24話 思い出のバスケット
父とここで研究してた時から、密猟の話はあった。けど、ここまであからさまなものはなかったはず。
「待った」
「またか……」
行動範囲が広がったら、もうあれもこれも持ち帰りたいことになった。
今回は群生地を発見。これだけ沢山あれば持って帰れる。やったね、今日は運がいいぞ。
「これか?」
「ニウ、素手はダメ」
専用の手袋して採取だ。
「毒か?」
「土から上は全部ね。でも根っこは薬になるよ」
「そういえば、伯爵の論文にあったな」
「よく覚えてるね」
毒と解毒を持つという。
毒だけを持つというのが多い中では珍しいかもしれない。
「ちなみにこっちが慢性中毒になった挙げ句、末期は吐血する例の毒草」
「そこらじゅう、それじゃないか」
種類は違うとはいえ、全部毒ありだ。
色んなのがあって、私にはなかなか楽しい状況。でもまあちょっと多いかなとは思う。
「前はこんなとこなかったけど」
「どういう事だ」
「繁殖力はそこそこだから、群生しててもおかしくはないんだけど、三年で増えるには早いかなって」
「そうか」
ニウが何か考え始めたから、その間にきちんと採取するに限る。まあ普段黙って待っててくれるけど、待たせるのもどうかという話だし、公爵さまさまを手伝わせるのもどうかと思うし。
粗方を採取し終え、近場をさらに探ると近くに川があった。念のため手を洗って日の当たる好立地でご飯だ。
シートを広げて、馬から荷を下ろして持ってくると、ニウが今まで一番驚いた顔をした。
「バスケット……」
「どうしたの?」
バスケットを凝視している。なにかこれにトラウマでもあるの。
「いや、まさか作ったのか?」
「うん」
「何故屋敷の者に任せない」
あ、急な不機嫌やってきた。
屋敷の人を信頼していないわけじゃないと伝えても納得しない。
侍女するなら料理スキルあってもよくないかと伝えても今は必要ないだろうと言う始末。
「なに? 私の作るご飯じゃ食べたくないわけ?」
「そうじゃない!」
「うそ、まずいと思ってるんでしょ」
「そうじゃない!」
「なら、そんな嫌がることないじゃん」
嫌というわけでは、とニウがごにょごにょし始めた。
「ナイフとか使うだろう」
「料理だから当然でしょ」
「どうせ、また一人で料理したんだろう」
「もちろん」
ローミィがいたら、もしかしたら隣り合って作らなくもなかったけど、あっちの屋敷は知らない人ばかりだし、相変わらず私に侍女つけないようニウに言ったから、関わる人がそもそもいない。
まあ厨房と食材貸してと言ったら驚かれたし、シェフがおろおろしてこちらを見るから、キッチンから出て行ってもらったけど。たぶんそういうところで手伝ってもらうとか全部お願いしろという意味なんだろうな。
「危ないだろう」
「……は?」
え、そっち? 論点そこなの? 料理の際の刃物が危険的な?
「私をいくつだと思ってるわけ」
「違う、そうじゃない」
「ナイフぐらい扱えるし」
「だから、そうじゃ」
「ああもううっさい!」
「なんだと、人が、」
「分かった、もう食べなくて結構!」
「なんだと」
眉間の皺がすごいことになってたけど無視した。
折角ロケーションもよくて、美味しく食べられそうなのに、食べるまでにこんなごねられるなら、一人で食べた方がマシだ。
「文句ばっか言う人は食べなくていい!」
「待て!」
「食べてみなきゃ美味しいかわからないじゃん。一生懸命作ったのに!」
「!」
「全部一人で食べる」
中からごそごそ取り出した。一応簡単に食べられるようサンドイッチにしたのに。私の気遣い無意味。
「待て!」
ぱしりとご飯を手に持つ手をとられる。
「危なっ、落としちゃうでしょ」
「食べる」
「だから、いいって」
「食べないなんて言ってない!」
「やだ! 喜んで食べてくれる人にしか食べて欲しくない!」
くっと喉の奥を鳴らして、ささっと手に持っていたのを奪われた。そのままあっさり口に入れて。
「ちょっと!」
「……」
奪われないよう一気に食べたし。
「ああもう」
「………………い」
「なに」
「…………美味しい」
「……」
「……」
なんなの、ニウってば。
そんな顔赤くして言うこと? なんだかこっちまで顔赤くなりそう。
「ちゃんと美味しい」
「……ちゃんとは余計」
「……」
「……ほら」
すっとバスケットを渡す。ここまでくると恥ずかしい。
「た、食べて」
「……ああ」
ニウは少し目を丸くして、私とバスケットを交互に見た後、手を伸ばした。
なんだかそれが少し可愛いと思ってしまって、小さく笑ってしまう。
「……悪かった」
「ん……私もムキになった」
ゴメンと小さく謝ると、ニウは意外だという顔をした後、手を伸ばした。
その手はバスケットの中ではなく私に伸びてきて、掌で頬を撫で、親指の腹で目元を拭っていく。
少し笑っていた。
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