 参
26/63

26話 怪しい自称管理者

「着替えは用意してある。何も喋らなくていい」

「頑張る」


 淑女特訓も途中の中、なぜか用意されていた淑女が着る服を渡された。

 侍女として一緒にと訴えたけど却下される。あちこちニウと遠乗りしてる様を見られている場合、侍女では説得力に欠けるから。対等に近い立ち位置が必要だった。よって賓客扱い。設定は土地を引き継ぎたいと申し出た貴族。

 お話するのは無理でも、ニウの側にいるだけなら大丈夫のはず。淑女教育、立ち方歩き方は及第点をもらえたし。


「ご挨拶が遅れて申し訳ありません」


 応接間に入ると即声をかけられる。あちらから話してくるってことは身分はあちらが上? 夫人のお勉強ではそう教わった。でも見た目ラートステより劣る服装。

 ニウもホイスも顔つきは変わらないけど、僅かに不快感を感じる。となると、管理人は不適格なことをしたと。


「何用でこちらに」


 ひどく冷たいニウの声音に全て悟った。けど、目の前の男は気付かない。

 男の名はロック・フォーホルという。

 この地の管理を任されており、ニウに一時的に権限があることも知っていた。

 管理人としてこの地に赴任したのは三年前、父が亡くなった時。雇い主は義理母。

 あの人何がしたいの。売ればいいとか言っておいて、管理しようとするなんて。


「しかし公爵閣下」

「何か」

「奥様……ピュールウィッツ伯爵夫人の名義になるのはいつ頃でしょうかね?」


 えらい直接的にきいてきたな。ニウは終始機嫌悪いっていうのに。


「何も御存知でないと」

「いえ、難しいとは夫人から聞いてましたが。ほら、大元は貴族で親族であれば可能でしょう?」

「訂正しよう。難しいのではなく、不可能だ」


 今日のニウは怖いなあ。いつもより不機嫌だし、声音は低いし平坦、話す気ないから帰れ感が半端ない。


「伯爵夫人でなければ他の人間には不可能なのでは?」

「話せる範囲の許容を超す。王都で正式な手続きを踏んで確認すればいい」


 まあもっとも、とニウが口元を片方だけ上げた。悪役のような顔だな。


「公的所有であっても、私の個人所有であっても、全権限は私にあるな。管理問題にも適正に取り組もう」


 うっわ、怖っ。お前、クビにするって言ってるようなものじゃないの。

 鈍感そうな管理人ロックでもさすがに察したらしく、眉根を寄せて嫌悪感を顕わにした。


「管理なら私にお任せ下されば何も問題は」

「一人では苦労が多いだろう」

「いえ、そんなことは」

「この地で希少種の密猟が行われていると知って管理出来ていると言うのか?」


 その話題振るの。確かにタイムリーな話題だけど。もっと遠回しに訊いてもいいんじゃないの?


「そ、それをなぜ……」


 しかもこっちもおバカだ。初耳ですとか言って、知らんぷりすればいいのに、どうして言葉と反応でなんでお前それ知ってる的な態度とるの。

 もしかして、すごく簡単に解決するの、これ?


「ナチュータンの現状を知っているようだな」

「し、しかし、範囲も広く、中々捕まらないのです」


 ちょろい。ラートステなんて、いくつも隠し玉というか切り札抱えて商談してるのに。

 しかもそんな風に言ったらだめ、言い訳できなくなる。


「であれば、尚更この地の管理問題について早急に改善すべきだろう」

「ええ、ですが」

「貴殿は密猟を知って見過ごしているにも関わらず、管理が出来ていると主張するのか?」


 ほら、元々口だけはお得意のようだったニウが、ボロばっかり出す人間の揚げ足取りなんて簡単すぎてぐいぐいくるに決まってるのに。

 ロックはぐっと言葉を詰まらせてるけど、そんな唸っている場合じゃない。


「い、いえ、でも私の元には正式な契約書もあります。現在の管理がどこにあろうと、管理は私がすることに問題はない」

「契約書?」


 王都の管轄は土地の所有権限で、管理人の選任権限は確かにない。けど管轄は国、というかニウだから、そういったところも強制力出そうだけど。


「故ピュールウィッツ伯爵と、王印と王のサインもある公的な契約書です」


 なんかすごいこと言ってきた。契約書に王印?


「……成程。つまり貴殿は我が国が公的に認めた管理者だと」

「そ、そうです。なので、早々に私を解任する事は出来ませんよ」


 となると、解任手続きも王都で王印と王のサイン入りでやらないといけない。

 けど割と国の真ん中で働いていそうなニウが知らないっていうのも不思議な気がする。


「確認する時間を頂こう」


 その言葉が合図だったと言わんばかりに、ホイスが管理人ロックを促した。

 エスコートが自然すぎて、立ち上がっちゃったよ。自然に外へ足が進んで行くなんて、どういうスキルなの、ホイスったら。

 ニウが立ち上がったので、私も少し後ろに続く形で立ち上がった。


「お、王印もサインもあるのは本当ですからね」

「留めておこう」


 特段認めたと言っていないのに、それが了承の意だと思ったのか、途端ロックは笑みをこぼした。


「そういえば、公爵閣下は何用でここで?」

「……少しゆっくりする時間が欲しくてな」


 と、なぜか私に視線を寄越す。

 なぜ寄越す?


「ん? そちらの方の為にいらしたということで?」


 ほら、案の定あちらさん話振ってきたし。私、お話しすると訛りばれるぞ。


「ああ、そうだな」

「恋人か何かですか?」


 え、ちが。思わず声が出そうになるところを、必死に抑えた。今日はひとまず、にこにこしながら立っていればいいだけだもの。

 再びニウが私を見下ろす。作られた営業用のいい笑顔だった。


「ああ、そうだな」

「?!」

「婚約者だ」

「?!」


 何を言ってくれる?

 ニウが私の手をとり、さらには腰を抱く。営業用笑顔のまま私を見つめ続けているのを見て、ロックはお忍びデートかと小さく囁いて、やっと出て行ってくれた。

 違うよ、そうじゃないよおおお。

たくさんの小説の中からお読み頂きありがとうございます。


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