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平民のち怪盗  作者: 参
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2話 怪盗落ちる、のち出会う

 大きな屋敷の屋根の上、私は感慨深い思いに浸りながら夜風を浴びている。


「怪盗なんてしてないで研究したいなあ」


 今、私は二度目の三年前を体験している。

 最初の破棄の時、今回と同じく父の死の原因が私という理由で婚約破棄を言い渡された。


「パ、パパは病気で」

「お前が毒殺した」

「違っ」

「死刑でない事に感謝しろ」


 冤罪も甚だしいけど、権力関係には抗えず、私の罪は確定。

 仕方なく屋敷に戻っても、父と再婚した義理の母親は私を入れてくれなかった。


「せめて研究資料を」

「あれは夫の物、貴方に所持する権利はないわ」


 そうあしらわれ、私は途方に暮れた。

 道中転んで手と膝を擦りむき血を滲ませ、形見であるかんざしを強く握りしめる。


「研究だけは」


 その時私は相当混乱していた。縋る思いで母から教わったおまじないを囁く程度に。気休めの言葉遊びだ。

 そしたら簪が光り、目の前も光り、気づいたら三年前。

 研究資料の進みからも、それが見て取れた。


「これか」


 もう一度おまじないをしてみたけど、何も起きなかった。

 そこからは同時進行。

 簪の力を探りつつ、屋敷から研究資料を移す作業だ。

 父の研究室を整理していると、平民街で契約していた住居一室があることを知り、すぐにそこへ行った。それが今の私の住居。部屋には生前母が金庫と言っていた小さな箱が二つあった。

 一つは開いたけど、もう片方は開かなかった。魔法だ。


「ママ」


 開いた方の箱には、亡き母からの手紙があり、簪について書かれていた。簪は逆行できる魔法のかかったもので、母が教えてくれたまじない言葉で発動する。戻れる時間は本人の意思次第。ただし戻れても身近な人の死より前には戻れない。つまり私の場合は父の死より前には戻れない。

 簪についてさらに調べつつも、私は来たる破棄の日に備えることにした。

 幸い破棄当日一年前に全ての研究資料を移動できた。父殺しの汚名返上はできなかったが、研究を継ぐことはできる。


「あの日がなければなあ」


 想定外のことが起きた。

 破棄直前。

 肌身離さず持っていたのに、夜道襲われ簪を奪われてしまった。

 どうしても取り返したくて、ラートステに相談した。そしたら彼いや彼女が有力な情報を持ってきてくれた。

 曰く、貴族間で横行している闇取引の中にあるかもしれないと。簪は東の国にある珍しい一品、取引されてもおかしくないという。だから私は危険を承知で闇取引の現場に潜入することにした。

 それが始まり。


「さてやるか」


 闇取引や闇オークションが頻繁に催されていることを、こうして潜入することで知ることになった。

 しかもこの建物の構造もすごい。闇取引用に別部屋を造っている。なので建物の空間が多く、天井裏や壁の間も人が通れるくらい隙間があったりする。私にはありがたい構造だ。


「本日の品は…………」


 日夜通って私がこっそり穴をあけたのもあるけど、造りが甘いこともあり、あちこちから覗けるという。

 でももうここも終わりかな。屋敷の主が私の求めるものを持っていないようだし。


「よし、誰もいない」


 取引現場から場を外し、盗品を保管している部屋に侵入した。


「今日も少しばかり持って行こっと」


 ということで、盗品のいくらかを回収する。元ある場所に戻すだけだからという理由でやってたりするけど、たぶん知られたら私は今度こそ首が飛ぶ。まあここまできたら知ったことかと吹っ切れているけど。

 放っておくのも嫌だった。奪われた持主が大事にしていたものかもしれないと思うと返したくなった。形見を求める私自身と重ねてしまった、ただの自己満足。それでもよかった。


「むむ」


 人の騒がしい音が聞こえたので身を隠す。

 ガタイのいい男が三人入ってきた。逃げ道である壁に身を預け、いつでも逃げられるよう態勢を整える。


「おい」

「チッ、怪盗め」


 ラートステとの約束の一つ。盗品等を回収した場合、カードを置いていけと言われている。紙質や文字で足がつきそうだけど、そこはラートステがうまくやっているらしい。

 そしてカードには、怪盗参上、と書いてある。

 ラートステ曰く、怪盗ものならこうしたカードとかメッセージ性の高いものが必要なんだと言う。言っていることが良く分からないのはいつものことだけど、カードが見られた以上、さっさと逃げるに限る。

 先程の品々の中に簪はなかったし、取引してる様子からもなかった。もうここに用はない。今日も不発か。

 逃走用の壁をくぐり、天井裏へ移動した。


「天井裏から屋根に登るか」

「ねえ、もう帰りましょうよ。予定外です」

「いやいける、進むぞ」


 移動中、真下から声が聞こえる。隙間から覗くと若い男二人が廊下を歩いていた。

 風貌からして貴族で間違いないけど、話の内容が気になる。ここにいられないはずの人間なのは、焦って言葉をかける男の言葉で容易に分かったから。


「現場を押さえてしまえばいいだろう」

「まだ早いです」


 警備隊でもなさそう。

 そもそも正規の警備隊はここを知るはずもない。中にいるのは屋敷を所有している貴族の私兵。捕まれば無実の罪で始末される可能性もあるのに。


「ん?」


 ぎしりと嫌な音がした。


「あ」


 うっかりしていた。

 そうだ、この辺の木材弱くなっていたんだった。目印きちんと貼らなかったことが悔やまれる。

 ひとまず場所を変えようと動く。それが間違っていた。


「げ」

「なんの音だ」

「ええと、え?」

「やっば」


 バキバキといい音を出して私は落下した。

 真下にいる若い男が音に気付いて見上げた時、ばっちり目が合ってしまった。


 天井きちんと作っておいてよ。

たくさんの小説の中からお読み頂きありがとうございます。


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