21話 ふたりはつきあってるの?
「なんでついてくるの」
「一人は危険だろう」
あんなことがあった割にいつも通りだ。あれってお休みのキスかなにかだった? そんな話、きいたこともないけど。
私、確かに告白されたんだよね? 全然そんな雰囲気なくて通常運行。なんなの。
「ヴィール!」
「ニウも一緒?」
貧民街、いつの間にか子供達がニウのことを覚えてしまった。
そして何気なく連れて来ている護衛は貧民街から見えないところに控えている。たぶんニウなりに気を使ってくれたんだろうけど、それでもここに来る理由がよくわからない。危険はないと分かると思うけど。
ラートステの息のかかったエリアでは基本争いは起きない。この貧困状況を打破するのは、ラートステだってそう簡単にいかないのだろうけど、日々改善は見られている。
「ニウ、剣の練習して」
「ああ」
そして、ニウが何気なく万能だと知ることができる。子供大人問わず相手に剣の扱い方、文字の読み書きを教えるようになっていたし、仕事を視野に入れた大人達もちらほら経済の仕組みだの難しい話を聞きにきている。
「じゃ、私はこっち」
「分かった」
ニウが公爵であることは知られていない。ラートステも私も話さなかったし、彼も名前だけで、姓まで名乗らなかった。まあ見た目から高貴な身分の御方という認識で皆いるみたいだけど、それだけで取り入ろうという人間はいなかった。
そこの剣を教えてもらっている子供もそう。
最初こそお金よこせみたいなことを言っていたけど、ニウが自分で稼げとばっさり切り捨てた。その選択の一つとしてニウは身分関係なく、なることができる騎士募集の情報を提供したのだ。勿論、それ相応の苦労をすることを前提に。たぶんそういう会話を何度も経たからこそ、この貧民街の人間はニウを認めたんだと思う。ただ施しだけをするのではなく、対等に向き合うから。
「もう大丈夫」
「ほんと?」
「うん、もう道端の草は食べないでね」
「うん」
見分けがつくにはそれなりに知っていないとわからない。それぐらいぱっと見、毒には見えないものだ。
「ねえ、ヴィール」
「なに?」
「おしえてほしい」
「?」
「その、何が毒で、何が薬か……分かるようになりたい」
二度と自分と同じ人間を出したくないと言う。素敵な心がけだ。喜んでと応える。ゆくゆくは薬師や医師になれるかもしれないから、今の内から勉強するのはいいことだ。
その子と一緒に外に出る。久しぶりの外に嬉しそうに走って子供達の輪に入っていった。
「どうだった」
「もう大丈夫」
入れ違いでニウがゆっくりこちらにやって来る。
事情はもう話している。容態に問題なく、今後は日常生活を問題なく歩めることを伝えた。
「しかし、どうして。この辺りに毒のあるものは分布してなかったはずだ」
「んー、そういえば三年前くらいから見るようになったかも」
「三年前か……」
分布図を渡すことを提案し、ニウは考えている様子のまま頷いた。私も気になったから三年かけて作ってはいた。ほぼ出来てるのがあるから丁度いい。
「ヴィール」
「はいはい」
「はいは一回だ」
「いいじゃん、子供の前だし」
「子供の前だからこそ、手本になるよう振る舞うものだ。真似するぞ」
「ええ……」
自分の子供でもないのだけど。というか、ここでそこまで気をつけなきゃいけないの、きつい。
子供たちが目の前で会話を聞いてるわけでもないのに。
「ここを出て働きに出る時、最低限必要なものを揃えておくべきだ」
「そうだとしてもさあ」
そういうとこは優しいのね。爵位のある人間なんてって思ってた時もあったけど、ニウは稀な人間なのかもしれない。
そんな私たちのやり取りを見て、きょとんとした顔をした子供の内数人が何気なく爆弾を投下した。
「ふたりはつきあってるの?」
「え?!」
「はい?!」
こればかりは私同様、ニウも驚いた顔をした。珍しい顔だな。っていや違う、どうして今の掛け合いを見てそうなるの。
慌てる私とニウなんておかまいなしに、小首を傾げた可愛い子が、さらに追い打ちをかけてきた。
「こいびとどうしなの?」
「!」
「はあ?!」
なんてことをきいてくるのか。いくら子供でもそういうのはだめだよ。
「恋人同士……」
「そ、そんなんじゃないよ!」
「ヴィール?」
「ニウ?」
反対側にもう一度小首を傾ける。可愛いな、いやそうじゃない。
「待て、そう見えるのか?」
「待つ必要ない内容だよ。ほら皆行くよ」
「ヴィール」
ニウが呼ぶのを無視して、子供たちを一纏めに。そこを大人に預けて終わりだ。
今日はもうさっさと帰ろう。
なんだって直近とんでもないことが起きてたんだから、どう足掻いてもそれを思い出す。
もう一度ニウが私をの名前を呼んだけど、子供たちを連れて足早に彼から離れた。
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