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平民のち怪盗  作者: 参
25/63

25話 やたら手に触れたがる

 ご飯の後、調査継続。


「どうした」

「あれ」


 指差す魔法植物は普段害ない生き物だけど、採取しようとすると人間以上の大きさになって襲いかかってくる。


「狩るか?」

「そのままでいいよ。気をつけて通ろう」

「あれは危険指定生物だろう」


 狩るべきと言うことかな。国として指定しているのだから仕方ない。魔力を持つ動植物は大概駆除の対象だ。


「生態系はそのままが一番だよ」

「それは」

「それに、ほら」


 側に巣を構える鳥だったり小動物がいる。


「あの子のおかげで助かる子がいるんだよ」


 魔物と呼ばれる魔法動植物は駆除対象のものが多いが、実際攻撃的なものはそういない。襲われたというのは大概人間側が刺激を与えた故にだ。


「そうか」


 と、その時に父が言っていた言葉を思い出す。近付くとニウが危険だから止めろと言う。

 刺激を与えなければ問題ない。魔法植物に近付き、その側の鳥の巣を媒体にして生えてる植物、これだ。

 いくらかある内の少しを採取し、慎重にニウの元へ戻った。


「それは?」

「ぱ……父がまだ発表してない疫病特効薬の元」


 五年前、南西地域で猛威を振るった疫病に効くと父が研究していた植物だ。

 多少の加工は必要だが、加工後を煎じて飲むだけ。薬の割に飲みやすいし、効能も抜群。ただ採取が難しく、数が一度に多くとれないのが問題。

 効能について研究情報が少なく確実性がないと国には認めてもらってなかった。だから父は影ながら研究を続けていた対象のはずだ。その論文や資料を見てないけど、どこにしまったのか。今度捜し直そう。


「行こう」

「わかった」


 馬を走らせる。動物達はゆったり過ごしていた。見たところ、昨日のような傷はない。

 密猟をするなら、領地境から陸地を経由して運ぶか、北上した先の海を使って運ぶかしかない。

 昨日の子たちはナチュータン南側に生息してるから、南側中心で探るのに間違いなさそうだけど。


「休むか」

「うん」


 あんまり慣れないこと考えると眠くなるんだよなと思いつつ、密猟について考える。

 この三年、父が亡くなってから数える程しか来てないし滞在期間も短かった。長期間滞在しないと見えてこないかもしれない。


「ヴィール、寝ていないのか?」

「寝てるよ? ちょっと慣れないこと考えてた」


 目を瞑って考えていたのを眠くなったと思ったのか、ニウが心配そうに覗き込んでいた。

 そして私の手をするりととってくる。


「え?」

「寝るか?」


 その手の動き、なに?

 何度も私の手を指で撫でて、その後絡めてきた。指の間にニウの指が浅く入る。妙にこそばゆい。


「ニウ、手」

「なんだ」


 私の視線を追って繋がれた手を見やる。そのまま人差し指が私の手の甲を撫でた。

 なに、なんなのこれは。


「離して」

「何故」

「握る必要ないでしょ」


 ぐっと手を引こうとしてもびくともしなかった。離す気がさらさらないらしい。逆に指の股の深くまで入り込んでくる。


「なんなの」

「触れたらいけないのか」

「触れる以前の問題だと思う」

「ヴィールだからいいだろう」

「いやそこじゃないんだって」


 離れない。

 けど機嫌は悪くなっている。


「こんな土で汚れた手、触れるのは俺ぐらいだろう」

「汚くて悪かったわね」


 汚れてるの嫌なら離してと言ってもだめだった。


「嫌か」

「嫌とかそういうんじゃなくて、こういう触れ合いを気軽にするものじゃないって言ってるの」

「心地良くないか」

「はい?」


 なに言ってるの。

 論点がずれている。このぐらいの触れ合い当たり前なの?


「離して」

「応えてない」

「気持ちの問題じゃなくて、淑女のマナーとかそういうことを言ってるんだけど!」


 手をぶんぶんしてみる。離れない。なんだ、ここまでくると意地でも離さない感が否めない。


「離して」

「嫌だ」

「そのへんの美女引っかけて触ればいいじゃん」

「絶対嫌だ」

「いいじゃん! 綺麗で手入れされてるし」

「嫌だと言っている」


 ああもう! 諦めてぱたっと戻す。

 力は変わらず、離す気もなく、指が絡められたまま。


「なんなの」

「それはこちらの台詞だ」


 もういいやと思ってそのままにした。たまに指の腹で撫でながら、時間だけがすぎていく。

 たまにニウは想像し難いことを平気でやらかしてくる。泊まりといい、今のこれといい、貴族のマナー云々を抜いても独身男女がやることじゃない。

 でも言う程嫌じゃない自分もちょっとおかしいと思っている。


「ん?」


 静かになったからか、僅かな鳴き声が聞こえた。

 起き上がると、半分寝そべっていたニウが私を見上げてきた。


「どうした」

「静かに」


 耳を澄ます。もう一度、今度ははっきり聞こえた。


「近くにいる」

「ヴィール」

「ついてきて」


 極自然に手を解くことができた。ほっとしつつも、音をなるたけ立てずに、鳴き声の方へ向かう。茂みをいくらか越えた先に鳴き声の主がいた。


「やっぱり」


 罠にかかった動物。

 獣道だと分かった上で設置していた。


「希少種じゃないか」

「罠、とらないと」

「待て、危険だ」


 威嚇しながら爪で引っかいてくるけど気にしない。噛み付かないだけマシだし、この子は分かっている。

 罠を解けば素早く距離をとられた。その先に同じ希少種。襲わず見守っていたのは、この地の動物を手懐けた母のおかげかも。

 罠にかかっていた片足は折れてなかったし裂傷も浅かった。毒はついていないから、保護しなくても大丈夫だろう。終始黙って見ていたニウが静かに呟いた。


「希少種に特効薬か」

「ニウ?」

「やはりこの地域は保護すべきだ」


 義理母は土地を売れとしょっちゅう言っていたし、父の元にも売買を求める人間も多かった。元婚約者もこの土地を欲しがっていたぐらい。

 どれも動植物のことを考えていないから、父は丁重に断っていたけど。


「動植物の状態をこのまま保護すべきだし、密猟者も早急に捕らえないといけないな」


 一時的であれ、この土地の権限をニウが持っていてよかった。少なくとも彼が持つ期間、ここはこのままを維持できる。

 ニウは私の知る貴族とは違う。こんなにここのことを考えてくれるなんて思ってもみなかった。


「主人」


 急に呼ばれ振り返るとホイスが神妙な顔をして近づいてきた。何を悟ったのかニウが苦々しい顔をする。


「どうした」

「管理者と名乗る方が面会を求めています」


 管理者? そんな人いなかったはず。見上げたニウの表情は不機嫌そうだった。

たくさんの小説の中からお読み頂きありがとうございます。


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