表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
平民のち怪盗  作者: 参
22/63

22話 ヤキモチのち御褒美の提案

「じゃそろそろ帰るから」

「おう……どうした、ヴィール?」


 挙動不審だけど、と言われる。いやもうニウとそんなんじゃないのに。

 子供達もいなくなったし、恋人云々の話でもする? いやそれも違う気がする。


「ああ、ニウか?」

「うっ」

「はは、お前わかりやす」

「やめてよ……」


 年齢が近くて話しやすい彼の名はブリット。私より五つくらい年下の割に大人びていて、今度騎士募集に申し込む。そのせいもあってかニウとはよく話しているし、稽古もつけてもらっているようだった。


「そんな仲良いつもりじゃないのに」

「はは、どんまい」

「どんまいて」

「んー、まんざらでもないんだろ?」

「どう解釈したらそうなるの」

「お、旦那が来たぞ」

「え? 旦那って」


 ぐいっと肩を掴まれ引き寄せられる。とんと、掴まれてない方の肩が触れて見上げれば息が止まった。

 近すぎでしょ。否応にも思い出してしまうから止めてほしい。


「!」

「油断も隙もない」

「はい?!」

「ブフッ」


 目の前の彼は吹き出すし、ニウは不機嫌だし、なんだっていうの。


「なに? 離してよ」

「嫌だ」


 逆に力が強くなった。なんでよ。


「ヤキモチか?」

「え?!」


 ブリットに言われ視線を戻せば、生暖かい目でこちらに微笑む。対してニウは何も言わない割に不機嫌度だけが増していた。どっちが年下なのと言わんばかりの状態じゃない。

 ヤキモチって……本当に?

 私に好意があると言うのが本当であれば、私が男の人と仲良くしてれば気に入らないかもしれないけど、それにしても心狭すぎじゃない? というか、今の今までいつも通りの態度だったから、あの夜のことはなかったんじゃないかと思ってたぐらいだった。

 見上げても、眉間に皺寄せてこちらを見ないニウ。なんなの。


「ねえニウ、ヤキモチも度が過ぎると可愛くないよ」

「誰が、焼きもちなんか」

「じゃあなんでそんなに怒ってんの」

「怒ってない」

「そんな不機嫌顔して否定しても説得力ないし」

「違う」

「はい?」


 拗ねている。

 明らかに拗ねているのに認めない。なんなの、ニウってば。

 顔つき怖くて上から目線で自意識過剰だけど、こんなとこで意地張るなんて思ってもみなかった。

 もう一つぐらい文句でも言おうかと思った時、ブリットがまーまーと言って間に入ってくれる。

 ブリットの方が圧倒的に大人の対応な気がするけど。


「ほら帰るんだろ?」

「まあそうなんだけど」

「じゃ、さっさと帰れ。ニウも次、剣合わせるのよろしく」

「ああ」


 私たちの背中を押して帰らせようとする。肩を抱く手は離れ、距離ができてほっとするも、すぐにその手は私の手に絡められる。

 びくっと肩が鳴ってしまうと、私を見下ろすニウが微かに笑った気がした。

 こやつ、今日やたら触ってくるな。

 そのまま貧民街を抜けて、護衛を連れて帰路に入った。


「あ、そうだ」

「どうした」

「ちょっとあそこ寄りたい」


 道中広場を指差すと、分かったとあっさり頷かれた。手は絡めたまま、時折指で私の手を撫でてくるけど無視を決め込んだ。思えばニウはやたら私に触る気がする。


「あ、あった」


 あっさり手を離してくれた。

 やっと離せてよかったと思いつつ、目的のものに手を出す。これは触っても大丈夫なやつ。


「あ、ニウはそこにでも座ってて」

「何をする気だ」

「採取」

「……」


 今この時に? という顔だ。いつしたっていいと思うけど。


「いいじゃん、この前の潜入のご褒美的な」

「褒美?」

「研究の時間をもらう。これがご褒美」


 セルフご褒美だけど。

 護衛はニウの側に立ったまま、私はニウの手の届く範囲でサンプル採取だ。このあたりの分布図はかなり精度の高いものになった。実にいい。


「うふふふ」

「嬉しそうだな」

「もちろんだよ」


 大量に手に入った。気分がすごくいい。しかも薬草だ。この前採取した時に取り損なったものだろうけど、ここで改めて回収できてありがたい。また加工してラートステに買い取ってもらったり、貧民街に寄附しよう。


「そうだ」


 採取後、家の前まで送ってもらったついでに、今現在までの分布図をニウに見せることにした。

 みるみるニウが考える時の顔になった。


「薬草がやたらこの辺りに集中しているな」

「そうだね、まあここから拡大してるんだと思う」

「……」


 貧民街と平民街の間から恐らく始まっている。動物、この場合鳥の可能性が高いのだけど、運んできた種が丁度ここだったのだと思う。けど、いかんせん増えるのが早い。小難しい条件は必要のない植物だけど、にしては三年での拡大幅は大きい。

 それに懸念すべきは、薬草にまじって毒草も拡大していること。最初は薬草。後から徐々に毒草が広まっている。


「これの写しは」

「ないから、今度作って持ってくよ」

「ああ、助かる」


 ニウは相変わらず考えたままだった。

 その視線がすいと私を捉える。


「褒美とやらだが」

「え、その話まだ続いてたの?」

「ナチュータンに行くか?」

「え?」


 その名は父の所有していた土地。私が継いで奪われた土地、北東の辺境だ。

たくさんの小説の中からお読み頂きありがとうございます。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ